コンピュータが出てこないコンピュータ科学の本

本書は、ローリーという女の子が、お母さんとけんかして森に迷い込み、ユーザーランドという不思議な世界を旅する小説です。
10歳以上の子どもが対象とされていますが、全ての漢字やアルファベットにはふりがなが振られているので、実際には10歳未満の子どもでも物語を楽しむことができるでしょう。

ユーザーランドの世界は人も動物も地名も非常にユニークです。どうしても背景にうまく溶け込めない「エックスオア」という名のカメレオンや、様々な方法で考えを組み立てる「組み立て屋」の面々、カメに乗っている「アキレス」という名のギリシャ人、何度通過してもまた戻ってきてしまう「リカージョン交差点」などなど。
20章+おまけの1章に込められた物語にはたくさんの数学、論理学、哲学の古典的な命題やコンピューター科学の考え方が隠れていて、主人公のローリーが紆余曲折しながら様々な状況を切り抜けていくのを楽しみながら、その考え方を学ぶことができます。

まずは単純にストーリーを楽しもう

この物語を、コンピュータ科学を学ぶための本だと思って「この物語から学び取れることは…」「この理論が使われている生活のシーンとは…」などと考えながら読むと、正直大変です。
物語の中にはかなりの密度で様々な理論がちりばめられており、それらに関連する人物名や理論名をもじった登場人物たちが出てきて語り出すので、すべてを整理しながら読もうとすると情報過多で疲れてしまうのです。
先生や保護者の方の中には、子どもの学びを想像しながらこの本のそれぞれのエピソードを学校や家庭でどのように活用しようかなどと考えながら読む方もいらっしゃることでしょう。
しかし、まずはあまり理論や歴史との紐付けを気にせずに、ストーリーを単純に楽しむ事をオススメします。

物語と理論・用語の結びつきは巻末の手引きがガイド

巻末には、36ページにわたる「ユーザーランドをもっとよく知るための手引き」があります。いわば、種明かしコーナーです。
物語の中に出てきた理論・用語・考え方などを私たちの住む世界の何に相当するのかを説明しています。
ストーリーを楽しむ中で気になったことを、ここでまとめて確認しましょう。

あとで子ども自身が発見する楽しみを残す工夫

この本で面白いのは、ご紹介した巻末の「手引き」でも、全ての説明をしていないということです。
物語の中ではウィンサムという登場人物が、主人公のローリーに「自分の頭で考えて…」「自分で確かめておいで」などと促します。
それと同じように、本書は読者に対して、わからないことや気になることを考えたり、調べたりすることを促しています。
「訳者あとがき」でこれらの意図がもう一段階種明かしされています。
図書室などでこの本に出合った子ども達が、何年もかけて様々な事を学ぶうちに「『ローリーとふしぎな国の物語』に出てきたあの話だ!」とつながって発見をする楽しみを残しているのだそうです。

この本は、物語になぞらえてコンピュータやプログラミングにつながる知識に触れることができる本です。
しかし、単にそれらの知識の伝授にとどまらず、子ども達の「学びに向かう力」や「学びを楽しむ力」を育むことを応援する工夫が随所に見られる良書と言えるでしょう。

出版社 マイナビ出版
著者 カルロス・ブエノ(著) 奥泉直子(訳)
発売日 2017/2/27
ISBN 978-4-8399-6183-4
価格 2,376円 (税込)
仕様 A5判 240ページ

出版社による解説はこちら
Amazonの掲載ページはこちら