「広き門」続く教員採用、でも半数は講師経験者‐斎藤剛史‐

学校にも人事異動の季節が近付いてきました。4月になれば新規採用の若い先生もやってくることになります。現在の新規採用教員はどんな人たちで、どれくらい厳しい採用試験を通ってきた人たちなのでしょうか。文部科学省がまとめた2013(平成25)年度公立学校教員採用選考試験調査の結果から、全体像を見てみましょう。

大きな特徴は、第2次ベビーブーム時代に大量採用された教員が退職時期を迎え、その穴を埋めるため新規採用者数が増加したことにより、教員採用試験が「広き門」となっていることです。最近10年間の競争倍率の推移を見ると、公立学校全体で2004(平成16)年度は7.9倍だったものが13(同25)年度には5.8倍に低下しています。学校種別では、小学校は2004(平成16)年度4.8倍が13(同25)年度は4.3倍に、中学校は11.8倍が7.5倍に、高校は14.1倍が7.7倍に、などといずれも低下しています。また2013(平成25)年度採用試験では、68都道府県・政令指定都市等のうち40府県市で競争倍率が前年度より下がりました。競争倍率が高かったのは、青森県の12.6倍、鹿児島県の11.8倍、宮崎県の11.6倍、長崎県の11.1倍など。逆に競争倍率が低かったのは、富山県、香川県、北九州市の各4.0倍、滋賀県、静岡市の各4.1倍、岐阜県、新潟市の各4.2倍、千葉県・千葉市、さいたま市の各4.3倍などでした。
競争倍率の低下は新規採用教員の「質の低下」につながりかねないため、教育委員会は受験者を集めるため積極的にPRしています。しかし、教員採用試験の受験者数はやや増加しているものの、採用者数の伸びがそれを上回っているため、結果として競争倍率が下がっています。教育関係者の間では、教員勤務の多忙化や教員に対する社会の目が厳しくなっていることなどにより、以前より教員人気が下がっていることが影響していると指摘する向きもあります。

ただし、採用試験が「広き門」となっても、教員志願者にとってはまだまだ厳しいようです。採用者のうち新規学卒者の割合は32.2%(前年度32.0%)で、残りの67.8%(同68.0%)は「既卒者」でした。また、採用者のうち非常勤講師など何らかの教職経験のある者は51.2%(同54.8%)でした。新規採用教員の半数以上は非常勤講師などをしながら採用試験の合格を目指していたことになります。このほか、民間企業等経験者(アルバイトを除く)は5.9%(前年度5.5%)となっており、やや増加しています。
採用試験の競争倍率はどの程度が適切かというのは意見の分かれる問題でしょう。それでも採用試験の競争倍率の低下という問題は、教員の質を保つ意味からも見過ごせません。優秀な人材を確保するためにも大学生や民間企業等経験者の間で教員志願者の裾野を広げることが重要であり、それには教員が社会的に魅力のある職業であることが必要です。

社会の風当たりは依然として強いようですが、教員という職業の人気が下がれば、学校教育全体の質の低下を招く危険性があるという視点も忘れてはならないと思います。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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