いじめ防止や「市民性」も 道徳の教科化で‐渡辺敦司‐

文部科学省の有識者懇談会が道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)とする方向で検討していたことは以前の記事で紹介しましたが、正式な報告書(外部のPDFにリンク)が2013(平成25)年末にまとまっています。これを今後どう具体化するかは学習指導要領の改訂を検討する中央教育審議会に委ねられることになりますが、指導要領の全面実施が東京オリンピック・パラリンピックに合わせた2020(平成32)年度からとなる見通しであるのに対して、文科省は提言内容を前倒しで実施したい考えです。道徳教育がどう変わるのか、報告書を見てみましょう。

報告書は、道徳教育を「国や民族、時代を越えて、人が生きる上で必要なルールやマナー、社会規範などを身に付け、人としてより良く生きることを根本で支えるとともに、国家・社会の安定的で持続可能な発展の基盤となるもの」と位置付けたうえで、道徳教育の現状について、

▽歴史的経緯に影響され、いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮がある
▽道徳教育の目指す理念が関係者に共有されていない
▽教員の指導力が十分でなく、道徳の時間に何を学んだかが印象に残るものになっていない
▽他教科に比べて軽んじられ、道徳の時間が、実際には他の教科に振り替えられていることもあるのではないか

といった課題を指摘。一方で今、グローバル化や情報通信技術(ICT)、少子高齢化の進行、自然災害の発生など、正解のない社会状況に対応しながら一人ひとりが自らの価値観を形成して人生を充実させるとともに、国家・社会の持続可能な発展を実現することが求められるとして、道徳教育の役割に改めて期待を掛けています。

充実すべき内容としては、

(1)いじめの防止や生命の尊重
(2)困難に屈しない心、自律心
(3)家族や集団の一員としての自覚
(4)多様な人々が共に生きていく上で必要な相互尊重のルールやマナー、法の意義を理解して守ること
(5)社会を構成する一員としての主体的な生き方
(6)グローバル社会の中での我が国の伝統文化といったアイデンティティに関する内容や国際社会とのかかわり

を例示しています。また、子どもの発達段階に合わせて、自分自身も社会に参画して役割を担っていく立場にあることを意識させたり、社会の在り方について多角的・批判的に考えさせたりする「シチズンシップ(市民性)教育」の視点に立った指導も重要だとしています。

懇談会では現行の道徳教育教材『心のノート』の全面改訂作業も進めており、名称も『私たちの道徳』と改めて2014(平成26)年4月から全国の小・中学生に配布し、学校で使用してもらうことにしています(近く公表予定)。新しい道徳教育の本格的な実施には中教審の答申を待たなければなりませんし、正式に教科化が決まっても検定教科書の発行までに最低3年かかります。文科省は、それまでは『私たちの道徳』を教科書代わりに使ってもらうことで、実質的な前倒しを図るものと見られます。また、2014(平成26)年度予算(外部のPDFにリンク)にも先生方に道徳教育の指導方法を研究してもらうなどの予算案を計上しています。
以前紹介したように過去に受けた授業を「覚えていない」というのではなく、後々まで心に残り、人生にも大きな影響を与える道徳教育を期待したいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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