保護者もITの「指導者」に? ‐渡辺敦司‐

政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)がこのほど「創造的IT人材育成方針」(外部のPDFにリンク)をまとめ、成長戦略の柱としてIT(情報技術、「通信」を加えてICTとも)の人材育成に国を挙げて取り組むことになりました……などと書くと何だか教育情報サイトではなく経済サイトのようですが、これが保護者の方々にも直接関係する話だと言ったら驚くでしょうか。IT人材育成の指導者として、学校の教員とともに「就学前の子どもから高校生までの保護者」を位置付けているからです。

同方針では、就学前の子どもから高齢者まで、働いているか働いていないかにかかわらず、すべての国民のITリテラシー(活用能力)をアップさせることで、さらなる経済成長を図ることができるとして、2020(平成32)年までに「世界最高水準のIT利活用社会」の実現を目指す(外部のPDFにリンク)としています。そのため国民に必要な情報リテラシーを、

(1)情報の読解・活用力
(2)情報の創造・発信力
(3)情報安全に関する知識・技能
(4)情報社会における規範に関する知識・態度

に分け、各層に応じて求められるITの能力項目を設定しています。
とりわけ次世代を担う子どもたちのITリテラシーをどう育てるのかが、将来の社会発展のカギを握ることは言うまでもありません。もちろん現在でも学校では情報教育に力を入れていますが、同方針では学校の教員と並んで家庭でも「就学前の子どもから高校生までの保護者」をITの指導者として「特に重要」だと位置付けたことが大きな特色です。

もちろん就学前から高校生といっても幅広く、成長の度合い(発達段階)によって指導すべきリテラシーは異なります。同方針は子どもを「就学前の子ども・小学校1年生から3年生」「小学校4年生から6年生」「中学生」「高校生」に分け、IT機器に慣れ親しむ段階の小3までは「(1)情報の読解・活用力」と「(4)情報社会における規範に関する知識・態度」を扱い、IT機器をコミュニケーションツールとして使い始める小4からは「(2)情報の創造・発信力」と「(3)情報安全に関する知識・技能」も加え、中・高校生には小学生で身に付けた基盤に立って(1)~(4)をさらに発展させるとしています。そして、それを学校の先生だけでなく、保護者にも子どもの学齢段階に応じた指導力をつけるよう求めているのです。

特に(3)の情報安全と(4)の情報規範に関しては、「指導が求められているにもかかわらず、……保護者が研修を受ける環境が整っていない」と指摘し、「保護者の指導力を補強していく仕掛けづくりが必要」だとしています。当サイトでも加納寛子・山形大学准教授が「ネットいじめ」を防ぐための保護者の役割について詳しく解説しているとおり、子どもを守るためにもITの知識と子どもに対する指導は不可欠になっています。国として指導力を求めるなら、単に家庭の責任や努力に任せるだけでなく、具体的な支援策を立てることは当然でしょう。「学校と家庭とをシームレス(継ぎ目なし)につなげる教育・学習環境を構築する」(同方針)ためにも、不可欠なことです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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