英語を学び始めた時期の出会いをいかす授業

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。

今回紹介するのは佐賀県のA先生と、アメリカ出身の外国語指導助手のB先生による小学校5年生の英語の授業です。取材したのは、英語を学び始めたばかりの子どもたちがB先生と「初めての出会う」という機会を活かそうとした授業です。

A先生は、英語を身につけるには、「『必要だ!』という思いが欠かせない」と言います。でも、その壁を乗り越えるには、エネルギーが必要で、一番効果的なのは、相手を知りたいという気持だと考えています。そこで、A先生は「人と仲良くしたい」と思う原体験を小学生のうちにたくさんする機会を用意したいと思っています。

ちなみに、初めて外国人の先生が来ることを聞いた子どもたちの感想は…
「会話したことがないのでチョット不安。でも、楽しみでもある」
「どんな人か楽しみ」
「先生と会っても、英語が緊張する」
などなど…
「B先生って、どんな人なんだろ?」そんなドキドキを原動力とした授業です。

事前情報として、子どもたちにはB先生が日本語をあまり話せないと伝えられました。さらに、コミュニケーションをとる方法の例もアドバイスされます。英語の他、身振り手振り、そして絵を描くといった方法です。
子どもたちの英語のレベルは、挨拶ができる程度です。

いよいよ教室に、B先生がやってきます。
教室に入るやいなや、いきなり子どもたちに近づき…
Good morning.
My name is B.
Nice to meet you.
そして握手。

これをクラス全員、一人ひとりに繰り返していきます。時には、握手を激しくするなどのスキンシップを取り入れています。
最初、子どもたちは、なかなか声が出ません。でも、何度も繰り返されるうちに、パターンを読み取り、何をすればいいかを感じ取って、徐々に声が出るようになっていきます。
ここで思い出したのが、授業の達人と呼ばれる先生の話です。
「経験が少ない子ども達は、その場の空気を読み取り適応する能力が高い。それを活かすことで、子どもたちが主体となる授業になっていく」

続いて、B先生は、自己紹介を始めます。
Good morning everyone.(みなさん おはようございます)
My name is…(わたしの名前は…)
What’s my name?(何だっけ?)
子ども「B」
That’s right. That’s my name.(そうね それがわたしの名前)
My name is B. (私の名前はBです)
ここまでは、習ったことがあるのでスムーズに進みます。

次の質問からは、知らない単語が…
B先生「(わたしは…何歳だと思う?)」
何度か繰り返しますが、
子どもたち「…」
と反応がない状態が続きます。

そこで、
A先生「(ぼくは44歳)」 
と助け舟を出します。
知っている「数字の読み方」と「A先生の年齢」が結びつき、年齢を聞いているのだと察しがついたようです。

子どもたち「58歳?!」
A先生「( ぼくより年上なの?)」 
わからない単語もありますが、ジェスチャーを加えたので、なんとなく意味がわかったのか
子どもたち「38歳?!」
とすぐに反応が出ます。でも…
B先生「(残念)」
これもジェスチャーつきなので、子どもたちからすぐに反応が…
子どもたち「48歳?!」
B先生「(もっと若いよ)」
これもジェスチャーつきなので、子どもたちからもすぐに反応が…
子どもたち「23歳」
B先生「(そう正解!)」
 (歓声)

子どもたちも盛り上がったところで、次の質問です。
B先生「(そして 私の出身地は?)」
子どもたち「…」
何を言われているのかわからずに、再び子どもたちは無言状態です。初めての単語もあるので、無理もありません。すると、B先生は、壁に掛けられた地図に向かいました。そして、イギリス、アメリカ、カナダなどを指します。
それに合わせてB先生は、「(出身地は…)」と繰り返します。
さらに、B先生は、「(みんなの出身地はどこですか?)」という質問を混ぜていきます。
徐々に、察した子どもたちが、知っている国を言い始めます。子どもたちの中で英単語の意味がはっきりしていき、「どこから」という意味が含まれていることを全員が気づいていきます。
そして、B先生は正解を…「(出身地はアメリカです)」
さらに、B先生は、アメリカの自由の女神があるニューヨークの出身だと伝えました。でも、子どもたちのリアクションは…
「…」
反応はほとんどありません。ニューヨークに関心がなかったのでしょう。

子どもたちに響く「情報の質」を選択するのは難しいことです。
子どもたちの反応が悪かった時こそ、先生の腕が試されます。
この時、A先生は、B先生に「次の質問を」と促しました。子どもたちが反応する話をし続けるのは困難だと割り切り、話を切り替えたのです。この素早い見切りができるかどうかもいい先生の条件のひとつだと思います。

次のB先生の質問は、「(私の家族は何人でしょう?)」
子どもたちの反応は…
「…」
すぐに、A先生が助け船を出します。
A先生「(私には4人の家族がいます)」
「(妻と3人の子ども)」
知っている言葉が出て、子どもたちに気づきが生まれます。それを見計らってB先生は、数を数え始めました。これは、子どもたちも知っている英語です。 B先生「(正解は、5人)」
「(お父さん、お母さん、お姉さん、お兄さん、そしてネコの「シンバ」)」
B先生の家族の写真を大画面に映し出します。
子どもたちの反応で一番良かったのはネコの「シンバ」。しかも、子どもたちも知っているライオンキングから名付けたエピソードを紹介すると、子どもたちはいい反応を示します。

畳み掛けるように、B先生は、自宅の自分の部屋の写真も映し出しました。
B先生「(そしてこれは新しいテレビゲームを買った時)」と付け加えます。
(ゲーム)この言葉に子どもたちは反応し、教室の集中度が一気に増したのがハッキリわかりました。さらに、新作ゲームの名前を伝えると、子どもたちから歓声が上がります。
盛り上がったところで、次のステップに…

「興味・関心をどう喚起し、持続させるか」
それは、先生たちの腕が問われるところです。そのために、子どもたちのことを知っていることも大事です。でも、もうひとつ重要と思うのが、学ぼうという必然性を作ることだと思います。
今回の授業で、子どもたちは、B先生に興味を持ち「仲良くなりたい」「知りたい」という気持ちが間違いなく芽生えていたと思います。

(筆者:桑山裕明)

プロフィール

桑山裕明

桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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