「デジタル教科書」いよいよ実現へ IT戦略で動き出す? ‐渡辺敦司

仕事や日常生活にパソコンをはじめとした情報通信技術(ICT)を活用することが当たり前になる中、「子どもが使う教科書をデジタル化すべきだ」という指摘がなされていましたが、なかなか実現しませんでした。それがここにきて、ようやく動き出すことになりそうです。政府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(IT総合戦略本部)が2013(平成25)年末にまとめたアクションプラン(実行計画)(外部のPDFにリンク)に、「教科書の電子化」の検討が盛り込まれたからです。

いわゆるデジタル教科書には、教師用(指導者用)と児童・生徒用(学習者用)の2種類があります。このうち教師用デジタル教科書の整備率(外部のPDFにリンク)は全国平均で32.5%(2013<平成25>年3月現在)とまだ少数ですが、前年同期に比べて9.9ポイント増えており、急速に普及している様子が伺えます。これには、各学校で電子黒板が普及していることを背景に、教科書会社が電子黒板用に教科書のデジタル化を進め、わかりやすい授業づくりのために活用してもらおうとしていることが大きな要因としてあります。

しかし、子ども用の教科書のデジタル化には、さまざまな課題があります。まず、紙の教科書のように使えるタブレット型などの端末が学校に普及していることが前提条件です。それだけではありません。教科書のデジタル化は単にペーパーレスにするというだけでなく、学習効果を高めるため、音声や動画にリンクしたり、書き込みを教室内で共有したりすることも期待されます。それには著作権の問題や技術的な問題もさることながら、コストの問題もからんできます。現在、国から無償で給与されている小・中学校の紙の教科書は1冊1,000円もしない低額に抑えられていますが、はるかにかさむコストを誰がどう負担するかも問題になってきます。

政府は2010(平成22)年6月、デジタル教科書も含め20(同32)年度までに1人1台の情報端末による学校教育を実現させる目標(外部のPDFにリンク)を立てました。一方、教科書会社や情報端末メーカーなどでつくる「デジタル教科書教材協議会」(DiTT)は政府目標を5年前倒しして2015(平成27)年度とするよう提言していましたが、なかなか展望が見えてこなかったのが現状です。そこで政府は2013(平成25)年末6月、成長戦略の一環として閣議決定した「世界最先端IT国家創造宣言」(外部のPDFにリンク)で、デジタル教科書・教材の位置付けや制度、環境整備に関する検討を明記した新たな工程表(外部のPDFにリンク)を示していました。

文部科学省が2011(平成23)年4月に策定した「教育の情報化ビジョン」(外部のPDFにリンク)では、学校教育の情報化を、単に情報化が進む社会に対応するというだけでなく、子ども一人ひとりに応じた「個別学習」や、子どもたち同士が教え合ったり学び合ったりする「協働学習」など学習の質を高める「学びのイノベーション(技術革新)」につながるものと位置付けています。子ども用デジタル教科書の普及はその大きな第一歩であり、早急な推進が期待されます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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