学校では今 【第15回】「話し合いの力」を育てよう‐小泉和義‐

学校現場ではたくさんの「話し合い」の場面があります。この「話し合い」をとおして子どもたちは「議論する力」を身に付けていきます。これからの社会でとても必要とされるこの「議論する力」についてお話しします。



授業では「話し合い」活動を重視

今、学校の授業場面では、話し合いの活動が増えています。教室の机をコの字型にしてクラス全員で行う場合や、4人程度のグループに分かれて行う場合など、形態はいろいろとあります。ではなぜ、話し合いの活動が増えているのでしょうか。理由は二つあると考えます。

一つは、子どもが主体的に授業に参加できるようにするためです。先生の話を一方的に聞く授業は、受け取る情報量が多いため、知識を吸収するだけなら効率がいいのですが、子ども側に主体的に聞く姿勢がなければ、頭に入ってきません。場合によっては一言も発言せずに授業が終了することもあります。一方、話し合いを取り入れた授業では、自分自身が発言をすることが前提になっています。先生から投げかけられた問題を、一人ひとりが意見を出しながらみんなで解決していく授業は、おのずと子どもたちの授業への参加意欲が高くなります。結果として、習得できる知識の量が少なかったとしても、考えたり、判断したり、表現したりする力が育つのだと思います。
ただ、知識をしっかりと習得することも大事ですので、学校では、以前よりも家庭学習の充実をはかり、宿題の出し方に工夫をするようになっています。家庭学習と学校での授業をセットにして学力を高めるようにしているのです。



自分にとって切実な問いを投げかけること

話し合いの活動が増えているもう一つの理由は、文字どおり「話し合う力」を育てるためです。しかし机をコの字型にして話し合いの形態をつくるだけでは、「話し合う力」はつきません。そのため、授業の中で先生はさまざまな工夫をしています。たとえば、グループの中で、司会や記録をとる人を輪番制にしたり、あえて賛成意見、反対意見を言う人を決めたりしながら話し合いが活発に行われるようにします。そして、最も大切なことは、子どもにとって切実な課題を話し合いのテーマにすることです。ある小学校の先生が次のように話していました。
「私の担任のクラスには31名の子どもがいますが、2人組のグループを作って遠足に行くというテーマで話し合いをしました。当然2で割り切れませんから、1人余ってしまいますよね。好きなもの同士でグループを作れば、仲間はずれがでてしまう。どういう方法ならみんなが納得する解決策になるかを子どもたちが真剣に話し合いました」
子どもにとって切実な問いを投げかけると、子どもたちは当事者意識をもって解決しようとします。そして、自分の主張を押しとおそうとするだけでなく、相手の意見を聞きながら、どこかで自分も妥協しながら、新しい解決策を探していこうとします。そうした活動をとおして「話し合いの力」は育っていくのだと思います。

話し合いの力とは、「相手を打ち負かす力」ではなく、相手とともに「新しい価値を生み出す力」なのです。それが、これからの社会でも必要とされている「議論する力」だと思います。
さて、さきほどの小学校の先生の話ですが、どのような結論になったのかは教えてもらえませんでした。あなただったら、どうしますか?


プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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