SDGs目標5.
ジェンダー平等とは?
男女差別を
なくしていこう
ここ十数年で「ジェンダー」という言葉を耳にすることが多くなりました。ジェンダーとは、日本語では「社会的性差」ともいわれます。つまり、「男らしい」「女らしい」という社会的なイメージや、「家事は女性がやるもの」といった社会的な役割分担のことをさします。
これまでの社会では、身体的な性別が「女性だから」というだけで、差別を受けたり、社会の中で活躍する機会が少なかったりすることが問題となってきました。
そこで、性別による差別や不平等をなくし、「ジェンダーの平等」を達成しようという動きが世界的に広まっています。
今回は、ジェンダーという言葉の意味から、ジェンダーにまつわる課題と解決に向けた取り組みまでをご紹介します。SDGs(持続可能な開発目標)でも課題になっている、ジェンダーの平等について考えてみましょう。
そもそも
ジェンダーとは?
SDGsの目標にも
掲げられる
「ジェンダーの平等」
について
■そもそもジェンダーとは?
ジェンダーとは、日本語では「社会的性別」と訳されます。
たとえば、「男の子は青、女の子はピンク」とか、「お父さんは会社で働いて、お母さんは家で家事をする」というように、男女の違いによって、周りの人が無意識に抱くイメージや役割分担があります。
このように身体的な性別に対して、社会の中で「男性らしい」あるいは「女性らしい」とされている役割や行動、考え方や見た目などがあることを、社会的性別=ジェンダーというのです。
- 身体的な性別…生物学的性別。主に体の違い
- ジェンダー…社会的性別。「男性はこうあるべき」「女性はこうするべき」という社会の中でつくられたイメージや役割分担
近年、ジェンダーという言葉が広まり、「男だから」「女だから」と決めつけることで、男女の間に偏見や差別、不平等が生まれていると広く知られるようになりました。
たとえば、あなたはクラスメイトに「女の子なのに黒いランドセルなんて変だ」と言ってしまったことはありませんか? 女の子同士で人形遊びをしているときに「男の子だから、遊びに入れてあげない」などと言ったことはありませんか? こんなふうに言われてしまったことで、困ったり苦しんだりする人もいるのです。
女の子が黒いランドセルを使っていても、男の子が人形遊びを好きでも、それはその人の個性であって、何もおかしいことはありません。
同じように、女性が会社の社長や政治家になっても、男性が仕事を持たずに家事や育児に専念しても、それはその人の得意なことを活かしているだけのことです。しかし、周りの人から「女だてらに」とか「男のくせに」と言われてしまうことがあるのです。
このように体が「男だから」「女だから」というだけで、社会的なイメージや役割分担を押しつけられて、好きなものや得意なことを制限されてしまうのはおかしいよね、という考え方を持つことが、ジェンダーによる偏見や差別、不平等をなくすことにつながっていくのです。
■ジェンダー平等とは?
ジェンダー平等とは、一人ひとりの人が、性別にかかわらず、平等に責任や権利や機会を分かち合い、あらゆる物事を一緒に決めることができることを表します。
ジェンダー平等が実現することで、一人ひとりの人権を尊重しつつ責任を分かち合い、それぞれの個性と能力を十分に発揮できる社会が創られます。
■SDGsの「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」について
世界中の人々が豊かに暮らし続けていくための世界共通の目標として、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも、17ある目標のうちの一つ「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」で、ジェンダーの問題が大きく取り上げられています。
世界には、「女の子だから」というだけで、学校に通わせてもらえない女の子がいます。体が大人になる前に本人の意思とは関係なく結婚・妊娠・出産する、児童婚の習慣が残っている地域もあります。
「女性は家庭で家のことをするべき」という考え方が根強く、大人になっても家庭の外に出て仕事をすることが許されない女性も多くいます。また、世界的に見ても、家庭内暴力の被害者のほとんどは女性です。
さらに、先進国でも、男性のほうが女性より所得が多い、政治家や研究者に女性が少ないなど、女性が社会で活躍する機会が少ないと問題になっています。
こうした課題を解決するために、この目標では、女性への差別や暴力をなくし、女性がのびのびと能力を伸ばすことができるような社会の仕組みづくりがターゲットになっています。
目標5で定められている6つの達成目標は次の通りです。
● 5−1 すべての女性に対するあらゆる差別をなくす。
