2023.12.25
『幼児期の終わりまでに育ってほしい「10の姿」』とは?重要性や具体例を解説
小学校に入学する前の幼児期に育ってほしい資質・能力を5領域の内容に合わせて具体化した姿を表した「10の姿」をご存じですか? 遊びを中心とする幼稚園・保育園での生活や学びと、大半の時間は机で勉強する小学校での学びをつなぐカギにもなっている、とても大切な内容です。全国すべての幼稚園や保育園などでは、この「10の姿」を意識した教育・保育を行うこととされていますが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
この記事のポイント
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」通称「10の姿」とは?
「10の姿」は、正式には「幼児期の終わりまでに育ってほしい『10の姿』」と言います。「健康な心と体」「自立心」など10項目からなり、幼児教育の修了時までに領域内容ごとに育ってほしい資質・能力を示しています。幼稚園や保育所、認定こども園には、小・中・高校の「学習指導要領」にあたる「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(以下「要領・指針」)というものがあり、幼児教育・保育の基準や基本的なことがらが定められているのですが、「10の姿」は、その最新の「要領・指針」で初めて示された、これからの幼児教育のあり方に関するきわめて重要なポイントです。
保育の5領域、要領・指針の3つの柱と強いつながりがある
「10の姿」のもとになっているのは、保育を行う上でのねらいと内容を5つに分類して示した「5領域」と言われるものです。具体的には「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5つの領域があり、「10の姿」は、この5領域それぞれの中から、年長の時期に特に伸張していく項目を10個選んで少し具体的に表したものです。
例えば、5領域の1つに「人間関係」がありますが、幼児期にどのような人間関係を育めばよいのかイメージがわきにくいと思います。そこで「10の姿」では、「自立心」や「協同性」などと関連するキーワードを示した上で、卒園の頃に活動として現れてくる子どもの姿を「クラスみんなで共通の目的をもって話し合ったり、役割を分担したりして、実現に向けて力を発揮しやり遂げる」などと例示しています。あくまで保育の目指す方向性を示しているため、実際にすべての園児が例示された通りにできていなくても問題ありません。また、姿の芽が現れるのは卒園前とは限らず、例えば3歳など早い時期でも現れることがあります。
とは言え、「10の姿」は何もせずに急に育つわけではありませんから、園の先生方が、子どもの成長をふまえて何ができるかを体系的に考え、指導計画を作り実践することが求められているのです。
そして、「10の姿」や「5領域」を意識した幼児教育・保育によって、その先の小学校、中学校、高校と上の学校でも続けて育もうとしているのが「要領・指針」に記述されている「生活を営むための知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力、人間性」という3つの資質・能力(いわゆる「3つの柱」)です。幼児教育ではこの「3つの柱」を、小学校以降の「国語」「算数」といった教科指導で育むのではなく、ふだんの遊びや生活の中で育むことを大切にしています。
10の姿の重要性
「10の姿」は幼児期の普遍的なあり方を示したものです。グローバル化や技術革新が進んだり、地域の中で多様な人間関係を学ぶ機会が減ったりするなど、子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しています。そうした中、子どもたちが未知の変化に対応する力を身につけるには、園や保育者が、子どもが将来を生きるために必要な体験を計画的に実践し、かつ、それを小学校以降の学びにつなげていこうとする視点が大切です。
加えて、幼稚園と保育所は国の管轄が異なり、保育所は「養護」の観点と比べて「教育」の観点が弱い面があるなど、幼児教育の考え方にばらつきがありました。しかし今は、現行の要領・指針によってばらつきが減るように工夫されています。
また、園と小学校のつながりを強めるために、それぞれの要領・指針/学習指導要領は共通の言葉が意図的に使われています。そのように、乳幼児期から小学校にかけて保育・教育に関わる人たちが、「10の姿」も使いながら幼児教育の大切さや方向性を共通認識していくことで、未来を生きる力が育まれるのです。
「10の姿」各項目の説明と具体的な様子
このように、「10の姿」は幼児期の保育を考える上でとても深い意味を持っています。ここからは、「10の姿」が具体的にどのようなものか、実際の記載内容とあわせてご紹介します。
①健康な心と体
健康な心と体を育て、幼稚園生活の中で充実感や満足感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組み、見通しをもって自ら健康で安全な生活を作り出していけるようになる。
