今週の特集Special feature

自学自習を支える親子コミュニケーション

新学期がスタートし、1年で一番やる気に満ちている4月。新しい環境で、保護者はどのようにお子さまの自学自習をサポートしていけばいいのか、小学生、高校生を含む3人の子どもの保護者であり、教育系ライターであり、キャリアコーチでもある中原絵里子さんにお話を聞きました。

【著者】
中原絵里子さん

「自学自習」って何ができていること?なぜ大事?

自学自習とは、人に強制されたり教えてもらったりせず、自分自身で学ぶこと。なぜそれが大切かというと、何を使ってどこで勉強するとしても、自分の意志で取り組まなければ身に付かないからです。

また、自分で情報を収集し、計画を立て、自己管理しながら実行し調整するスキルは、社会に出たあとに必要となるもの。変化の大きい今の時代は特に必要な「生きる力」とも言えます。実際、自学自習ができている人は最終的に難関大学に合格している人が多いというデータも出ています(図1)。

図1:中学1年生の時の自学自習 〜人に言われなくても自分から勉強した〜
  • ※中1データ:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2016年
  • ※大学入学時データ:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「高校生活と進路に関する調査」2022年
  • ※分析は、2つの調査に回答した大学進学者のうち入学難易度について回答があった384名。

具体的にどのように自学自習していたかというと、大学生に実施したアンケートの声では、

「小学校の6年間、毎朝25分進研ゼミに取り組んでから登校していた」

(大阪大基礎工学部M・Y先輩)

「宿題が終わったらお菓子を食べる、問題集を○ページ終わらせたら好きな音楽を1曲聴くなど、ごほうびを決めてやる気を出していた。続けるうちに習慣化されてごほうびがなくてもできるように」

(筑波大医学部A・S先輩)

「ゴールはここ、苦手な分野は何を使ってどんなペースで伸ばしていくかなど事前に決めて計画を立て、うまくいかない時はどこが苦手かを分析して軌道修正した」

(名古屋大経済学部R・H先輩)

このように、学習ペースや動機付け、いつまでに何をするかなどを自分で決めて取り組んでいた様子がわかります。

また、長く教育分野に携わってきた経験から、私が「この人は自学自習ができている」と感じるのは、こういう学習行動ができている人です。

  • 自分で学習計画を立てている
  • 自分のルールを持っている(勉強開始時間やルーティンを決めているなど)
  • まちがえた部分をそのままにしない
  • 自分の苦手を把握し、対策をとっている

誰にでも当てはまる「正しい勉強のやり方」はありません。自分に適したやり方を考えて試し、調整しながら「自分はこのやり方で勉強する」と決められることが大切です。

自学自習、みんなできているの?

とはいえ、お子さまだけで急にできるようになるかというと、そんなに簡単ではありませんよね。実際に自学自習ができているのは、小学生から高校生までいずれも半分程度。特に中学生では「当てはまらない」という割合が増えます。部活が忙しくなる、勉強のスピードについていけなくなるなどが理由として考えられますが、中学生は自ら勉強に向かうことが難しくなる時期であるということは言えそうです。

図2:人に言われなくても自分から勉強する 〜「あまり+まったく」当てはまらない〜
  • ※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2021年
  • ※回答は小4~高3の子ども10,532名

習慣化のための声かけやサポートは小学生のあいだまで

中学生は自学自習するのが難しいのであれば、できれば学習習慣は小学生のあいだに身に付けておきたいもの。まだ多少保護者の言うことを聞きやすいこの時期に自学自習を習慣化できれば、一生もののスキルになります。

そのためにオススメしたい保護者のサポートは、次の3つです。

決まった時間に勉強を始めるためのサポート

決まった時間になったら「勉強する時間だ」と気付けるようにサポートできるといいですね。
我が家の次男(小5)の場合は「そろそろ勉強の時間だよ」と言われるより、携帯電話のアラーム音楽のほうが効果的でした。言葉より音楽のほうが受け入れやすかったようです。
また、その時に今日やるメニューとして何をするつもりなのかを確認していました。「勉強しなさい」よりも「今から宿題と、『チャレンジ』の国語と社会を1つずつやるのね」など、具体的な行動を確認するほうが、何をすればいいのかイメージが持ちやすいからです。

イベントや提出目標日などはカレンダーに書くなどしてリマインド

小学生のあいだはまだ、先の予定を把握してスケジュール管理をするのは難しいため、ライブ授業などのイベントや提出目標日などは、カレンダーなどに書いて目に付くようにしていました。「やる気がないのではなく、ただ忘れているだけ」ということが多いので、忘れてほしくないことはリマインドをするといいですね。

内容に興味を持ち、具体的にほめる

小学校高学年でも、まだまだ保護者のかたにほめられたことで自信を持てたり、がんばるきっかけになったりするもの。また、何を勉強しているのかに興味を持ってもらえるとうれしいようです。
「難しい漢字が書けるんだね」「水溶液の溶け方って、実はお料理でも使う考え方なんだよ。大事なことを勉強しているんだね」など、内容に対してほめられると、自分に関心を持ってくれていると思えて、よりやる気になれるはず。

中学生からは自分で考えられるような働きかけを

中学生になると反抗期に突入するお子さまも増えてきて、保護者から口出しされると余計にやる気をなくして悪循環に陥ることも。なるべく本人のやり方に任せることが大切です。

進研ゼミの教材も、毎日コツコツすべてに取り組むのが前提ではなくなり、学校の授業やテストに合わせた自分なりの活用をするようになります。たとえばテスト前にまとめて取り組んだり、必要な箇所を選んで部分使いしたりするなど、自分に合った取り組み方をしている場合、「全部使わないともったいない」などと口出しをされると嫌がる可能性も。
ただ、テストや模試などの際に、目標に対して結果はどうだったのか、次はどうすれば目標に近付けると思っているのか、確認できるといいですね。

高校生になると、3年間を見通した学習計画を立てて、自分に必要なものを選んで自分のペースで進めることが求められるようになります。受験で必要な教科や、英作文が出るかどうかなど必要な対策も人によって違うので、自分で考えて選ばなければならないのです。保護者にできる一番のサポートは、静かに見守ることなのかもしれません。家ではゴロゴロしてばかりに見えるのも、勉強は図書館など外で済ませてきて、家はくつろぐ場所にしているという場合もあります。いかにお子さまが自分事として考えられるかが大切です。

「自分に合った学び方」は一生もの

机になかなか向かわない我が子を見ていると「やっぱり塾に行かせたほうがいいのかも」など、不安になることもあるかもしれません。私自身も何度も迷いました。でも、自分は何に不安を感じているのか、子どもにどうなってほしいのかをしっかり考えることが大切だと思います。

リスキリング(学び直し)が話題になるように、学びは一生続きます。自分に合った学び方や自分を律する方法を知っていることは、価値ある経験でありスキルだと考えています。ついヤキモキして口出ししたくなりますが、「学び方も学んでいる途中なんだ」と見守ってあげられるといいですね。

【著者】
中原絵里子さん

トラストコーチングスクール認定コーチ。自分を信頼し、周りからも信頼されるようなコミュニケーションの技術を学ぶ講座「トラストコーチングスクール」を提供する傍ら、目標に向けて継続的にサポートするパーソナルコーチングも行っている。ライター、編集者としても活動中。専門分野は教育、受験、コミュニケーションなど。