● 5−2 女性や女の子を売り買いしたり、性的に、また、その他の目的で一方的に利用することをふくめ、すべての女性へのあらゆる暴力をなくす
● 5−3 子どもの結婚、早すぎる結婚、強制的な結婚、女性器を刃物で切りとる慣習など、女性や女の子を傷つけるならわしをなくす。
● 5−4 お金が支払れない家庭内の子育て・介護・家事などはお金が支払われる仕事と同じく大切な「仕事」であるということを、公共のサービスや制度、家庭内の役割分担を通じて認めるようにする。
● 5−5 政治・経済・社会の中で何かを決める場に、女性と男性が同じように参加したり、リーダーになったりできるようにする。
● 5-6 国際的な会議で決まったことにしたがって、世界中だれもが同じように、性に関することや子どもを産むことに関する健康と権利が守られるようにする。
※出典:5.ジェンダー平等を実現しよう | 日本ユニセフ協会
■コロナショックで増加している家庭内暴力もジェンダーの問題を考えるきっかけに
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって、家庭内暴力が増加していることがわかっています。感染症の世界的な流行という非常事態の中で、ジェンダーの問題が浮き彫りになったのです。
電話やインターネットで家庭内暴力や虐待の相談を受け付けているイギリスの慈善団体「レフュージ」(refuge=避難)によると、イギリスでロックダウン(都市封鎖)が始まってから2週間で、相談件数が25%も増加したそうです。
日本でも、NPO法人「全国女性シェルターネット」が、家庭内暴力や虐待が増えたり悪化したりする恐れがあるとして、相談できる場所を閉じないように、2020年3月末、政府に要望書を提出しています。コロナショックによって、在宅ワークや子どもの休校が増えたことや仕事への不安が高まったことで「新たに暴力が始まった」「家庭内暴力が悪化している」と相談が増えているそうです。
災害などの非常時には人々は大きなストレスを感じやすくなり、それが弱い立場の女性や子どもに向かい、家庭内暴力や虐待が増える傾向にあります。今回のコロナショックでは、加害者も被害者も家にいる時間が長くなり、よりその傾向が強くなったことが浮き彫りになりました。
家庭内暴力の被害者は9割が女性、1割が男性と言われています。男性が被害を受けている場合は「男性なのに女性から暴力を受けているなんて」と、外部に助けを求めにくい状況があることにも注意が必要です。
SDGsが目指すのは、男性も女性も社会的に平等であることです。さまざまなシーンで女性が不利益を被っているため、SDGsの目標5は女性に焦点をあてた内容になっていますが、「男性だから」「女性だから」という理由で不平等が生まれないように、一人ひとりが周りの人にジェンダーを押しつけてしまっていないか考える姿勢をもつことが大切です。
「ジェンダーギャップ」や
「ジェンダーフリー」の意味は?
最初に説明したように、ジェンダーとは社会的な性別のことを指します。
たとえば、あなたは周りの人に「男の子なのに赤いランドセルなんておかしい」「女の子なんだからおとなしくしなさい」と言われたことはありませんか? 今は、男の子が赤いランドセルを使っていても、人一倍活発な女の子がいても、個性として受け入れられる世の中になってきました。
でも、少し前までは、本当は赤いランドセルが欲しくても「男の子だから」と黒いランドセルを選ばなければいけなかったり、「女の子だからおしとやかに」と叱られたりすることが多くありました。
このように、「周囲からのイメージの押しつけによって、一人ひとりが個性や能力を発揮できない状況になってしまうことを防ごう」という考え方が出てきたことで、「ジェンダー」という言葉が広く使われるようになったのです。
生まれつきの性別とは別に、ジェンダー=社会的性別という見方が出てきたことで、性別に関する考え方も深まってきました。ここでは、最近よく聞くようになったジェンダーにまつわるキーワードについて詳しく見てみましょう。
■ジェンダーギャップ
ジェンダーギャップとは、男女の違いにより生まれる格差のことです。「男女格差」「ジェンダー不平等」などと言われることもあります。
ジェンダーギャップを表すデータとして有名なのが、世界経済フォーラム(World Economic Forum/WEF)という組織が毎年発表している「ジェンダーギャップ指数」です。この指数は、国ごとに経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータと、総合的な指数が数字で示されます。指数が小さいほど男女の間に不平等があり、指数が大きいほど男女の格差がないという目安になります。
■最新の日本のジェンダーギャップ指数は?
