子どもが「自分で考える」習慣をつけるには[やる気を引き出すコーチング]
中高生対象の講演会などで、私から質問を投げかけて、一人ひとりに考えをたずねてみることがあります。「ここまで聴いてみて、どう思いましたか?」など、基本的に、相手の考えや感想を問うものなので、正解があるわけではありません。何を答えてもらってもよいので、反対意見でももちろんかまいません。
ところが、よくある返答が「わかりません」という一言で終わるパターンです。中には、自分の意見を自分の言葉で話してくれる子もいますが、「では、お隣の○○さんはどうですか?」とふると、「同じです」と答えて終わらせようとする子もいます。
「自分で考えようとする習慣すらない子が本当に多いんだな~」と思わされます。「自分で考え、自分の言葉で表現する力」が今後、ますます求められる中で、どう「考える習慣」をつけていったらよいのでしょうか。
“質問のみの会話”にチャレンジ!
Tさんというあるお母さんのユニークなチャレンジをご紹介しましょう。Tさんは、中学生、高校生の二人のお子さんがいますが、子どもが自分で考える前から、「こうして、ああして」といつも先回りして指示をしていました。コーチングを知って、深く反省したTさんは、質問力を磨くために、質問のみで、1日、子どもたちと話してみることを思い立ちました。
質問のみの1日はこんなふうに始まります。
「今、何時かな?」
「何時に起きるの?」
「何時までにお弁当を作っておいたらいい?」
起こすところからもうすでに質問なのです。
朝ごはんを食べながら、「今日はどんなことをがんばろうと思ってる?」
学校から帰ってきたら、「今日はどうだった?」
宿題もせず、ダラダラしている姿を見ても、「この後はどうするの?」といった具合です。
だからといって、最初から何か大きな変化があるわけではありません。むしろ、「わからない」と言って、質問に答えないこともあります。が、「ま、そんなものかな」という気持ちで、多少遅刻しようが、宿題を忘れようが、「それも本人の問題だから」と目をつむり、やり続けてみました。
すると、2~3ヵ月ほどで、こちらがあれこれ言っていた時よりも、よほど、自分で動くようになったというのです。Tさんも、その効果にびっくりしていました。
「『~しなさい』と言いたくなると、『これを質問に変えるとしたらどう言えばいいんだろう?』って、私自身も考えて声をかけるようになりました」と話すTさん。何も言わなくても、子どもは勉強もするようになって、「本当に楽になった」そうです。
さらに、「『これはこうしたほうが早く終わると思うんだけど、お母さんはどう思う?』と、逆に子どもから親に質問してくるようになったんですよ」という変化まで起こりました。質問の影響力はすばらしいですね。
どんな答えでもいったん受けとめる
Tさんが「ただ、ここがすごく肝心!」とおっしゃっていたポイントがあります。質問して返ってきた子どもの答えが、自分の意図通りでなかったとしても、「否定せずにいったん受けとめること」が大切です。
「ダメだよ!それじゃあ間に合わないでしょう!」とか
「そうじゃなくて、こうしたほうがいいんじゃないの?」などと言うと、たちまち子どもは考えなくなってしまうので、ぐっと我慢です。
「それはまずいな」と思うことは、いったん受けとめたうえで、本人が自分でリスク回避策を考えられるよう、さらに質問します。「なるほどね!そう考えたんだ。もしも、そのままやって、ケガをしそうになったらどう対応するの?」などの質問で、事前にリスクを考えてみるよう促します。もちろん、本当に危険で、緊急性が高い場面では、質問では間に合わない場合がありますから、臨機応変に対応してください。
あまり気負わず、コミュニケーションゲームだと思って、“質問のみの会話”に一度チャレンジしてみられてはいかがでしょう。
(筆者:石川尚子)