「インターネット大学」が全国化へ 変わる大学像‐斎藤剛史‐

大学1年生になり、今日から授業が始まる。自宅のキッチンで朝食を済ませ、さて、授業を受けに行こうかと立ち上がって、自分の部屋に入りパソコンの前に座った……新年早々の初夢ではありません。もうすぐ、こんな光景が普通に見られるようになるかもしれません。文部科学省の協力者会議が、現在は構造改革特区のみに限られている「インターネット等のみを用いて授業を行う大学」(インターネット大学)の全国展開(外部のPDFにリンク)を認める方針を打ち出したからです。

大学の通信教育課程では、現行でもインターネットによる授業だけで卒業必要単位を取ることが可能ですが、授業の場所や指導補助者の配置などの制限が付いた例外的措置の位置付けとなっています。さらに、通信教育課程のみの大学の場合でも大学設置基準で定められた面積の校舎や施設の保有が義務付けられており、実際には通常の大学と変わらない施設・設備が必要でした。
一方、政府の構造改革特区では、通信教育課程の校舎面積の基準などを弾力化して、最低限の施設でインターネット大学を設置できるよう規制を緩和しており、現在、サイバー大学(福岡市)とビジネス・ブレークスルー大学(東京都千代田区)の2校のインターネット大学が設置されています。これに対して、インターネット大学の全国展開について検討していた文科省の協力者会議は、校舎面積などの規制を緩和し、全国どこでも最低限の施設でインターネット大学を設置できるようにすることを求めた報告書(外部のPDFにリンク)をまとめました。

インターネットのみの授業で卒業できる大学の全国展開を認めるかどうかでは、協力者会議でも賛否両論があったようですが、最終的には「インターネット大学という区分を設け、当該区分に適用される特例を追加的に規定するという形式を取る」と結論しました。具体的には、大学通信教育設置基準を改正し、インターネットなどのみで授業をするインターネット大学を制度化します。
インターネット大学は、通常の通信教育課程のような校舎面積の規制は受けませんが、学長室・事務室・会議室などの施設を持つ校舎を備える必要があります。また、インターネット授業の設計・配信に関わる専門職員の配置なども求められています。

さまざまな可能性を持つインターネット大学ですが、教育の質の保証など依然として多くの課題があり、実際にどの程度のインターネット大学が誕生するかは未知数です。しかし、以前当コーナーでもご紹介した、世界中の有名大学が参加する「大規模公開オンライン講座」(MOOC=ムーク)に東京大学が加わることが大きなニュースになったように、インターネットの普及とそれに伴う情報通信技術の急速な進歩は、大学教育にも大きな変化をもたらしつつあります。日本におけるインターネット大学の制度化は、全国でどの程度設置されるかという問題とは別に、これまでの大学教育の在り方についても大きな影響を及ぼす可能性があると言えるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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