2023年の「ジェンダーギャップ指数」を見ると、男女格差の少ない国は1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランドとなっています。日本は健康や教育の分野では男女格差がほとんど見られず世界トップクラスであるものの、全体では146か国中125位となりました。政治や経済の分野において女性の参画率が低いことが目立ち、格差の解消が求められています。
■ジェンダーフリー
ジェンダーフリーとは、社会的な性別の違いによる役割分担にしばられることなく、一人ひとりが自分の能力を生かして、自由に行動したり生活したりできるようにしよう、という考え方のことです。社会的性別(ジェンダー)から、自由(フリー)になる、という意味があります。
「男性は家庭の外で働くもの」「女性は家で家事・育児に専念するもの」といった固定されたイメージは、一人ひとりが自分らしく生きていくことを制限してしまうことがあります。たとえば、以前の日本では「男子厨房に入るべからず」という言い方をされることがありました。家庭の料理は女性がするべきものという考え方が強かったのです。でも、男性でも料理が好きだったり、得意だったりする人もいますよね。
「誰もが性別の違いにとらわれず、自分らしく生きることができる社会にしよう」というのが、ジェンダーフリーの考え方です。
■ジェンダーレス
ジェンダーレスとは、「男女の区別をなくす」「男女の境界がない」という意味があります。「社会的性別=ジェンダー」に接尾辞の「~がない=レス」がついた言葉です。
男女どちらでも着られる洋服を作るブランドが増えて、「ジェンダーレスファッション」が話題になっています。また、男性が化粧をしたり、男女の服装の違いではなく自分らしさにこだわった服装をしたりする「ジェンダーレス男子」もSNSを中心に注目されています。
先ほど紹介した「ジェンダーフリー」は、社会的な性別の差がテーマになっている考え方です。
それに対して、「ジェンダーレス」は自分自身の性の在り方がテーマになっています。つまり、自分の生まれつきの性や、男らしいとか女らしいという周囲の思い込みよりも、自分らしい服装やメイク、言動を大切にしたいという考え方を示していると言えます。
■LGBTQ+
ジェンダーの問題を考える中で覚えておきたいのが、LGBTQ+と呼ばれる人たちのことです。これまでは性の違いは、男性と女性に分けるのが一般的でした。しかし、体の性と心の性が違ったり、同性が恋愛対象になったりする人もいます。男女以外にも多様な性があることを一人ひとりが知り、社会全体で受け入れることが大切です。
LGBTQ+とは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー)、Questioning (クエスチョニング)、Queer (クィア)の頭文字をとった言葉です。
- レズビアン…女性同愛者。体は女性で恋愛対象も女性
- ゲイ…男性同愛者。体は男性で、恋愛対象も男性
- バイセクシュアル…両性愛者。男性も女性も恋愛対象
- トランスジェンダー…生まれたときの性別と、自分の認識している性別が異なる人
- クエスチョニング…自分の性自認や性的嗜好が定まっていない人、またはあえて定めていない人
- クィア…既存の性の概念やカテゴリに属さない人
ジェンダー平等に
関する
世界や日本の
これまでの取り組み
SDGsでジェンダーの平等が目標に掲げられる以前から、男女の間の格差や性別による差別をなくしたり、女性の地位を向上させたりするための取り組みが世界中で行われてきました。
その中心となっているのが、国連が主催して1975年からほぼ5年おきに開催されている「世界女性会議」などの会議です。1975年にメキシコシティで開かれた第1回から、2010年のニューヨークでの開催まで7回開催されていて、女性の地位向上や差別の撲滅を目指して議論が重ねられ、国際的な取り組みと各国の取り組みの両方に対して行動指針が示されてきました(「世界女性会議」と称したのは第4回まで。以降は会議の名称を変更して開催された)。
この一連の会議には日本も参加していて、第1回世界女性会議で採択された世界行動計画をはじめとして、1980年の第2回で署名が進められた「女子差別撤廃条約」や、1995年の第4回で採択された「北京宣言及び行動綱領」といった、女性の地位向上とジェンダー平等のための国際的な約束事を支持してきました。
■日本における取り組み
国際的な動きに合わせて国内でも法律の整備が進められ、1986年には男女雇用機会均等法が施行されました。男女雇用機会均等法は労働基準法とともに、社会の変化に合わせて改正がくり返されています。
日本のジェンダー平等に対する取り組みの中心となっているのは、内閣府に設置された「男女共同参画局」です。男性も女性も、自分の意欲に応じて活躍できる社会をつくることを目指して、法律や政策の整備を進めています。代表的な法律には、1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」、2001年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」、2015年に施行された「女性活躍推進法」などがあり、これらの法律も随時改正されています。
