今週の特集
子どもはお金の知識がないことから、悪気がなくてもトラブルに巻き込まれてしまうことも。お金との適切な付き合い方を身につけるために、保護者はどのようなサポートをしていけばいいのでしょうか。
子どもの環境・経済教育研究室代表の泉美智子先生に、ベネッセのお金に関するアンケートでよせられた実際の子どものお金トラブルをもとに解説いただきました。
親の知らないところで友達に物を買ってもらっていた。
子どもどうしで買い物へ行き、友だちの分まで支払わされ、さらにお釣りは友だちの物に。子ども自身、よく分かっておらず、それで自分が不利益になる事が分かっていなくて、困りました。
友達どうしでのおごりや
お金の貸し借りはNG
ということをどう伝える?
お金の貸し借りは信用問題。相手の立場を想像させることが効果的。
子どもの状況に応じて「即効性のある強硬手段」や「想像力を磨く会話」を組み合わせて長い目で伝え続けていくことが大切。理解が浅く危なっかしいということであれば、お金を渡さないという強硬手段に出るのもひとつです。
ある程度、理解も分別もついてきたら「想像力を磨く会話」を重ねてください。「お金の貸し借りはダメ」と一方的に言うだけでなく、「友達にお金を借りてジュースを買ったけど、あなたが返すのを忘れたら友達はどう思うかな?」と、逆の立場を想像させることで、軽い気持ちのお金の貸し借りに伴う信用問題などに気づきが生まれるはずです。そうすれば、簡単に貸し借りしていいものではないという点にも体験を通した納得が生まれてくるでしょう。
また、「お金の貸し借りはNGという基本ルールも、絶対ではない」というスタンスも重要。「一緒に出かけた友達が帰りの電車賃を忘れてしまった」という場合など具体的なケースをもとに、子どもに丁寧に説明してあげてください。このときも「相手の立場を想像させる」ということが効果を発揮します。
お金の教育は、絶対的なルールがあるわけではなく、地域や家族ごとにも価値観が異なるものです。原則を知った上で、ご家族やお子さまのタイプ、理解状況に合わせて対応してください。すぐに結果が出ることを求めず、じっくりゆっくりと感覚を磨いていきましょう。
長男が中1の時にスマホを持たせました。ゲーム課金に5万円も使ってしまい、あぜんとしました。
ゲームを親に黙って課金。聞いても「知らない」というので、警察に相談。結果、子どもが自ら課金していたとわかりました。
ゲームへの
高額課金発覚。
どう対応すべき?
ゲームの依存性は大人でもコントロールが難しいもの。自制心を養うため「制限がある中で行動する体験」を積み重ねられるように。
ゲームは依存性が高く、大人でもコントロールが難しいもの。課金を促すPRもユーザー心を突く巧妙なものとなっています。そのため「課金はNG」と原則を伝えているだけでは、まったく効果は望めないでしょう。
そのため、「誤ったらこうなる」というペナルティで体験的に学ぶこと、予算など制限がある中でブレーキを効かせる体験をさせていくことを組み合わせて対処していくことが大切です。
まったく自制できないという子どもであれば、ゲームができないよう機能制限するという強硬手段を取るしかありません。罰を与えることはよくないと考えるかたもいらっしゃると思いますが、「困る」という体験は大きな学びとなります。大切なのは、なぜ禁止するのかという理由をとことん話し合うこと。一方的な禁止だけでは、子どもは反発するだけで納得できません。
また、自制心を養うには「制限がある中で行動を選択する」という体験を積み重ねることが必要です。たとえば、親子で話し合っておこづかいの中から月にいくらまでなら課金していいかを決めてみてください。限りがあることを意識できれば、無思考の行動は減らしていけます。
さらには、実際の課金結果を振り返って話し合うことも大切です。決めていた金額を超えてしまった場合は「◯◯円多く使ってしまっているから、買いたいといっていたマンガはあきらめよう」など、トレードオフを体験させてください。それにより、やりくりを考える思考を身につけていくことができます。どうしても欲しいアイテムがあるのであれば、「お正月に使わずにためておいたお年玉を使う」という選択を取るのもアリ。使い残しておけば、未来の自分が助かることがあるという成功体験は、無駄遣いをしないという姿勢も磨けます。
また、大前提としてお金は失敗から学ぶことの多いもの。致命傷にはならないくらいの程よい失敗から、気づきや学びをどう伝えられるかが求められます。
服を買いに行った時、値段を気にせず欲しいと思ったものをレジに持って行こうとしたので、慌てました。
親のお金は、永遠に無くならないと思っている
お金の計画性を
身につけるには?
