どうなる? 神奈川県の高校入試【第1回】‐浅野 剛‐

過去には、ア・テストの実施など独自の制度を採用し、その後は複数志願制、推薦入試、前期・後期選抜などと変化してきた神奈川県。それが、2013(平成25)年春より前期・後期選抜を廃止し、入試の一本化に踏み切りました。制度改革は何を意味するのか? また、2013(平成25)年度入試の傾向と今後の動きについて、3回シリーズでお伝えします。
第1回は、新制度のポイントについて。過去の経緯もまじえて解説していきます。



新制度のポイントは「共通選抜」

これまで、神奈川県は、
                前期選抜=「自己PR型」の推薦入試、調査書や面接による選抜
                後期選抜=おもに調査書と学力検査による選抜
を行ってきました。

それが、新制度は

前期選抜・後期選抜を廃止し、共通選抜に一本化
すべての受験生に、共通の学力検査と面接が課される

ことになりました。

また、学力向上進学重点校(大学進学に特に力を入れる高校、第3回で解説)など一部の高校で行われていた「学校独自問題」は廃止。ただし、高校によっては「特色検査」が実施されます。特色検査には、記述やスピーチなどの自己表現検査と実技検査があり、学力向上進学重点校の多くが記述系の自己表現検査を導入しています。

制度改革に踏み切った理由として、県教育委員会は「新しい学習指導要領」への対応と、前・後期選抜による受験の長期化、前期選抜の選考基準が各高校によって異なり、複雑でわかりにくいといった運営上の問題を挙げています。



神奈川 入試一本化への決断!
新制度で「新たな学力」を育てる

新しい学習指導要領では、基礎・基本に加えて、思考力、判断力、表現力や学習意欲が求められており、新しい入試制度はこれらを測定するための選抜方法に改善されたと言えるでしょう。新たな課題はあるものの、今回の改革は大きな決断であったと思います。
しかし、ここにたどり着くまでには長い歴史がありました。

神奈川県の公立中学校では、かつて40年以上もの間「アチーブメントテスト」(ア・テスト)が行われていました。これは、中2の3学期に実施されるテストで、その結果は高校入試の成績に加算されます。比較的易しい問題、特に記号選択の問題が多く、ある程度形式がパターン化されており、思考力や表現力などを幅広く測定する問題ではなかったわけです。しかも、音楽・美術・保健体育・技術家庭も含めた9教科で実施されていました。その後、ア・テストの成績に応じて志望校を割り当てる「輪切り指導」や、受験校の早期決定などが問題となり、他県から起こった業者テスト偏差値追放の動きもあって、1997(平成9)年には廃止となりました。
続いて導入された「複数志願制」においては、第2志望まで志願できるものの学力検査は第1志望の高校で一回だけ受験するため、第1、第2志望の2校で採点上の差異が発生しないよう、入試問題の多くは記号選択に。結果として問題は全国的に見ても易しくなり、高校によっては満点続出という状態も見られました。

2001(平成13)年春からは、普通科一般コースにおいても推薦入試が実施されるようになりましたが、神奈川の場合にはわずかな期間で廃止。2004(平成16)年には、自己PR型の前期選抜を導入、同時に複数志願制による一般募集が廃止され、後期選抜が導入されました。
ただし、学力検査を実施しない前期選抜は、各高校が設定する選考基準が複雑でわかりにくい(高校によって、内申点の計算方法や、生徒会・部活動等の実績、資格・検定などの点数化などが大きく異なる)ことが、受験生や保護者から指摘されていました。
そこで、選抜資料を「調査書」「学力検査」「面接」と、高校によって実施される「特色検査」に統一し、原則として公立高校を受験する生徒全員が、共通の学力のものさしである学力検査を受験するようになったのです。また、S値と呼ばれる合計数値を算出する方法も統一され、各選抜資料にかける係数(比率)を高校が設定する、といった今回の制度になりました。

全国の入試制度を分析するときにはさまざまな観点がありますが、「わかりやすさ」「すべての受験生の学力測定」という点ではとても優れた制度であると思います。



入試問題は「難しくなった」のか?

原則としてすべての生徒が受験するという意味では、入試問題の難易度は上昇したと言えるでしょう。

新しい学習指導要領に対応し、2013(平成25)年度の入試問題は、より思考力・判断力・表現力等を把握できるものへと改良が加えられました。このため各教科の満点もこれまでの50点満点から100点満点になり、実際の出題内容でも、数学の証明問題・説明問題がこれまでの選択や穴埋め問題ではなく完全記述であったり、社会科では80字程度の記述問題が2問出題された、など大きく変化しました。その結果、5教科の平均点は500点満点中305点(※)と、およそ6割になり、平均で7割以上得点できていた時代と比べれば、「難しくなった」と言えます。
※県教育委員会発表の各教科の合格者の平均点を合算したもの

それでも、学力向上進学重点校(大学進学に特に力を入れる高校。第3回で解説)の多くは合格者平均で420~460点(※)と、高い得点をマークしています。
※神奈川全県模試の追跡結果データによる

2012(平成24)年まで、これらの高校の多くは英語・数学・国語で難易度の高い「学校独自問題」を実施しており、これらの高校を受験する生徒にとっては「易しくなった」という見方もできます。調査書や学力検査が高得点の生徒が多い学校では、面接でも大きな差がつかないことが多く、特色検査の結果によって合否が分かれたケースもあるようです。

特色検査には「自己表現検査」と「実技検査」がありますが、「自己表現検査」は大別すると、記述系・スピーチ系・グループ討論があり、最も多いのは記述系です。問題で提示される資料を読み込み、それに関連して計算や記述、文章読解などが課される教科横断的な検査で、あらゆる視点から思考力や表現力を問う高レベルの問題が出題されています。このような問題に、付け焼刃の対策では歯が立ちません。ふだんから日本や世界で起こっているさまざまな事象に関心を抱き、自分なりの考えを持つ必要があります。

ところで、前述の通り「調査書」「学力検査」「面接」、高校によって実施される「特色検査」にかけられる係数(比率)は高校ごとに決められます。この係数(比率)は、合計点の計算上合否に影響するだけでなく、受験者の動向にも影響を与えています。

次回は、この係数(比率)について詳しく述べます。


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