そのほかにも、女性の再就職・再雇用を促進するプランや、仕事と生活を両立したりするためのガイドラインなどもつくっていて、女性の地位向上や男女平等のための取り組みを続けています。
さらにSDGs(持続可能な開発目標)目標達成への協力のために、2016年には内閣に「SDGs推進本部」が設置され、毎年「SDGsアクションプラン」が発表されています。このプランの中でも、ジェンダー平等や女性のエンパワーメント(能力向上)が柱の一つになっていて、2023年の「SDGsアクションプラン」においても、8つの重点分野の一つに定められています。
少し難しい話になってしまいましたが、ジェンダーの問題とその解決のための取り組みがイメージできたでしょうか。大きなポイントは以下の3つです。
- 社会的な性別による違いが差別や格差といった不平等のもとになっていること
- ジェンダーの平等を達成するためには、差別や不平等に苦しんでいる女性を減らすことが大切なこと
- 男性も女性も含めたすべての人がいきいきと活躍できる社会を目指そうという動きが世界で広まっていること
ジェンダー平等に向けて一人ひとりができることとは
ジェンダー平等に向けての取り組みは、国連や国だけでなく一人ひとりが行っていくことが大切です。最も身近な家族の中でも、ジェンダーの平等を考えることはできます。あなたの家族の中で、外で働いている人はいますか? 掃除や炊事、洗濯などの家事は、誰がどのくらいやっていますか? 子どもの面倒は、誰がどのくらい見ていますか? 自分の家族のことを調べてみると、ジェンダーギャップを見つけることがあるかもしれません。もし、誰かだけ負担がとても重いとわかったら、仕事や家事、子育てを分担していくことでも、ジェンダーの平等を達成する一歩になります。ぜひ家族で話し合ってみましょう。
[参照元]
※参照元サイトのURL変更や掲載期間終了により、ページが閲覧できない可能性があります。ご了承ください。
SDGs目標5. ジェンダー平等を実現しよう | EduTownSDGs
https://sdgs.edutown.jp/info/goals/goals-5.html社会的性別の視点について|内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/zentai/20/pdf/shiryou7-3.pdf家庭内暴力の相談件数、「ロックダウン開始から25%増」=英慈善団体 - BBCニュース
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52180187深刻になるDV、虐待…自粛が進んでも、止めてはいけない支援がある【新型コロナ】 | ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e82c10fc5b6d38d98a3b679男女共同参画に関する国際的な指数|内閣府男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html男女共同参画白書 平成30年版|内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s07.html男女共同参画情報誌『あなたとわたし』|福生市生活環境部協働推進課
https://www.city.fussa.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/027/56.pdf「共同参画」2020年3・4月号 | 内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/202003/202003_07.htmlLGBTとは | 東京レインボープライド2020
https://tokyorainbowpride.com/lgbt/「男女共同参画社会」って何だろう? | 内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/society/index.html基本計画 | 内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/index.html国際規範・基準 | 内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/international/int_standard/index.html法律 | 内閣府男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/law/index.html国連等の動きと国内本部機構を中心として主な取り組み|男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/kihon/wg/kokusai/pdf/ko-s1-3-4.pdf