中学生の作文の宿題をきっかけに、コンピュータのしくみの話へ

本書は、中学生向けのコンピュータのしくみに関する解説書です。
解説書と言えば図鑑のような形式であったり、あるいは教科書のような形式であったりすることがほとんどですが、そういった「よくある」解説書に比べてこの本がユニークなのは、中学2年生の「かなちゃん」とコンピュータ博士の「はかせ」の対話形式で説明が進むことです。
会話は、かなちゃんが「未来について」というテーマの作文の宿題に悩んでいるところから始まります。

はかせは、急激に世の中が変わっていく鍵はコンピュータで、未来について考えるにはコンピュータのしくみを知ることが必要だといいます。半信半疑ながらも世の中が急激に変わっていく秘密が知りたいかなちゃんは、コンピュータのしくみの講義を受けることになります。

幼児・小学生向けの本では、「あそぼう、楽しいよ」という導入からコンピュータやプログラミングの世界に入っていく展開が多い中、中学生向けの本書は、真っ正面から学習、勉強を意識した導入になっています。

コンピュータのしくみをモノで解説する

導入の話の内容は硬派ですが、ちょっと気が抜けたような素朴な絵柄のふたりのアイコンと、余白の多いレイアウト、さらには掛け合いの中で起こるちょっとした脱線話の楽しさなどもあって、するすると読みやすいつくりです。各章、様々なモノを使ってコンピュータの内部で起きている計算のしくみを解説しています。
以下に、それぞれの章のタイトルと内容を紹介します。

第1章 コンピュータってなに?
トランプでカードを順に並べる方法を例に、人間のやり方とコンピュータのやり方の両方を試して、アルゴリズムを学びます。

第2章 コンピュータが計算できるしくみ
コインを使って、2進法と、2進法の足し算を学びます。

第3章 0と1の世界
電気の回路と電磁石のスイッチで、AND、OR、XOR等の論理演算のしくみを学びます。

第4章 複雑な計算ができるひみつ
紙のカードを使って、計算結果を「取っておく」「呼び出す」レジスタのしくみを学びます。

第5章 コンピュータの言葉
紙のカードを使って、計算処理に名前をつけたり、計算結果を「番地」のメモリに格納したりしながら命令と実行について学びます。

第6章 プログラミングってどんなもの?
紙のカードで変数の概念や処理を表す式の概念を追加して、プログラミング言語とコンパイル、機械語について学びます。

第7章 コンピュータと作る世界
色、動画、音を扱うしくみが、第6章までに学んだ事の組み合わせでできていることを理解し、コンピュータのこれまでの進化と未来の発展について議論します。

手を動かす内容も含まれています。読むだけでも理解はできますが、なるべく手持ちのトランプやコイン、ふせんなどを用意して同じようにやってみると、文中の「かなちゃん」と同じような驚きを体験でき、理解も深まることでしょう。

わかりやすさを重視した入門書

かなちゃんがコンピュータのしくみを一通り理解して、改めて「未来について」の作文に取りかかるところで、はかせとの対話は終わります。

コンピュータ用語の詳細な解説を省き、「アルゴリズム」は「必勝法」、コンピュータの基本部品は「機械が押すスイッチ」と言い切って、身近にあるモノを使った簡単な作業を通してコンピュータがしている処理の理解を深めていくという手法が本書の特徴です。
Viscuit(ビスケット)という子ども向けのプログラミング言語を開発し、世の中に広くコンピュータ、プログラミングの楽しさを伝えている筆者の原田康徳さんならではの、わかりやすさ重視の入門書と言えます。

コンピュータの専門家になるわけでもない人もコンピュータのしくみを学ぶ必要があるのが今の時代だと、筆者はあとがきに書いています。
この本は、コンピュータの専門家を目指すわけではないけど、コンピュータのことを知っておくと自分の夢に近づけそうだ、いいことありそうだとピンときた中学生に手に取ってもらいたい本です。
また、コンピュータのしくみを理解したい大人にもぴったりです。この本との出会いが、それを知る第一歩となるに違いありません。

出版社 技術評論社
著者 原田康徳
発売日 2019/3/15
ISBN 4297104598
価格 1,814円 (税込)
仕様 B5変形判/128ページ

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