2020年6月1日
世界の産業の現状と
目標9の内容
持続可能な開発のためには、産業を活発に行い、世界的な経済成長を続けることが基礎となります。そして、産業を活発化するための土台となるのが、上下水道や電気・ガス、道路などの生活に欠かせない施設や設備であるインフラです。
インフラが整うと、生活が安定し、意欲的に働くことができ、企業の生産性が上がり、雇用が生まれます。さらに、商品を製造したり、流通させたりするときの効率もよくなり、産業も活発に行うことができるようになります。産業化が進むことでイノベーション(技術革新)のための研究・開発に取り組む余裕が生まれる一方、新しい技術が生まれることで産業化と経済成長がより進みます。
目標にある「強靱(きょうじん:レジリエント)なインフラ」とは、何十年も使い続けることができる強さがあり、自然災害などで被害を受けてもすぐに回復できるインフラのことです。基礎的なインフラである上下水道や電気、道路、ダムなどの灌漑(かんがい)施設のほか、携帯電話、インターネットの情報通信技術などもインフラの一つです。インフラは産業と経済の発展の基礎となるものですから、より強いインフラを整備することが求められています。
しかし多くの開発途上国では、今も上下水道や電気などの基礎的なインフラが整備されていません。また、インフラが整備されていないことによって、多くのアフリカ諸国では企業の生産性が約40%損なわれているというデータもあります。このことは、開発途上国でインフラの整備が急がれる理由の一つです。
また、産業化の鍵となるのは製造業だと言われています。開発途上国では、工場で加工された農作物は全体の3割程度しかありません。畑の作物を直接売買するだけではなく、工場で加工して販売することができれば雇用が増え、産業を活発に行うきっかけになります。このように製造業は、貧困を解決する糸口となり、経済の発展を後押ししてくれる重要な分野です。
産業化が進み人々が持続可能性を追求するようになれば、資源の無駄遣いをしない省エネルギーな産業が広まり、地球温暖化などの気候変動にもよい影響をもたらします。
産業の発展は世界の貧困や飢餓をなくし、健康や福祉を充実させることにもつながります。また、地球の資源を守りながら経済成長を続けるためにも、新しい技術を開発することが大いに役立ちます。
産業化とイノベーション(技術革新)の基礎となるインフラ整備が、世界のあらゆる地域で、持続可能な形で行われることが目標とされているのです。
産業を発展させるための
世界中での取り組み
開発の遅れている地域でのインフラに関する問題については、さまざまな団体や企業が支援を行っています。水や食料、医療を提供する直接的な支援から、飲み水を確保するための機器や発電機を設置する取り組みをはじめとして、インフラを整備するための技術や資金の提供が続けられています。
農業などの一次産業に頼っている地域で産業を発展させるために注目されているのは、製造業の中でも、食品や衣料品の分野です。多くの企業が、開発途上国に農作物や水産物を加工できる会社や工場を作ることで雇用を生み出し、産業の発展に貢献しています。綿の原産国に工場を作り、原料を購入し製造した衣料品を現地でも販売するなどして、地域に貢献している企業もあります。
また世界全体で新しい技術開発を進めるために、イノベーション(技術革新)に取り組む企業に投資する動きも増えています。特に注目されているのは、携帯電話やインターネットをはじめとする情報技術分野です。AIによるロボット化で業務の効率を上げるシステムや、スマート家電などに代表されるIoTを活用した商品が、続々と開発され販売されています。こうした動きから、携帯電話やインターネットが使えない地域でも、通信サービスの普及が急がれています。
もう一つのキーワードは、省エネルギーです。持続可能な開発のために、石油などの化石燃料に代わる新しいエネルギーの開発が活発に行われています。浄水場などのインフラ施設をはじめとして、商品を作るための工場、オフィスビル、街灯や携帯基地局、家電に至るまで、世界中の多くの企業が、消費電力を削減するための技術を開発し省エネルギーを実現しています。
産業を発展させるための
日本での取り組み
日本の企業も海外のインフラ整備に乗り出しています。たとえば、開発途上国の企業との合弁会社を設立し、携帯基地局の設置などのICTインフラ事業を展開する企業や、現地の浄水場に省エネ型のポンプを導入して効率のよいインフラを提供している企業があります。
また、災害大国であり、国内エネルギー資源も乏しい日本においては、「強靭(レジリエント)なインフラ」を整備していくことは重要課題です。日本政府の主導で、防災・減災に強く環境にやさしい街づくりの促進や、エネルギーインフラの強化といった取り組みも、国内で活発に行われています。建設業界では「災害に強い」「省エネルギー」などをキーワードに、工法や設備、重機などの開発が盛んに行われています。
情報技術分野の技術開発も、目標達成のために先進国が率先して取り組むべきことの一つです。日本でも、国内の業務をデジタル技術でロボット化したり、ICTを活用して業務の効率を上げるシステムを導入したりすることも広く行われています。
人口減少・少子高齢化が進んでいる社会でも経済成長・発展を伸ばし、さらにSDGsなどの複雑化した課題を乗り越えていくためには、先端科学技術を活用したイノベーション(STI:Science, Technology and Innovation)が不可欠です。日本ではSTI(先端科学イノベーション)をSDGsに活用するための取り組みとして、SDGs推進本部を2016年から設置し、イノベーションの推進を図っています。
参考資料
「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」9つのターゲット
[引用元]総務省・仮訳(2019年8月)
- 全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。
- 包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。
- 特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する。
- 2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。
- 2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。
- アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼(しょうとうしょ)開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する。
- 産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する。
- 後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供できるよう図る。
このターゲットでは、「産業と技術革新」にまつわる目標と取り組みが、詳しく設定されています。
※ターゲットとは、「最終的な目標」に到達するために必要となる「より具体的な達成すべき目標・成果、必要な取り組み」のことです。
※目標9のターゲットの全文は参考資料としてこのページの末尾に引用しました。
- 持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する
- 2030年までに雇用及びGDPに占める産業分野の割合を大幅に増加させる
- 小規模製造業などの企業の金融サービスや市場へのアクセスを拡大する
- インフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる
- 全ての国々の産業分野における科学研究を促進し、技術能力を向上させる
- 開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する
- 開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する
- 2020年までに普遍的かつ安価なインターネットアクセスを広く提供できるよう図る
[参照元]
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「目標9 レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」(国際連合広報センター/2018年12月)
https://www.unic.or.jp/files/Goal_09.pdf「目標9 産業と技術革新の基盤をつくることはなぜ大切か」(国際連合広報センター/2019年3月)
https://www.unic.or.jp/files/09_Rev1.pdf「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」(国際開発センター/2018年)
https://idcj.jp/sdgs/img/IDCJ_SDGs_HANDBOOK_GOAL9.pdf