「朝練禁止」だけじゃない……望ましい部活の在り方は ‐渡辺敦司‐

部活の「朝練」の禁止は、是か非か……。中学校の運動部活動の在り方に関して長野県教育委員会が示した方針が全国的に報道され、話題になっています。しかし示された方針は、決して朝の部活動だけではありません。中学校の運動部活動はどうあるべきか、全国に共通する問題を投げ掛けているように思えます。

県教委の報告書によると、97%にのぼる中学校で朝の練習を「ほぼ全ての運動部が通年実施」しています。80%以上の生徒が7時前に家を出ており、5人に1人は6時半より前だといいます。
朝だけではありません。長野県では放課後の部活動に加え、練習時間を長くするために「運動部活動の延長として行われている社会体育活動」が実施されています。顧問も部員も同じ。これらを合わせた1日の活動時間は3時間という学校が最も多く、それを超える学校も少なくありません。平日の活動終了時間は、19時という学校が多数を占めています。
朝練習の影響もあって、長野県の生徒は早起きです。6時前に起きる中学生は27%で、全国平均を16ポイントも上回っています。早起きの習慣がつくのはけっこうな話ですが、睡眠時間は短めです。部活動は家庭での学習時間も圧迫しているようで、平日に2時間以上学習する生徒は全国平均より6ポイント少ない30%でした。
それでも子どもたちの体力や運動能力が向上していればいいのですが、文部科学省の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)の体力合計点は中2で男子が22位、女子が44位。しかも運動部活動の加入率は全国平均より8ポイントも低く、最近4年間の動向を見ると1年次から2年次に進級する際に退部する割合が多いといいます。

そうした実態を踏まえて県教委は、適切な活動の基準として▽週の活動日数は平日4日以内、土日は1日以内にする▽完全休養日を週2日以上にする▽平日の総活動時間は2時間程度をめどにする▽原則として朝の活動は行わない▽社会体育活動の見直しを図り、学校単位の活動は原則として運動部活動への一本化を図る……などを示しました。決して朝練習の話だけではなく、全体を見通した話であることがわかるでしょう。
報告書では、医科学的な知見から「休養は練習の一部」「人との比較ではなく、個々人の能力に応じて有能感(楽しさ)を経験できるような指導が大切」「『栄養・運動・睡眠』の3本柱をトータルで考える」などを提言しています。睡眠不足で長時間の練習をする結果、スポーツ傷害の経験がある生徒が多くなっていることにも注意を促しています。

体罰問題などに見られるように、日本ではいまだに根性主義・精神主義のスポーツ指導がはびこっている風潮があることは否めません。しかし、科学的・心理的根拠に基づかない練習や指導はかえって逆効果です。話題になったことをきっかけに、お子さんの通う学校でも、運動部活動の在り方を見直してみてはいかがでしょうか。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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