2024.6.13
カリキュラム・マネジメントとは?実践例や課題を解説
学校教育をよりよいものにしていくためには、子どもと学校と社会をつなぐ視点を持ちながら、学校全体で教育活動の改善を進めていく「カリキュラム・マネジメント」が必要不可欠だと言われています。
これからの教育の方向性を提言した国の報告書※にも、子ども一人ひとりに応じた学びのあり方や、ICTの活用、高校の改革、STEAM教育などの重要なキーワードには「カリキュラム・マネジメント」の充実がセットで記されています。
具体的にはどのようなもので、カリキュラム・マネジメントによって学校の教育がどのように変わるのでしょうか。
※2021(令和3)年中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」
この記事のポイント
学校現場で重視されるカリキュラム・マネジメントとは
カリキュラム・マネジメント(通称「カリマネ」)は、文部科学省では次のように定義しています。
「『社会に開かれた教育課程』の理念の実現に向けて、学校教育に関わる様々な取り組みを、教育課程を中心に据えながら、組織的かつ計画的に実施し、教育活動の質の向上につなげていくこと※」
つまり、学校での教育活動を、その場の思い付きや特定の先生だけのがんばりだけではなく、多くの人が関わり、学校や地域ぐるみで計画的に行い、その成果を分析して改善を図ることで、教育の質を高め、子どもたちに必要な資質・能力を育みましょうという考え方や実践のことです。
※出典:カリキュラム・マネジメント-文部科学省より
なぜカリキュラム・マネジメントが重要?
子どもたちは、いま勉強していることと社会のつながりを感じながら学ぶことで、「自分の力で人生や社会をよりよくできる」という実感を持ちやすくなります。
「社会をよくできる」という実感があればこそ、変化の激しい社会において、困難を乗り越え、未来に向けて進むことができるのです。
これからの学校には、社会と連携・協働した教育活動を充実させることがますます求められるとともに、各学校で「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」などの点を踏まえてカリキュラム(教育課程)をつくり、子どもの実態をふまえて見直しを図っていく必要があるのです。
(図)カリキュラム・マネジメントのイメージ
※出典:「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(文部科学省)をもとに作成
ただ、社会と連携・協働した教育活動を、個々の教員の力だけで行うことは難しいのが実態です。時間や教員数、予算など、学校の資源も限られています。そこで、カリキュラム・マネジメントの視点をもち、学校ぐるみで意識して教育活動を行うことで、最大限の教育効果を上げることが求められています。
カリキュラム・マネジメントの3つの側面と実践のポイント
具体的には、学習指導要領を基に、自校の教育目標を捉え直すことから始まり、子どもの実態、地域の実情を踏まえて、学校全体でカリキュラムを編成することになります。
これまでのカリキュラムは、国語や算数など教科の学習内容の編成(指導計画などを立てること)が中心でした。しかしこれからは、全教科で、教科の学習内容とともに、どのような資質・能力を育むのかも含めてカリキュラムを作成しなくてはなりません。
そして、それを基に授業を行い、成果を評価し、カリキュラムの再構成や授業改善につなげることで新たな教育を築いていくPDCAサイクルを回していくことが大切です。これらのことは、カリマネで大切な「3つの側面」として学習指導要領にも記載されています。
カリキュラム・マネジメントの3つの側面
1.教科を横断し広い視点を持つ
学校の教育目標を踏まえ、教科を横断して目標達成に必要な学習を組み合わせるなどの工夫をする
2.PDCAサイクルを回す
教育内容の質の向上のために定期的に調査等を行いながら、教育課程を編成し、実施し、評価して改善するという一連のPDCAサイクルを確立する
3.ヒト・モノ・カネ・時間・情報などを効果的に組み合わせる
教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源を、地域等の外部の資源も含め活用し効果的に組み合わせる
高校での実践例~学校教育全体をデザインし直す動きも~
高校は義務教育ではなく私立校も多いため、学校の特色を明確にして魅力のあるカリキュラムをつくることが欠かせません。
学校教育目標や入学してほしい生徒像、卒業までに育てたい力を改めて考えるためにカリキュラム・マネジメントの視点を盛り込む傾向が見られます。
ある高校では、退学者が多く定員割れが続いており大きな問題となっていました。そこで、活力ある学校に立て直すための方法を学校全体で議論した結果、「とことん生徒の面倒をみる」という教育のスローガンを掲げ、スローガンに基づいてカリキュラムや組織を改善していきました。
例えば、定期テスト直前に行う土曜日の特別補習や部活動の中で学び合いを行うプログラム、大学生の学習サポーターの活用や生徒指導体制の教員間での連携強化などを行ったのです。スローガンを基に教師が一丸となって取り組んだことで成果が表れ、退学者が減り応募倍率も増加しました。
小中学校での実践例~時間割の工夫や教科横断型の学びで学力向上~
小学校を中心に最近増えているのが、1単位時間の授業時間を5分短縮し、生まれた時間を学校独自の教育活動に充てるケースです。
ある小学校では、集中力のある午前中に学習を行うことで学力向上を図ることなどを目的に、1日の始業時間を早め、1単位時間を45分から40分へ短縮しました。結果、午前中に5時間授業を行えるようになったことに加え、時間短縮で生まれた週100分程度の時間を使って、学校の重点分野である英語と基礎学力向上に充てる時間を生み出しました。さらに、6時間目の終了時間が早まったことから、教員の退勤時間が早まり働き方改革にもつながりました。
また、ある中学校では、「総合的な学習の時間」でごみなどの環境問題に取り組んでいます。あらかじめ全教科の3年間の単元を一覧表にして並べ、他の教科でも環境問題に関する学習内容を扱う場合は、学習する時期や内容を「総合的な学習の時間」に合わせてアレンジ。結果、生徒の学習理解がより高まり、環境問題へのアプローチもより深く多角的になりました。
カリキュラム・マネジメントの課題は?
学校現場は通常の教育活動だけでも手一杯で、学校全体を俯瞰(ふかん)して見直す視点をなかなか持ちにくい現状があります。また、教科横断型の学びの大切さはわかっていても、教科担任制の中学・高校を中心に、いざ実践するとなると難しさを感じる先生方も多いようです。
子どもの成長に合わせ、学年や学校種を超えた連携やカリキュラム編成 は簡単ではありません。実践には、校長先生のリーダーシップや教育委員会の支援が不可欠でしょう。
家庭でのサポートが「子どものカリキュラム・マネジメント」につながる
国が示しているのは、教育目標やカリキュラムをどうするかという「学校のカリキュラム・マネジメント」が主です。
しかし、見方を変えると、子どもが自分自身で将来の夢や希望をもち、必要な力やすべきことを見いだして学び、生活していくことは、いわば「子ども一人ひとりのカリキュラム・マネジメント」と言えます。
子どものカリキュラム・マネジメントは本人だけでは実践が難しいため、保護者のかたのサポートが不可欠です。
例えば、「学校選びの際に、志望校がどのような生徒を育成しようとしるのか?その表れである学校教育目標や具体的なそれが具体カリキュラムにどのように示されているか?」 保護者自身が考えてみることも大切なサポートの1つです。
入学後は、目の前のわが子の様子を始点に、学校での教育活動でできるものがあれば協力してもいいかもしれません。
そうして、お子さま自身が卒業後も自分で学びを深め、生きる力を身につける支援をしていただければと思います。
取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2024年5月時点の情報です。
監修者
谷本 祐一郎たにもと ゆういちろう
ベネッセコーポレーション学校カンパニー
教育情報センター長