必要性、計画性を考えるためのフレームが必要。メリット・デメリットを踏まえた上で選択する思考法を。
「本当に必要か考えなさい」「計画的に考えなさい」と声をかけるだけだと、なかなかうまくいかないことも多いと思います。 子どもは「考えなさい」と言われても、「どう考えればいいか」がわからず戸惑ってしまいます。まずは、考えるためのフレームを準備してあげましょう。
私がセミナーなどで紹介しているのは、アメリカの金融教育教材をアレンジした「デシジョンツリー(意思決定の木)」。買うか買わないかを考えるときに、制約や状況・条件を踏まえて、最も賢い選択ができるようになります。たとえば、ゲームソフトが欲しいと思った場合をみてみましょう。
ゲームソフトを買うか買わないかの選択肢を4つ考える
例)
- 1買う
- 2買わない
- 3保護者にお金を借りて買う
- 4きょうだいとお金を出し合って買う
各選択肢のメリット・デメリットを考える
例)
- 1買うの場合
メリット:楽しく遊べる/誰も持っていないから自慢できる
デメリット:ためていたおこづかいのほとんどがなくなる/新作が出たら使わなくなる
それぞれの選択肢のメリット・デメリットを踏まえて、どれか1つを選ぶ
STEPを通して、筋道を立てて考え、ロジカルな選択ができることを実感いただけるのではないでしょうか。これが「必要か考える」「計画的に考える」ということです。自分で考え、結論を選択することで、納得感も生まれ、お金の自立につながります。
一方的なルールNG!
対話を重ねて感覚を磨く
保護者が決めた一方的なルールは、お子さまの納得感が得られにくく、反発を招きやすいです。「貸し借りはNG」といっても、どうしても必要性に駆られる場面もあるもの。ルール至上主義は実態に則しません。お子さまと対話を重ねてルールを決めること、トラブルがあった際も言い分も聞きつつ、しっかりと話し合うこと。致命傷にならない程度の失敗から学びながら、時間をかけてお金の感覚を磨いていきましょう。
「買う」に至るまでの
プロセスを伝える
「お金を払って商品を買う」に至るまでのバッグボーンを知ることで、お金の価値が見えてきます。「お金って何?」を実感させるためにも、買い物の際などにぜひ伝えてあげてください。購入した牛乳を手にするまでに、牧場や物流、加工業者、スーパーなどどんな人が関わり、どんなことをしてくれているのか。1つの買い物も、さまざまな人の労働のうえに成り立っていることがわかれば「値段」の意味も理解できるでしょう。
「●●欲しい!」と
言われたときこそ、
トレードオフの考え方で。
「どうしても欲しいゲームがあるから、おこづかいを先にもらえない?」など、お金に関する子どもの要望をむげにNGとしていませんか?わがままに思えても、トレードオフや、計画を立てる絶好の機会になることも。「どうしてほしいの?」「ゲームを買うのに貸したお金は、いくらずつ返すことにする?」など子どもに質問を。経済学者のケインズも子どものお金の要望に質問をして説明させていたと言われています。
お金の管理以前に
「整理整頓」を教える
整理整頓ができる子どもは、金銭管理もうまくできるとの論文が話題になったことも。整理整頓は、必要の有無を取捨選択し、項目ごとに分担して収納するということ。お金の管理に似ていますよね。収納では「その他」を作らないことが大切と言われますが、「その他」はお金で考えると「使途不明金」ですからね。おこづかいを渡していない小さな子どもの場合は、整理整頓のスキルを磨くことから始めましょう。
年齢別の気をつける
ポイントを意識
幼児・小学校低学年なら…
まだおこづかいをもらっていないことの多い年齢。自分のお金を扱うことになる前に、お金とモノの価値を体感していくことが、自分のお金を上手に管理できるための素地になります。一緒に買い物に行った際の会話などで、お金の流れや経済の仕組みを伝えていきます。卵など第一次産業を例に伝えられるとわかりやすいでしょう。
小学校高学年なら…
おこづかいがあることも多いため、おこづかいの管理についてアドバイスできるといいでしょう。「デシジョンツリー」を使ってみるのも、このころから始めるのが◎。
中高生なら…
行動範囲が広がり、交通系ICなど現金以外の電子マネーを使うことも増える時期。お金を使っている感覚がないまま、どんどん浪費しているようなら、現金のみに制限するのも1つの方法です。
幼児〜小学校低学年におすすめ!
お金で買えるのは物だけではなく、おいしさやたのしさ、はたまた虫歯まで⁉︎お金で買える便利さと不自由さ、暮らしを見つめ直せる絵本です。
小学校高学年以降におすすめ!
文部科学大臣賞を受賞した小学6年生のレポートを書籍化。モノの値段に着目し、身近な事柄をお金に換算することで経済の仕組みを解き明かします。
中高生におすすめ!
レモンをレモネードにして製品化するプロセスから、経済、経営の仕組みを学べる本。
金融リテラシーを高めるために
子どもも大人も楽しめる、経済教養小説。3つの謎をときながら「お金」のことが学べます。
子どものお金の感覚は、程よい失敗を通して学ぶことと、しっかり話し合うことが大切。失敗はあるものとして捉えると、保護者のコミュニケーションの取り方も違ってきそうです。ルールは必要だけど例外もあるからこそ、対話や論理的に考えるフレームを使う経験を重ねて、言葉だけでは教えられない感覚を磨いていきたいですね。