今週の特集Special feature

どうしてこうなった!? 子ともとネット犯罪

スマホやタブレットの普及により、子どもがネット犯罪に巻き込まれる危険性が高まっています。被害に遭うだけではなく、子どもが加害者になるケースも後を絶ちません。お子さまが安全にインターネットを活用するために、保護者のかたは何をすべきでしょうか? 各国の犯罪学に精通し、全国で防犯アドバイスを行っている小宮先生にお話を聞きました。

【監修】
小宮信夫先生

立正大学 文学部社会学科教授

子どもに起こりがちなネット犯罪

CASE.1 ネットで友達をつくったら

知らない大人があらわれた!

TAP!

なりすましで性被害に

主にSNSを通じて子どもに接近し、性犯罪に及ぶケースは枚挙にいとまがありません。犯罪者は子どもたちを信頼させるため、同年代の子どもになりすまし、一緒に遊んだり優しい言葉をかけたりして友達関係をつくります。

ネット上の「なりすまし」は大人でも見抜くことは難しいもの。犯罪者ともなれば、だましのテクニックは相当磨かれています。すでにさまざまな児童ポルノ画像なども所持していて、被害児童の体操着姿や水着姿の写真を「自分だ」と偽って、ターゲットの子どもに突然送ります。

やりとりをする中で、「あなたの写真も見たい」などと言葉巧みに水着姿や裸の写真を要求し、子どもは断れずに送ってしまう……というのがパターンです。その後、送られた性的な写真をネット上に公開すると脅迫し、性暴力や金銭の要求に至ることもあります。このほかネット上で知り合った同年代の友達と実際に会う約束をしたところ、子どもになりすましていた大人が現れ、被害に遭ったという事件も発生しています。

CASE.2 写真投稿をしたら

ストーカーがあらわれた!

TAP!

知らず知らずのうちに
個人情報が流出

SNS上で好みの子どもを探して個人を特定し、実際に会いに行ったり付きまとったりする犯罪者がいます。過去に投稿された写真やプロフィール欄、フォロワーなどの断片的な情報をパズルピースのようにかき集め、行動範囲を推測するのです。

鏡や窓ガラスに映り込んだ景色、写真の背景に写っている電信柱や自動販売機に書かれている住所から自宅が割り出されてしまう可能性も否めません。

CASE.3 SNSに友達の悪口を書いたら

警察官があらわれた!

TAP!

軽い気持ちでやったことが
刑事事件に

ネット犯罪では、実は子どもが被害者になるよりも加害者になるリスクのほうが高いとされています。子どもはデジタルツールを使い慣れている半面、未熟でモラルや良識が身に付いていないことが多いからです。

多く発生しているのが他人に対する誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)。今の子どもたちにとってスマホは拡張された身体のようなもので、おしゃべりをする感覚で他人の悪口を書いてしまうことがあります。SNSに書いたことがきっかけでネットいじめに発展する、勢いあまってうその情報を流してしまうといったケースもあり、内容によっては名誉棄損や脅迫、傷害罪で訴えられ、警察が出てくることになります。

子どもは匿名だからばれないだろう、と考えがちですが、IPアドレスなどから発信者は特定されます。SNSにおける誹謗中傷は、自分の住所を記入したうえで他人の悪口を書いた紙を街の掲示板に貼り出すようなものなのです。

インターネットで犯罪が発生しやすいのは「入りやすく見えにくい」場所だから

犯罪は「入りやすく見えにくい」場所で起こるのが常です。入りやすいとは、「誰もがそこに簡単に入ることができ、そこから簡単に出ていける場所」のこと。見えにくいとは、「その場の様子をつかみにくく、犯行そのものを目撃される可能性が低くなる場所」を指します。

機器さえ持っていれば誰もが自由に行き来ができて、正体を隠したまま利用できるインターネットはまさしく「入りやすく見えにくい」世界。Twitterやインスタグラムといった有名なSNSだけでなく、ゲームアプリでのチャット機能や十代向けの匿名チャットルーム、匿名掲示板、音声チャットアプリなど、知らない人とやりとりができるコミュニティーは数多く存在します。

