ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第7回】ロンドンでの学校見学

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回は、先に単身赴任した夫のロンドンでの生活についての内容でした。今回は、ロンドンでの娘の進学先候補の学校見学についてご紹介します。



夫が単身赴任してから1か月が過ぎた10月はじめ、娘と私も1週間ほどの日程でロンドンに行きました。娘の学校が2学期制で秋休みがあったので、春からの本格的な渡英前に一度、ロンドンの街やわたしたちの住まい、娘の進学先候補の学校を見ておきたいと思ったからです。とはいえ、夫の勤務先から補助が下りるわけでもなく、娘と私の渡航費はすべて自腹……。

その後知り合った駐在員のご家族に伺ったところ、赴任前にその国に行くことはなく、赴任してからサービスアパートメント(ウイークリーマンションのような家具付きの短期賃貸物件)に住みながら学校や住まいを探すかたが多いようです。

ともあれ、娘との二人旅で初ロンドン。ヒースロー空港に降り立つと、そこはもう冬。想像以上の寒さに娘共々ちょっとブルーになりましたが、迎えに来てくれた夫と3人で乗ったタクシーがロンドン中心部に差し掛かると、歴史ある建物、広々とした公園など、ロンドンらしい街並みが見えてきて、娘も私も興奮気味。「ステキな街だね! 私、好きかも」と娘が嬉しそうに呟いたのを聞いて、私も落ち込んでいた気持ちが、一気に明るくなりました。

とはいえ、のんびり観光……とはいかず、正味5日間で4校の学校見学を日替わりでこなすハードスケジュール。時差ボケしている暇もありません。見学したのは、インターナショナルスクールが2校、日本の私立大学系列の学校が2校の計4校。いずれも、ロンドンの夫の住まいからの通学が可能、もしくは寮のある学校でした。

インターナショナルスクールは日本の高校卒業資格はとれませんが、「国際バカロレア」というカリキュラムで教育が行われ、その成績によって帰国子女枠での日本の大学受験が可能です(もちろん日本以外の国の大学も受験可能)。授業はもちろん英語で行われますので、日本語でも難しい高校レベルの授業を英語で受けることになり、子どもの負担は相当大きいものになります。もちろん、それを支える親の負担(勉強のフォローや、親だけではフォローできない場合の塾、家庭教師などの金銭面のフォロー)も相当なものだと聞いていました。しかし、娘が望むなら挑戦してもいいのではないかと思っていました。というのも、レポート作成やプレゼンテーションなど、社会に出てから必要とされる力をつける教育内容が充実しているからです。

見学した2校のインターナショナルスクールでは、校長先生自らが学校の案内や説明をしてくださいました。海外の学校らしく気さくに話してくださいましたが、何せ英語。娘はもう緊張の極みといった感じで、何を聞かれても顔はこわばり言葉も出ない状況。校長先生のお話では、娘の場合、英語力の関係で学年を一つ落としての入学ならば可能だろうとのこと。ただし、英語力が他の生徒と一緒に学べるくらいまでになるには努力しても2年はかかるので一日でも早くロンドンに来て転校してほしいとのことでした。よく、「海外に住んだら、子どもは英語なんてすぐにペラペラになるよ」という話を聞きますが、やはり、そんなに甘いものではないようです。

次に見学した日本の大学系列の学校は、1校はロンドンから遠く離れた場所で全寮制、もう1校は寮に入ることも通学することも可能な学校でした。日本の学校なので、日本の高校卒業資格もとれますし、日本語での授業、生徒もほとんど全員日本人です。しかし、イギリスの学校らしく、広々とした敷地に建つ貴族の館のような校舎は、日本の学校のそれとは違い魅力的でした。それぞれに校風は違いましたが、両校とも先生方が丁寧に学校内の施設や教育内容を説明してくださり、アットホームな印象を持ちました。

見学を終えて娘に感想を尋ねたところ、やはりインターナショナルスクールは自分には無理とのこと。そもそも学年を一つ落とすと、夫の任期が急に切り上げられて高校の途中で帰国することになった場合、日本で通っていた学校(中高一貫校)に戻っても同級生と一緒に卒業できなくなるというのが一番大きな理由だったようです。

しかし、それだけではなく英語の壁も高かったようで、インターナショナルスクールの校長先生から見せてもらった編入試験の英語問題にショックを受けたようでした。これは私が見たところでは、日本の大学入試(センター試験)の英語問題と同等かそれ以上のレベルで、英語が苦手な中学生の娘には「お手上げ」だったのでしょう。
 
結局、娘は通学できる日本の大学系列の学校であればロンドンに行ってもいいと考えたようです。学校探しをしていた際に、海外子女教育振興財団のカウンセラーのかたから「保護者のかたは、インターナショナルスクールも魅力的だと思われるかもしれませんが、うまくいかない例もたくさんある。海外に連れて行かれる子どもにとっては、それはチャンスじゃなくて事故にあうのと同じなんですよ」と言われた言葉を思い出し、夫も私も娘の選択を尊重することにしました。私が仕事を辞める選択をしたのと同じで、娘も学校を一つ選択する中で、別の可能性を捨てるということを経験したのです。決めたらそこで、よりよい方向に進むように家族が協力していくのが一番だと考えることにしました。

次回は、海外生活の準備、引っ越し編です。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

子育て・教育Q&A