「10歳の壁」この時期の子どもの内面に起こる変化や成長とは?【中編】

前編では、10歳前後は、子どもから大人へと成長する大切な時期であることを説明しました。具体的には心の中で、どのような変化や成長が起きているのでしょうか。法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授がこの時期の子どもの内面を解き明かします。


10歳前後は友だちと比較して劣等感を抱きやすい

 それでは、10歳前後に起きる心の変化や成長について、発達心理学の観点から説明していきます。

 

小学校低学年は精神的に割と安定した時期です。基本的に何事にもやる気があって、「自分は何でもできる」という万能感を持ちやすく、「がんばっているね」「あなたならできるよ」といった保護者の言葉も素直に受け止めます。ところが、個人差はありますが、10歳前後になると、しだいに自分の性格や能力などを周りの友だちと客観的に比較して、「自分はそれほどできるわけではない」などと感じ、自信を失ったり劣等感を抱いたりしやすくなります。

 

依然として保護者からの影響は強いのですが、一方で友だちからの影響も強まってきます。そのため、友だちから悪い点を指摘されると非常に気にして、保護者が「大丈夫よ。あなたはがんばっているよ」などとフォローしてもあまり聞いてくれません。

 

 

具体的思考から抽象的思考へとシフトしていく

 思考の面でも大きな変化が見られます。それまでは見たり聞いたり経験したりしたことやものについて、具体物を用いてシンプルに考えていました。それが10歳前後になると、段々と頭の中で抽象的な思考ができるようになります。例えば、友だち関係では、低学年までは目の前の友だちとの関係だけを考えていますが、この時期から「友情」といった抽象的な概念を理解し始めます。そうした思考の質的変化に合わせて、例えば算数では記号を使った数式が頻出するようになるなど、学習の抽象性が高まります。しかし、10歳前後になったからといって、具体的思考から抽象的思考へと突然シフトするわけではありませんから、なかなか理解できずにつまずいてしまうケースも少なくありません。

 

抽象的思考力の高まりは、時期や能力の個人差がありますし、それまでの経験に支えられる面も大きいと言えます。例えば、幼い頃からいろいろな友だちと遊ぶ中で、ケンカをしても仲直りをすれば仲良く遊べるといった経験を積み重ねていると、「友情」の概念が理解しやすくなります。また、例えば、シーソーで遊んだ経験がたくさんあると、理科の天秤の学習がスッと理解できるでしょう。最近の子どもは、昔と比べて遊びや生活の経験が不足している場合があり、その点では抽象的思考へのシフトがやや難しくなっている面があるかもしれません。子どものときの遊びは、あらゆる意味で学びの総合デパートのようなものなのです。 

 

10歳前後の内面に起きる変化をざっと説明しましたが、どのように感じられたでしょうか。「まだまだ子どもだ」と思わせる姿を多く残しつつ、しだいに子どもととらえてよいかどうか迷わせる言動が表れ始める年頃と言ってもいいかもしれません。

 

 

劣等感に悩む姿は大人への成長の証

 しかし、一見マイナスに見える姿が成長の表れである場合が多いことに注意しましょう。例えば、自信を失ったり劣等感をもったりするのは、自分を他の友だちと客観的に比較できるようになるためであり、これは大きな成長と言えます。大人になっても「自分は何でもできる」といった根拠のない万能感を抱いたままでは、社会にスムーズに適応できるとは思えません。

 

いつも前向きだったはずの子どもが、いらだちや不安にさいなまれるような姿を見せることもあります。それまでは目の前のことだけを考えていましたが、しだいに広い視野で物事をとらえるようになり、悩みが複雑になっていくのです。例えば、「先生の言うことを聞かなければいけないけれど、友だちとの約束がある」といった状況に悩んでも、まだ上手に解決する力はありません。ですから、あくまでお子さまの主体性を大切にしつつ、問題が深刻になりそうな場合は保護者をはじめとした大人がフォローしてあげることが必要になります。

 

 

プロフィール


渡辺弥生

法政大学文学部心理学科教授。教育学博士。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学が専門で、子どもの社会性や感情の発達などについて研究し、対人関係のトラブルなどを予防する実践を学校で実施。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か?—乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『子どもに大切なことが伝わる親の言い方』(フォレスト出版)など多数。

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