子離れできない親「ヘリコプター・ペアレント」~今、起きていること

日本ではあまり聞かない言葉ですが、諸外国には「ヘリコプター・ペアレント」という言葉があります。子どもの上空を常に飛び回り、我が子にとって不都合なことがあると急降下してきて干渉するイメージから、「子離れできない親」をこのように呼ぶのです。

入社式に保護者同伴で出席できる大手企業があることがニュースで報じられ、「過保護すぎるのでは」「保護者も出席できるのはうれしい」など、賛否両論が繰り広げられています。大学入試や卒業式の保護者同伴についても、たびたび「子(親)離れできていない」などと批判されることがありますが、実際はどうなのでしょうか。大阪大学大学院人間科学研究科教授の小野田正利先生に、今起きていることについて教えていただきました。

■日本の大学にも出現している「ヘリコプター・ペアレント」

「ヘリコプター・ペアレント」は、アメリカで定着した言葉ですが、多くの場合、大学でその実例がいくつも報告されてきました。たとえば、アメリカではほとんどの大学に学生寮があり、大学生はそこでルームメート1~2名と生活しています。その際、保護者は同室になる友達がどういう人物なのかを非常に心配し、その友達が我が子に悪影響を与えるのでは、と少しでも感じてしまうと、学校側に部屋を替えるよう主張するのです。

日本の大学にも、こうしたヘリコプター・ペアレントは現れています。講義を休んだ子どもに代わって、本人を装い補講を行うようファクスで大学に要望したり、第2外国語で選択するべき言語を、子どもに代わって問い合わせたりすることもあるといいます。

また、オープンキャンパスに親子で参加する際に、保護者専用のスペースに案内されると、我が子と並んで説明を受けられないと激怒するような場面は、私自身も何度か目にしました。

■3,250名の学生に対して5,350名の保護者が出席する大学の入学式

最近よく聞く「保護者同伴の大学の入学式」ですが、たとえば、大阪大学の入学者数は約3,250名(学部生のみ)であるのに対し、2015(平成27)年の入学式の時の保護者の出席数は5,350名でした。ちなみに2009(平成21)年は4,100名でしたので、6年間で約1,250名の保護者出席者数が増えたことになります。

たしかに、我が子の晴れ舞台である入学式に出席したいというのは保護者としては当然のこと。子どもも、保護者に対しては「受験戦争をともに戦った戦友」という認識を持っているようで、大学の入学式は家族にとっての大事なイベントであることに間違いはないでしょう。もちろん、私も「よくここまでお育てになられた」という思いで、毎年入学式の様子を見ています。

ただ、教育の目的が「自立」と「自信」の力を子どもにつけてもらうことだとしたら、最後の最後まで「同じ時間、同じ場所を共有したい」=「式典に出席する」ということにこだわる必要はないのでは……とも思うのです。

あまりに親密すぎる親子関係は、子どもの自立的判断や成長を妨げてしまう可能性もあります。また、本来の「教育」の目的を考えると、18、19歳になった我が子の成長を、少し距離を置いたところから見守るのも、保護者の楽しみなのではないでしょうか。

プロフィール


小野田正利

大阪大学大学院教授・教育学博士。専門は教育制度学・学校経営学。近年では保護者の無理難題要求(イチャモン)などをテーマに、現場に密着した研究活動を展開している。主な著書に、『ストップ!自子チュー 親と教師がつながる』(旬報社)などがある。

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