教育用語解説|キャリアパスポート

2024.6.13

キャリア・パスポートとは? 導入の背景や保護者ができるサポートを解説

就学期のお子さまがいるご家庭で、学年末や大きな行事のあとに、感想や振り返りが書かれた用紙を持ち帰り、保護者欄へのコメントを求められたことはありませんか? それは、2020年度からすべての小中高校で始まった「キャリア・パスポート」のことかもしれません。
社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら自分らしく生きる力を育むキャリア教育活動の一環として行われているのが、「キャリア・パスポート」です。その概要や家庭での活用例をお伝えします。

キャリア・パスポートとは

「キャリア・パスポート」とは、小学校から高校までのキャリア教育に関する活動について、児童生徒が自分の学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自分自身の変容や成長を自己評価できるように蓄積していく記録(ポートフォリオ)のこと

目的は、子どもにとっては、学習状況やキャリア形成を振り返ることで主体性を育み自己実現につなげることです。教師にとっては、子どもと対話的に関わることで子どもの成長を促し指導に役立てることをねらいとしています。
すべての小中高校での作成・活用が事実上義務付けられており、地域や学校によっては、「キャリアノート」「ポートフォリオ」などオリジナルの呼び名を付けていることもあります。

キャリア・パスポート導入の背景—キャリア教育の重要性

出典:「キャリア・パスポート」独立行政法人教職員支援機構

2016年に国がまとめた報告書(※)の中で、キャリア教育の重要性と、キャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ的な教材を作成・活用することが提言されました。それを受け、2020年度から用いられているのがキャリア・パスポートです。

キャリア教育そのものの歴史は古く、明治時代から職業教育の重要性がいわれてきました。近年では、キャリア教育の視点で課外活動の状況を記録したり、ワークシートを蓄積したりしてきました。しかし、地域や学校種に限定された取り組みだったため、学習指導要領の改訂を機に共通化を図ったのです。
「キャリア・パスポート」として文部科学省が基本的な書式例を示し、A4判の大きさで学年ごとに5枚以内とする規定がありますが、完全に統一されたフォーマットはなく、地域や学校の実態に応じてアレンジできるようになっています。

※中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について(答申)」平成28年12月

キャリアパスポートの活用事例

学校では、「キャリア・パスポート」をどのように使っているのでしょうか。中心となる授業は、学級活動などに代表される特別活動の時間です。それまでに記録したワークシートや日記、作文などを基礎資料として、内容を整理・参照しながらキャリア・パスポートに必要事項を記入します。

たとえば、ある中学校では、小学6年生時のキャリア・パスポートと中学1年生時の学期ごとのキャリア・パスポートを準備しておき、6年生の時に書いた「理想の中学生」と今の自分とを比べて感じたことをグループで話し合います。それらを踏まえて、2年生になった自分への応援メッセージと、これからがんばることをキャリア・パスポートに記入して発表します。子どもにとっては1年間の成長と今後の展望を考える機会となり、教師にとっては、短期と中期、両方の時間軸で目標を考えさせることで、未来への決意と具体的な行動がつながるように指導できます。

キャリアパスポートの書式の例
キャリアパスポートの書式の例

出典:「キャリア・パスポート」例示資料等についてー文部科学省 キャリア・パスポート(例示資料)中学校指導者用 (Word:310KB)

キャリア・パスポートの課題は連携の難しさ

「キャリア・パスポート」は、小学校から中学校、高校へと引き継いで蓄積していくものです。しかし、入学や転入など、学校が変わるタイミングでの連携がきちんとなされないケースも見受けられます。

主な理由として、一つは、学校が変わる際の受け渡しは、教師や学校ではなく子ども自身が行うことになっていることがあります。もう一つは、前の学校と入学・転入先の学校とで書式がバラバラな場合も多く、受け手の先生にとっては取りまとめて内容を読み込む負担がとても大きいことです。今後は、これらの課題がクリアされ、小中高の連携を強化することで、キャリア・パスポートの活用意義がさらに高まることが期待されます。

子どものキャリア教育のために家庭でできることは?

キャリア・パスポートの活用は、学校だけで完結する教育活動ではありません。学期や学年の節目で保護者がコメントを記入することがあると思います。その際に、保護者が一人で書くのではなく、ぜひお子さまと一緒に、キャリア・パスポートに書かれた内容を読んで対話しながら書いてみてください。教師だけでなく、保護者も子どもと対話的に関わることで、子どもの成長が促されます。先生ではなく保護者だからこそかけられる言葉を子どもにかけ、認め、励ましてあげることで、子どもの自己肯定感や前向きな気持ちが育まれるでしょう。

キャリア・パスポートは大学やその先にもつながる大切な「自分確認ツール」

「キャリア・パスポート」の作成で最も大切にしたいのは、子ども自身が自分の歩みを振り返り、それを自分の言葉で表現して蓄積しておくことです。高校生になると、3年間蓄積したキャリア・パスポートの内容が大学入試にも役立ちます。学校推薦型選抜や総合型選抜などで大学の志望理由を書く際に、キャリア・パスポートの内容をもとに考えることが多いからです。大学入試はまだ先、という場合でも、普段から日々の振り返りと節目ごとの振り返りを組み合わせて行っておくと、自分を客観視し、すべきことや進むべき方向を考える手だてになるでしょう。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2024年5月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

たにもと ゆういちろう


ベネッセコーポレーション学校カンパニー
教育情報センター長

1985年、岡山県生まれ。2007年、(株)ベネッセコーポレーション入社。
九州支社にて、大分県・熊本県・宮崎県の高校営業などを担当し、2016年より東北支社にて学校担当の統括責任者。2019年より現職。講演会・研修会の実績も多数。現在は、大学入試の分析、教育動向の読み解きや、全国の高校教員向けの各種セミナーを企画し、情報発信を行っている。2021年度より島根県総合教育審議会委員を担当。

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