今週の特集
思春期にかけて子どもの心とからだは大きく成長します。お子さまに正しい性の知識を教えることの重要性は理解しているものの、どのように伝えればよいかわからないという保護者のかたも多いのではないでしょうか。
性教育を行ううえで保護者が何を話しづらいと感じているのか、性教育を実践している浦野匡子先生のアドバイスと併せてアンケート結果を紹介します。
ムダ毛が生えている、生えていないが気になっているようです。
(小6)
息子と息子のサッカー友達数人を、よく近所のスーパー銭湯に連れていっていたが、ある時から息子は行くのを嫌がるように。からだのことで何かあるのか、聞くに聞けません。
(中1)
友達からの情報をうのみにしたり、自分勝手な解釈をしたりすることがある。親の知らないところでまちがった知識を持ってしまうかもしれないと不安です。
(小3)
ネットからの情報が気になります。どれだけ調べられて、見ることができてしまうのか心配に。
(高1)
違う価値観があることを伝える
もしお子さまが誤った情報に触れてしまった場合、「性の話をするタイミングが来た」と思っていただくのがおすすめです。保護者のかたからお子さまにどう思ったのか感想を尋ねてみてください。会話を通して「でもさ、現実にこんなことをされたら嫌だよね」「これは暴力に当たるんだよ」と保護者のかたが違う価値観を伝えることも大切です。
中学生、高校生くらいになると、お子さまが自身のスマホで過激な情報に触れるケースも出てきます。一方でネットには正しい性教育を学べるサイトも多くありますので、お子さまにすすめてみてはいかがでしょうか。
誤った情報を完全に避けることはできないので、同時に正しい知識を得られるようにサポートしましょう。保護者のかたからお子さまに話しにくい場合は、まずは大人が性教育を学ぶことで、子どもに伝えたい言葉や知識を得ることができます。
YouTubeで「キスシーン」などと検索していましたが、どう注意すればいいのでしょうか?
(小3)
自慰(じい)行為が見られることがあり、どう対処したらいいか悩んでいます。
(小1)
ふざけて親や姉弟同士のプライベートゾーンを触ったりするので、幼児性をどこまで叱っていいかわからなくなります。
(中2)
子どもの性的な言動は
2つに分けて考える
まず、自分一人で完結する言動について。「キス」に興味を持つ、自慰行為をすることは自然な欲求で恥ずかしいことや隠すことではありません。自慰行為は心地よさや安心感を得て、自分のからだを大切にしようとする気持ちを育て、性的衝動を自分でコントロールすることへもつながります。
子どもが「悪いことをしている」と思わないように落ち着いて受け止め、「触ってもいいけれど、人に見せたり見られたりするものではないから、一人の場所でやろうね」と伝えましょう。性器に皮膚トラブルなどが起こらないように、清潔な手で行うことも教えてください。
これとは反対に同意なく他人のからだに触ることについては、たとえ家族間であってもいけないことです。キスをする、くすぐる、友達同士でふざけて性器を触り合うなども当てはまります。
特に親子の場合は、子どもは笑っているけれど大人に嫌と言えない、嫌だとはっきり自覚できずモヤモヤしている場合も多いです。プライベートパーツは命に直結する大切な場所です。同意なく触ってはいけないこと、自分も嫌なときは拒否してよいことを家庭で伝えていきましょう。
家庭での実践があることで、他人に不適切に触られた場合に「嫌だ」と認識できるようになり、性被害や性加害の予防につながります。
異性の子どもには話しにくいです。
(中1)
大事なことだからできるだけオープンに話したいものの、どんな言葉でどの程度話せばよいか判断が難しいところです。
(高1)
父親から息子にいろいろと話してもらいたかったけれど、断られてしまいました。
(高3)
ニュース・本をきっかけにする
保護者自身が性教育を学んでいないと、性についての話を切り出せないのは仕方のないことです。一度にいろいろ教えようとするのではなく、たとえばニュースをきっかけに「梅毒にかかる人が増えているんだって。梅毒って知ってる?」などと日常的に取り入れてはいかがでしょうか。
お子さまが思春期になっていて、もしも性の会話を避けるような場合は、保護者から性教育の本を渡すのも方法です。それでもうまく言えないようなら、「困っている友達がいたら教えてあげて」と性の正しい知識が得られる性教育サイトを共有してもよいかもしれません。
小学生向け:
4歳からの性教育の絵本 コウノトリがはこんだんじゃないよ!(ロビー H.ハリス著/子どもの未来社)

中学生向け:
からだノート 中学生の相談箱(徳永桂子著/大月書店)

高校生向け:
性教育はどうして必要なんだろう?(浅井春夫、艮香織、鶴田敦子編著/大月書店)

子どもは性的なことに興味がありそうですが、こちらから切り出すにはまだ早い気がして話せていません。
(小2)
子どもが性的な情報を得る前に話すべきか、子どもから聞かれるまで待つべきか? それとも6年生ぐらいから段階的に話す機会を持ったほうがいいのか……。タイミングが難しいです。
(小5)
シングルマザーなので思春期の息子に対して性成長の話のきっかけがつかめません。息子もそういった話題は避けている感じです。
(中2)
ハードルが低い
1つのことから始めてみる
保護者のかたが性の話を切り出したい、と考える気持ちの裏には何らかの「心配」が潜んでいるのではないでしょうか。まずは今回の記事の中でドキっとしたもの、もしくは「これならできそう」と思った対策を1つだけスタートしてみるのもおすすめです。
性教育には生殖や性交という狭い範囲だけでなく、人権、多様性、ジェンダーなど私たちが人として幸せに生きるためのポジティブなテーマが詰まっています。いわば「自分がどう生きるのか、生きていくのか」を考える学びです。お子さまの「知りたい」に応えられるように保護者のかたも学び続けていくことが大切です。
性教育では、科学的に正確なことをお子さまのプライバシーを尊重して伝えることが基本です。ごまかしたり「〇〇するのはダメ」と説教したりするのではなく、お子さまが困りごとを感じたら、保護者のかたに相談できるような関係性をつくっていってください。
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では5歳から18歳までの学習内容がまとめられていますが、ヨーロッパの性教育のスタンダードは0歳からです。性教育は自分と自分以外の人を大切にするという感覚を育むもの。今からでも遅くはありません。ぜひご家庭で実践しましょう。
「一人ひとりからだが違って
当然」と伝えてみては
からだはそれぞれのタイミングで同じように発達していくことを話しましょう。ペニスや胸などの見た目に悩んでいる様子なら、一人ひとり違っているのは当然だと伝えてあげてください。
ただ性の話は本人のプライバシーに関わってくるので、お子さまが話したくないようであれば無理に聞き出すことはせず、「困っていることがあったらいつでも聞くからね」と、声かけしましょう。