・体を動かすさまざまな活動に目標をもって挑戦したり、困難なことにつまずいても気持ちを切り替えて乗り越えようとしたりして、主体的に取り組む。
・いろいろな遊びの場面に応じて、体の諸部位を十分に動かす。
・健康な生活リズムを通して、自分の健康に対する関心や安全についての構えを身につけ、自分の体を大切にする気持ちをもつ。
・衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動の必要性に気付き、自分でする。
・集団での生活の流れなどを予測して、準備や片付けも含め、自分たちの活動に、見通しをもって取り組む。
②自立心
身近な環境に主体的に関わりいろいろな活動や遊びを生み出す中で、自分の力で行うために思い巡らしなどして、自分でしなければならないことを自覚して行い、諦めずにやり遂げることで満足感や達成感を味わいながら、自信を持って行動するようになる。
・生活の流れを予測したり、周りの状況を感じたりして、自分でしなければならないことを自覚して行う。
・自分のことは自分で行い、自分でできないことは教職員や友達の助けを借りて、自分で行う。
・いろいろな活動や遊びにおいて自分の力で最後までやり遂げ、満足感や達成感をもつ。
③協同性
友達との関わりを通して、互いの思いや考えなどを共有し、それらの実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいながらやり遂げるようになる。
・いろいろな友達と積極的に関わり、友達の思いや考えなどを感じながら行動する。
・相手にわかるように伝えたり、相手の気持ちを察して自分の思いの出し方を考えたり、我慢したり、気持ちを切り替えたりしながら、わかり合う。
・クラスのさまざまな仲間と関わりを通じて互いのよさをわかり合い、楽しみながら一緒に遊びを進めていく。
・クラスみんなで共通の目的をもって話し合ったり、役割を分担したりして、実現に向けて力を発揮しやり遂げる。
④道徳性・規範意識の芽生え
してよいことや悪いことがわかり、相手の立場に立って行動するようになり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いをつけながら、決まりを守る必要性がわかり、決まりを作ったり守ったりするようになる。
・友達や周りの人の気持ちを理解し、思いやりをもって接する。
・他者の気持ちに共感したり、相手の立場から自分の行動を振り返ったりする経験を通して、相手の気持ちを大切に考えながら行動する。
・クラスのみんなと心地よく過ごしたり、より遊びを楽しくしたりするためのきまりがあることがわかり、守ろうとする。
・みんなで使うものに愛着をもち、大事に扱う。
・友達と折り合いをつけ、自分の気持ちを調整する。
⑤社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちをもちつつ、いろいろな人と関わりながら、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に一層の親しみをもつようになる。遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報を適切に伝え合ったり、活用したり、情報に基づき判断しようとしたりして、情報を取捨選択などして役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用したりなどして、社会とのつながりの意識等が芽生えるようになる。
・小学生・中学生、地域のさまざまな人々に、自分からも親しみの気持ちをもって接する。
・親や祖父母など家族を大切にしようとする気持ちをもつ。
・関係の深い人々との触れ合いの中で、自分が役に立つ喜びを感じる。
・四季折々の地域の伝統的な行事に触れ、自分たちの住む地域に一層親しみを感じる。
⑥思考力の芽生え
身近な事象に積極的に関わり、物の性質や仕組み等を感じ取ったり気付いたりする中で、思い巡らし予想したり、工夫したりなど多様な関わりを楽しむようになるとともに、友達などのさまざまな考えに触れる中で、自ら判断しようとしたり考え直したりなどして、新しい考えを生み出す喜びを感じながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。
・物との多様な関わりとの中で、物の性質や仕組みについて考えたり、気付いたりする。
・身近な物や用具などの特性や仕組みを生かしたり、いろいろな予想をしたりし、楽しみながら工夫して使う。
⑦自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、身近な事象への関心が高まりつつ、好奇心や探究心をもって思い巡らし言葉などで表しながら、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる。身近な動植物を命あるものとして心を動かし、親しみをもって接し、いたわり大切にする気持ちをもつようになる。
・自然に出会い、感動する体験を通じて、自然の大きさや不思議さを感じ、畏敬の念をもつ。
・水や氷、日なたや日陰など、同じものでも季節により変化するものがあることを感じ取ったり、変化に応じて生活や遊びを変えたりする。