ネット上にはリアル空間以上に「入りやすく見えにくい」場所は多くあり、常に犯罪のリスクが潜んでいることを、お子さまだけでなく保護者のかたも再認識する必要があります。

ネット犯罪から子どもを守る3つのオキテ

オキテ1 街の掲示板で
発信できないようなものは
投稿しない・送らない

SNSに投稿するということは全世界にその情報を公開するということ。リアルな世界に置き換えると、街の掲示板で発信するようなものです。内容によっては街どころか、何万人、何十万人という人の目に入る大都市の電光掲示板に例えられるかもしれません。

親しい友達だけで共有したつもりが、いつの間にかどこかから拡散してしまうこともあり得ます。他人に対する悪口や誹謗中傷は、そもそも投稿するべきではありませんよね。自分の性的な画像を街の掲示板に貼ることもしないでしょう。知らない相手だけではなく、友達や交際相手にも送ってはいけないということです。

デジタルとリアルの世界は地続きです。同様に保護者のかたもご家族の写真をSNSなどに掲載する際には、個人情報を組み立てられるピースにならないか、お子さまの安全を守ることはできているか、投稿する前にいま一度慎重になってみてください。

matome:誹謗中傷、性的な画像、個人情報は流しちゃダメ!

オキテ2 フィルタリング機能を
過信しない

お子さまをインターネット上の「入りやすく見えにくい」場所に近付けないようにするには、フィルタリング(有害サイトアクセス制限サービス)が有効です。ただ、あれもこれもやみくもに禁止すると、お子さまは何とか抜け道を探して、保護者の目の届かないところでSNSなどを始めようとするかもしれません。

フィルタリング機能に頼るだけでなく、SNS上では何をするとどんな危険が起こり得るのか、事例などを参考に、お子さまが納得するまで丁寧に教えましょう。年齢が上がるのに従って制限するサイトを見直し、知らない人とSNSでやりとりをすることが出てきてもいいと思います。家に完全に閉じ込めるのではなく、街を歩きながら、自分で危険を予測できるようになるのが大事なように、ネット空間も、そこから遠ざけるのではなく、お子さまが自分で考えて自分で対処する方法を学ぶことも必要です。

その際は、お子さまには犯罪リスクの高い場所にいることを念頭に置くように伝えましょう。いつターゲットにされてもおかしくはないと認識して警戒レベルを上げること、知らない人に個人情報を伝えたり金銭や性的な交渉には決して応じたりしないこと、トラブルが発生した場合は保護者や先生に相談することを教えてください。

matome:「なぜダメか?」を納得できるまで教える

オキテ3 ネット友達に会う時は
保護者同伴

ネット上で知り合った友達とリアルに会いたい、とお子さまが言い出すケースもあるでしょう。ネットで出会う人すべてが犯罪者というわけでもないので、どうしても行きたいと言うのであれば、保護者のかたが同伴するのも一案です。

中学生、高校生以降でもお子さま一人で行かせることは絶対に避け、少なくとも友達などを連れ、複数で会うようにしましょう。

matome:団体行動でリスクを減らす!

まとめ

デジタル環境は急激に進化しています。子どもたちは知っているけれど、大人世代はほとんど知らないSNSサービスも多々あります。何が安全で何が危険なのか、説得力を持って伝えるためには保護者のかたも情報収集し、デジタルリテラシーを向上させる必要があるでしょう。最新のインターネット事情をチェックしたり、子どもからSNSアプリの使い方を教わったりするのも防犯の一歩になります。

この記事をアプリで見ている場合は画面下のコメント欄の「☆お気に入り」を押すと保存することができます。夏休みの前など、お子さまがスマホを長く使用するタイミングでぜひ伝えてみてくださいね。

【監修】
小宮信夫先生

立正大学 文学部社会学科教授

社会学博士。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省などを経て現職。地域安全マップの考案者であり、警察庁や文部科学省、各自治体で防犯に関わる委員を歴任。テレビ、ラジオへの出演や全国各地での講演多数。著書に『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)、『犯罪は予測できる』(新潮新書)、『子どもは「この場所」で襲われる』(小学館新書)などがある。

文/中澤夕美恵