新学期に子どもにかけたい言葉

新年度のスタートは、気分もあらたまり、やる気も湧きやすい時期です。そんな時、
「今日から◯年生だね! がんばってね!」
「もう◯年生なんだから、しっかりしようね!」
などの言葉を激励するつもりで、つい、かけてしまいます。禁句とまでは言いませんが、これらの激励の言葉が、子どもには、かえって、プレッシャーやうっとうしさにつながることもあります。ご経験があるかたもいらっしゃるのではないでしょうか。

■激励よりも成長を心から喜ぶ言葉を

時々、一緒に仕事をする社会人1年生のAさん。その前向きできめ細やかな仕事ぶりに感心させられる逸材です。「どうやったら、こんなふうに育つのだろう?」と思い、折々に、Aさんから保護者のかたの話を聴かせてもらっています。そんなAさんのお母さんが、年度初めにお子さんにかけ続けた言葉について、今回はご紹介したいと思います。

うちの母は、学年が新しくなると、「今日から◯年生なんだね! ここまで、元気で大きくなってくれて、お母さん、とてもうれしい!」と喜んでいました。小さいころは、そう言われると、「今日からお姉さんなんだ!」って単純にうれしかったです。中学生ぐらいからは、「そういうもんかなー?」って正直なところ、思っていました。母は、「がんばれ!」と言ったことは一度もないんですよ。とにかく、「ここまで大きくなってくれてうれしい! 本当によかった!」って、毎年言われ続けるので、「こんなに喜ぶなんて、私のことが大好きなんだ」とは思えました。

中学生の時、友達関係がうまくいかないことがあって、私だけ、友達から口をきいてもらえない時期がありました。その時はとてもつらくて心が折れそうでした。それをいちいち親に相談したりはしなかったんですけれど、『誰にも相手にされなくても、うちの親は私の味方だな』と思えたんです。それで、いやなことから逃げないで、学校にも行けたんですよね。そうしたら、いつの間にか、解決していて……。その後も、「親だけは味方だな」っていう気持ちは支えになっていましたね。感謝ですね!

Aさんのお話を聴いて「いいお話ですねー!!」と、こちらまで胸が熱くなりました。卒業式で、親が子どもの成長に涙することはよくありますが、進級した時にも、その喜びを伝えることは、本当に大切なことだと感じます。この時期にこそ、お子さんの成長を心から喜ぶ言葉をかけて、送り出されてはどうでしょうか。

■大人も決意を語る機会に

Aさんのお母さんのエピソードは続きます。

母はとても面白かったんですけれど、「あなたも中学生になったんだから、お母さんももっと何かがんばりたくなってきた!」とか言い出して、「決めた! 今日から、毎日、寝る前にストレッチをする!」って、いきなり宣言したんです。「なんで、ストレッチなの?」って聞くと、「いつまでも若々しいスタイルのお母さんだったら、あなたも自慢でしょ?」なんて言って、別にそんなこと頼んでないんですけれどね。私に対してがんばれって言うんじゃなくて、自分の目標を立てて、自分ががんばるって言うんですよ。 けっこう小さい目標なんですけれど、やっている姿を見ていると、なんか、こっちも「がんばろうかな」っていう気持ちになってくるんですね。それで、高校生ぐらいから、私も新学年でがんばることを4月に宣言するようになりました。

「がんばれ」と言わないで、相手をその気にさせるなんて、Aさんのお母さんは究極のコーチだと思いませんか。Aさんがなぜ、目標達成意欲が高い社会人に成長したのかわかった気がしました。

背中を押す言葉ももちろん、相手を動機付けますが、大人が決意の言葉を語り、自分のやる気を見せることは、子どものやる気を引き出すうえで、いっそう効果的だと感じます。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

子育て・教育Q&A