・季節の草花や木の実などの自然の素材や、風、氷などの自然現象を遊びに取り入れたり、自然の不思議さをいろいろな方法で確かめたりする。
・身近な動物の世話や植物の栽培を通じて、生きているものへの愛着を感じ、生命の営みの不思議さ、生命の尊さに気付き、感動したり、いたわったり、大切にしたりする。
⑧数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数量などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりして、必要感からこれらを活用するようになり、数量・図形、文字等への関心・感覚が一層高まるようになる。
・生活や遊びを通じて、自分たちに関係の深い数量、長短、広さや速さ、図形の特徴などに関心をもち、必要感をもって数えたり、比べたり、組み合わせたりする。
・文字やさまざまな標識が、生活や遊びの中で人と人をつなぐコミュニケーションの役割をもつことに気付き、読んだり、書いたり、使ったりする。
⑨言葉による伝え合い
言葉を通して先生や友達と心を通わせ、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身につけるとともに、思い巡らしたりしたことなどを言葉で表現することを通して、言葉による表現を楽しむようになる。
・相手の話の内容を注意して聞いてわかったり、自分の思いや考えなどを相手にわかるように話したりするなどして、言葉を通して教職員や友達と心を通わせる。
・イメージや考えを言葉で表現しながら、遊びを通して文字の意味や役割を認識したり、記号としての文字を獲得する必要性を理解したりし、必要に応じて具体的なものと対応させて、文字を読んだり、書いたりする。
・絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像をする楽しさを味わうことを通して、その言葉のもつ意味のおもしろさを感じたり、その想像の世界を友達と共有し、言葉による表現を楽しんだりする。
⑩豊かな感性と表現
みずみずしい感性を基に、生活の中で心動かす出来事に触れ、感じたことや思い巡らしたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりして、表現する意欲が高まるようになる。
・生活の中で美しいものや心動かす出来事に触れ、イメージを豊かにもちながら、楽しく表現する。
・生活や遊びを通して感じたことや考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由に描いたり、作ったり、演じて遊んだりする。
・友達同士で互いに表現し合うことで、さまざまな表現のおもしろさに気付いたり、友達と一緒に表現する過程を楽しんだりする。
どの項目も、はじめの文章が「~できる/できている」ではなく、「~できるようになる」と表現されていることにお気づきでしょうか。「10の姿」は、「○○力」と表していません。資質・能力自体を過程として表していて、そのようになっていく過程での重要な点を表しています。
幼児期に育みたい・育まれている力というのは、ふだんの遊びや生活の中で、例えばこのような様子で現れていますよ、という具体的な例をあげているのです。
幼児の育ちはテストの点数で測るわけにはいきません。ですから、目の前の子どもたちの育ちがどうなっているのか?これからどこをどのように伸ばせばよいか?などが分かりにくいとも言われます。しかし、「今日は○○の時に○○ちゃんのこんな姿が見られた」と「10の姿」を参考に、園の先生方が保育の様子を振り返ったり他の先生と話し合ったりすることはできます。「この様子が見られたということは、こんな資質・能力が育っているのだな」「○○みたいな様子が見られたらうれしいな。だから今度はこんな活動を取り入れてみよう」などと、「10の姿」を使いながら、園の保育がよりよいものになっていくといいですね。
家庭でも「10の姿」は活用できる
「10の姿」は、幼稚園や保育所等向けに作成されたものですが、その内容は家庭でも活用できる内容となっています。ご家庭でも「10の姿」を参考に、お子さまが「できた!」様子を目にしたら、それがどのような資質・能力が身につきつつあるのかを考えたり、「今度こんな声掛けをしてみよう」と育児の参考にしたりするとよいかもしれません。また、「この行事は○○の力を伸ばすために行われているのだな」などの視点で園の活動内容を捉えると、園での遊びが単なる遊びではなく、小学校以降の勉強につながる意味のある活動であることがわかると思います。
10の姿は、子どもの成長の方向性を示す参考としておおらかに構えながら、ぜひ、お子さまの個性に合った子育てをのびのびと楽しんでいただきたいと思います。
取材・執筆:神田有希子
※掲載されている内容は2023年12月時点の情報です。
監修者
高岡 純子たかおか じゅんこ
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
2019-21 ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室室長。