幼児期のうそ、どれは許して、どれは叱るべき?【後編】

大人の世界では、場面によっては本当のことを言わないことが、よい場合もあります。それは子どもの世界でも同じことで、いろいろな性質のうそを一緒くたにして禁止するのは、あまりよい対応とはいえません。子どものうそに対する接し方について、引き続き、法政大学教授の渡辺弥生先生にお聞きしました。

うそは絶対にダメ? 例外はあってもいい?

日本には「うそつきは泥棒の始まり」という言葉があるように、世界中にうそをつくことを戒めることわざや童話が存在します。しかし、うそといっても性質はいろいろあり、前編の【ケース2】【ケース3】のように、叱るべきではないうそもあります。大人の世界を考えても、本当のことを話さないことは必ずしも悪いものとはいえないでしょう。常に真実を告げることが正しい行動ではありません。虚飾を加えて伝えるお世辞は、厳密にいうとうそかもしれませんが、これは一種のファンタジーであり、特段、悪いことと考える人は少ないでしょう。それは子どもの世界でも同じことです。

とはいえ、まだ幼い子どもに対して、「このケースはダメ、あのケースはよい」などと伝えると混乱してしまいますから、わかりやすくするという意味において、「うそはダメ」を一応の原則にするのは悪いことではありません。その際は、「なぜうそがいけないのか」より、むしろ「なぜ本当のことを言った方がよいのか」をしっかりと説明しましょう。

「うそはダメ」という原則を全てのうそに適用し、【ケース2】のように思いやりの気持ちから出たうそや、【ケース3】のように遊びの中のうそまで禁止しないようにしましょう。うそをつくことに過度の罪悪感をもったり、コミュニケーションに支障をきたしたりする恐れがあります。また、厳しくうそを禁止し過ぎると、どうして本当のことを言うべきかという本質を学べずに、恐い人がいなければうそをつくようになる場合があります。

3歳ごろまでの子どものうそにはどう対応する?

3歳くらいまでの子どもでも、うそと呼べるようなことを言う場合があります。しかし、この時期のうそは意図的に相手を欺く気持ちをもたないことがほとんどです。大人の思ううそとはちょっと違うのです。

例えば、3歳ごろになると、「チョコレートを食べたでしょう?」と問い詰められたとき、「食べた」と答えたら叱られる、「食べていない」と答えたら叱られないというくらいはわかるようになります。こうした場面では、単純に叱られたくないという気持ちから反射的に「食べていない」と答えてしまうことがあります。うそといえばうそですが、保護者をだまそうといった深い考えはありませんから、「やっぱり食べたでしょう。お口に付いているよ」などと、軽くたしなめる程度でよいのではないでしょうか。

また2歳くらいまでは言葉の未熟さゆえにうそのようなことを言ってしまう場合があります。例えば、時制があいまいですから、お友だちに「遊園地に行きたい」と言おうとして、「遊園地に行った」などと言うことがあります。この時期にはまだうそという概念を理解しませんし、意図的にうそをついているわけでもありませんから、遊園地に行きたい気持ちが強いことを理解してあげましょう。

うそへの対応はあくまでケースバイケース。個別のケースに丁寧な対応を

大人の目から見た子どものうその背景には、さまざまな子どもの気持ちがあります。ですから、ケースバイケースの対応が必要なため、全てのケースで「こうすればよい」という方法はありません。どのような意図によるうそであるかを十分に考慮して適切な対応をするようにしましょう。

※幼児期のうそ、どれは許して、どれは叱るべき?【前編】
http://benesse.jp/kosodate/201607/20160717-3.html

プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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