1冊で2つのプログラミング言語を学べるお得な本
本書は、ブロックを使ったビジュアルプログラミング言語のスクラッチと、よく使われる英語の単語を使ったテキストプログラミング言語のパイソンの2種類のプログラム言語について、初歩からゲームが作れるところまで一気に学ぼうという欲張りな本です。
インターネットにつながるパソコン1台とこの1冊で、7つのプロジェクトを作ることができます。
目次は公式サイトに掲載されています。それらを元に、本書で作れるプロジェクトをプログラミング言語ごとに整理すると以下のようになります。
プロジェクト1 ドラゴンから逃げろ!(スクラッチ)
プロジェクト2 サイコロを作ろう(スクラッチ)
プロジェクト3 サルVSコウモリ(スクラッチ)プロジェクト4 ゆうれいゲーム(パイソン)
プロジェクト5 自動作文マシン(パイソン)
プロジェクト6 作図マシン(パイソン)
プロジェクト7 潜水艦ゲーム(パイソン)
スクラッチでプログラミングの基礎を身につける
まずはブロックで視覚的にプログラムを組み立てるスクラッチから始まります。
スプライトとスクリプトなどの用語や、できることの機能やその操作が丁寧に説明されています。
実際に動かすことを楽しみながら一歩ずつ本の通りに試していくことで、プログラミングの方法を学ぶことができます。
漢字にはふりがなが振られ、小学生に読めるように工夫されていますが、本文及び吹き出しやコラムの文字量、説明量は多めです。
実際にプログラムを動かし結果を観察して「あれ?ここはどうしてこうなる?」などと疑問に思ったことを答え合わせしていくような読み方ができる人に向いています。
スクラッチ最後のプロジェクト、サルVSコウモリでは、サルがバナナを放り投げてコウモリを落とすシューティングゲームが完成します。ここまでの内容で、イベント、繰り返し、条件分岐、変数とリスト、乱数など、プログラミングの基本的な考え方を身につけることができました。
パイソンは実際の商品やサービスでも使われている本格的なプログラミング言語
本書の後半から学ぶことができるパイソンというプログラミング言語は、グーグルやNASAなどの大きな企業でも実際に使われていて、様々なソフトウェアが作られている本格的な言語です。しかも、習いやすく使いやすいという特徴があります。
この本ではテキストプログラミングの導入として、スクラッチでの命令とパイソンでの命令の比較表が掲載されています。本の前半で学んだスクラッチでのプログラミング方法をパイソンではどう表現するのかを、一覧で学ぶことができます。
パイソンのプログラミングは、文字だらけの二つのウィンドウ(シェル・ウィンドウとコード・ウィンドウ)を駆使して進めます。
スクラッチとは全く異なる文字だらけの画面は少し取っつきにくい印象を持ちがちですが、本書のカラフルで楽しいイラストと丁寧な説明は、初めてのテキストプログラミングを応援してくれます。
エラーの発見と修正が正念場。その後に得られる達成感は本書の最大の魅力
本書を読み進めながらパイソンでプログラミングする時、基本的には、掲載されているテキストをその通りに入力する作業になります。
これまでに読んだ教本によっては、本に載っているスクラッチのプログラム(プロジェクト)がそのままスクラッチ上で公開されていたこともあり、最初は「このテキストも、そのまま出版社のサイトで公開してくれればコピーでできるのに…」という印象も持ちました。
しかし実際にやってみると、大文字と小文字を取り違えたり、textとtestを間違って入力していたり、‘(シングルクォーテーション)や :(コロン)を忘れたり、行頭の字下げ(インデント)を間違えたり…と、コピーしていては絶対に起こさない間違いがたくさん起こりました。
おかげで、どんな間違いをすると別の命令と受け取られてしまうのか、自分がどんな間違いをしやすいのかを知ることができました。それらの間違いを発見し、思った通りにプログラムが動くように何度も修正していくところが正念場と言えます。
全てアルファベットで書かれたエラーメッセージを、エラーチェックリストや「バグとデバッグ」という章と見比べたり、自分の書いたコードと掲載されているコードを何度も点検したりして、何とかプログラムが思った通りに動くようになる瞬間を迎えます。
本書は10才以上が対象年齢になっていますが、10才の子どもだけでこの過程を乗り越えるのはなかなか難しいでしょう。
そばにいる大人も一緒になって「あーでもない、こーでもない」と工夫して試行錯誤を楽しむという環境も必要です。
スクラッチ、パイソンだけでは終わらない、まさに『プログラミング図鑑』
本書は、ただ単にプログラミング言語2つを体験するだけの本ではありません。
『プログラミング図鑑』と書名にある通り、コンピューター全般についての知識や、スクラッチとパイソン以外のプログラミングに関する知識も提供してくれます。
「コンピューターのしくみ」の章では、プログラミング以前に少し立ち戻って、文字コードや論理ゲート、インターネットのしくみなど、コンピューターがどのように動いているのかを丁寧に解説しています。
また「現実世界でのプログラミング」の章では、この本で学習した言語以外のプログラミング言語や、ファイル圧縮や暗号、人工知能などの日常生活を支えている代表的なプログラムの原理が学べます。さらに悪さをするマルウェアの存在や、子どもが興味を持ちやすいゲーム開発に関する説明など多岐にわたる解説もあり、いろいろな角度から読者をコンピューターやプログラミングの世界に誘います。
本書を一冊使いこなす場合、スクラッチやパイソンのプログラミング言語を学ぶ部分は、前回やったことを忘れない程度にまとめて短期間で取り組む方が理解がスムーズかと思われます。
しかしそのほかの解説の部分はそれぞれの子どもの状況に応じて、時間をかけて徐々に読み進めるのもおすすめです。
コンピュータ、プログラミングの世界の入り口に立った一人の子どもが、読み返すたびに新しい発見をしながらこの本を宝物として何年もかけて好奇心を育んで行く様子が想像できます。
出版社 | 創元社 |
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著者 | キャロル・ヴォーダマン 著 / 山崎 正浩 訳 |
発売日 | 2015/10/20 |
ISBN | 4422414151 |
価格 | 3,024円(税込) |
仕様 | 23.4 x 19.6 x 1.6 cm 223ページ |