「熱中すること」は育つこと ~ぜひこの夏に「熱中」体験を~

発達心理学の研究によると、人間の赤ちゃんは生まれながらにして知的好奇心にあふれているそうです。自分から積極的に外の世界を探索し、情報を取り込みます。子どもが成長すると、それは強い興味や熱中につながっていきます。新しくできるようになった自分の力を使って試し、発見し、喜びを感じ、それが次の活動へと展開します。つまり、子どもが何かに熱中することは、子どもが学び、育つことそのものなのです。
しかし、2016年に、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行った調査では、「熱中していること」がない子どもが多くいることがわかりました。「熱中」体験による子どもの育ちを支援したいものです。

1.「熱中していること」がある子どもは6割弱

まず、図1は、全国の小学4年生から高校3年生の子どもたちに、「いま、熱中していること(興味があること)」があるかどうかを尋ねた結果です。

これをみると、「熱中していること」がある子どもは6割弱(57.3%)であり、残りの4割以上の子どもが「熱中していること」がないことがわかります。また、学年別にみると、小学4年生から中学1年生は6割以上ですが、中学1年生をピークに比率が下がり続け、高校3年生では4割(39.4%)になっています。

調査を実施する前、私たちは、高校生ほど比率が高まると予想していました。なぜなら、それまでの多様な経験や、知っている世界の広がりのなかで、「熱中したいもの」が見つかるだろうと考えたからです。しかし、結果は逆。子どもたちは、学年が上がるにつれて、熱中したいことを持てなくなっているようです。

図1 「熱中していること」が「ある」の比率(学年別)

※「いま、あなたには、熱中していること(興味があること)がありますか」と尋ねている。

2.「熱中していること」がある子どもほど「挑戦したい」気持ちを持っている

高校生ほど「熱中していること」を持てない理由ははっきりしません。生活の忙しさなどが理由の1つかもしれません。しかし、子どもたちには是非、「熱中したいこと」を見つけてほしいものです。

なぜなら、図2-1、図2-2は、「熱中していること(興味があること)」の有無別に、子ども自身の気持ち(「挑戦したい」かどうか)や得意なことを尋ねた結果ですが、「熱中していること」がある子どもは、ない子どもに比べて、「難しいことや新しいことにいつも挑戦したい」(とてもあてはまる+まああてはまる)という気持ちを持っています。また、「他の人が思いつかないアイデアを出すこと」が「得意」(とても+やや)と回答する比率も高いです。熱中する経験は、子どもたちを新たな「挑戦」に向かわせたり、新たな「発想」を獲得させたりすると考えられます。

図2-1

「難しいことや新しいことにいつも挑戦したい」かどうか
(小4~6年生・中学生、「熱中していること」の有無別)

図2-2

「他の人が思いつかないアイデアを出すこと」が得意かどうか
(小4~6年生・中学生、「熱中していること」の有無別)

3.「熱中していること」の第1位は「スポーツをする・観戦する」

では、「熱中していること」がある子どもたちは、どのようなことに熱中しているのでしょうか。
子どもたちの自由記述(「熱中していること(興味があること)」)の内容を分類してみると(表1)、「熱中していること」の第1位は、小・中・高校生とも「スポーツをする・観戦する」ことでした。熱中している理由としては、「始めたばかりなのでもっと強くなれるようがんばっている」「友だちと一緒にできて楽しい」「相手と勝負することに、はまった」などがあがっています。
また、「ゲームをする」と「音楽」が、小・中・高校生とも上位(2~4位)のほか、「アニメをみる・マンガを読む」「アイドル・芸能人」(5~7位)などを含めて、小・中・高校生ともさまざまなメディアに熱中している様子がみられます。
一方、高校生になるにつれて順位が下がるのが「読書」です(3位→5位→7位)。
しかし、小学生では「物を作る」(7位)、「お菓子づくり・料理をする」(10位)、中・高校生では「絵やマンガを描く」(8位)などのように創作的な活動に熱中している子どもたちもいるようです。「歴史」や「勉強」に熱中している子どももいます。

表1 「熱中していること」ランキング(学校段階別)

※「熱中していること(興味があること)」が「ある」と回答した子どもに、「あなたが一番熱中していること(一番興味があること)を、具体的に書いてください」と尋ね、その記述内容を分類した。記述があったのは、小学4~6年生2,412人、中学生2,211人、高校生1,575人。

子どもたちが「熱中すること」は、スポーツ、文化活動のほか、学校の部活動や勉強でもよいでしょう。夏休みにふだんできない体験をしてみることがきっかけとなり、「熱中したいこと」が見つかるかもしれません。ぜひこの夏に「熱中」体験をしてみてください。

<参考文献>
・柏木惠子『子どもが育つ条件-家族心理学から考える』岩波新書、2008

<調査データ>
・東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究
「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」(2016年7~8月実施)
http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=5095

プロフィール


橋本尚美

ベネッセ教育総合研究所 研究員
初等中等領域の子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究を担当している。現在は2015年から毎年実施している小学1年生~高校3年生対象の「親子パネル調査」(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクト)の主担当。
これまで担当した主な調査は、「学校教育に対する保護者の意識調査(朝日新聞共同調査)」 (2012年)、「第5回学習指導基本調査」(2010年)、「放課後の生活時間調査」(2008年)、「中学校選択に関する調査」(2007年)など。子どもの文化世界や学びの実態、子どもの成長環境としての社会・学校などに関心を持っている。

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