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2023.5.12

思考ツール(シンキングツール)とは?すぐ活用できる具体例一覧も

子どもの考える力を育むことは誰もが大切だと思っていることでしょう。しかし、ただ「考えなさい」と言われても、子どもはどう考えればよいのか、なかなかわからないものです。そこで現在の学習指導要領では、どのように考えればよいかという「考えるための技法=思考スキル」を身につけることを重視しています。その手段として、思考ツール(シンキングツール)と言われるものが使われます。具体的にはどのようなものでしょうか。

思考ツール(シンキングツール)とは? 

思考ツールとは、分類する・比較する・関係づける・順序立てる・構造化するなど、ものごとを批判的、複合的に考える際に、その考えを整理して見えやすい形で表現するための道具(ツール)です。最も有名なシンキングツールの1つが、イギリスのジョン・ベンという学者が考案したことから名づけられた「ベン図」で、皆さんも一度は見たり使ったりしたことがあると思います。ほかにも、動物の形を模したチャート図など、どんなことをどのように考えたいのか、目的に応じて選べるたくさんの種類があります。思考ツールは大人になってからも活用する場面が数多くあり、実際にビジネスの場でも会議やプレゼンテーションなどでよく使われています。

※注:「シンキングツール®」は関西大学黒上晴夫教授の登録商標です
シンキングツールについて 黒上晴夫のサイトへようこそ

思考ツールを学ぶ&使うメリットは?

思考ツールを使うことで、物事をどのように考えると問題点や解決の方向性が見えやすくなるのかがわかります。つまり、「考えるときの考え方」がわかるので、考える力(思考力)が育まれます。加えて、思考ツールを使って学習することで、考える際の中身やプロセスが見える化されるため、子どもが自ら学んだり、子ども同士で学び合ったりすることが容易になります。このことは、いま教育現場で大切にされている「主体的・対話的で深い学び」を実践する上でも効果的な学習ツールであると言えます。

学校では「総合的な学習の時間」を中心にどの教科でも使われる

学校では「総合的な学習の時間」を中心にどの教科でも使われる

学校の授業では、個別学習の場面と、グループ活動などの協働的な学習を行う場面の両方で思考ツールを使うことが期待されています。個別学習を行う際は子どもの思考を促すために使い、協働学習を行う際は、特定の課題や活動について共通の理解を図るために使われることが多いようです。特に「総合的な学習(探究)の時間」は、シンキングスキルを指導することや、その際に思考ツールを活用することが学習指導要領で定められているため、シンキングツールに触れる機会が多くあります。もちろん、思考スキルとは、具体的には「関係づける」「理由づける」「多面的に見る」「比較する」といったどの教科でも使われる活動ですから、シンキングツールも教科・科目を問わずさまざまな学習場面で活用されるのが理想です。

思考ツールを使う際のポイントは、育てたいスキルをはっきりさせること

思考ツールを活用する際はポイントがあります。指導する立場にある教師は、何を、どのように考えさせたいのかを意識して、その目的に合ったツールを使うことが大切です。逆に、使いたい思考ツールありきの発想で授業を組み立てると、育てたい思考スキルが明確になっていないため、思考力の発展につながらない可能性も。「この単元では○○を通して『多面的に見る』大切さを理解させたい」などと、授業の中で育てたい思考スキルが適切に設定されていれば、子どもの思考がクリアになり、対話的な活動も活発化し、思考が深まったり広がったりしやすくなります。

一方、実際に思考ツールを使う子どもたちは、思考ツールが書かれたワークシートに情報を書き出して紙面を埋めることを目的にせず、書き出したことで何が言えるのかを考えたり、新たに気づいたことを意識したりすると、学習の質が高まります。

代表的な思考ツール(シンキングツール)の例

代表的な思考ツール(シンキングツール)の例

思考ツールを使った授業例

実際の授業での活用例をご紹介します。
小学5年生の理科では、「金属」と「鉄」の違いを知るために、電気を通すものと磁石につくものを分けて、それぞれの性質を確認する単元があります。100円玉やアルミホイル、空き缶など、さまざまなものの名前を付せんに書いておき、それを自由に動かしてベン図の中に入れて分類します。それまでの学習では、電気を通すもの(金属)と磁石につくもの(鉄)の区別が難しいことがわかっていたため、ベン図を使って友達と協力しながら整理することで、「金属」と「鉄」の違いに気づきやすくなりました。

学習用タブレットに思考ツールのひな型アプリが入っていると、目的に応じた思考ツールを背景画像に設定してテキスト入力したり、テキストを入力した図は、友達や教師のタブレットと容易に共有したりすることができます。このように、シンキングツールが入っている授業支援ソフトを使うことで学習効果をさらに高めることも可能です。

ベネッセコーポレーションの授業支援ソフト「ミライシード」での活用例

図 ベネッセコーポレーションの授業支援ソフト「ミライシード」での活用例

家庭では、思考力を存分に働かせる活動の手助けを

ご家庭では、シンキングツールそのものをお子さまと一緒に使うケースはあまりないかもしれませんが、普段の生活や遊びの中から、子どもが「これはどのようにすればよいだろう?」と考える機会をできるだけ用意したいものです。そして、子どもが考える場面に出合ったら、ただやみくもに答えを探すのではなく、課題を整理したり順序だてて考えたりすると問題を解決しやすくなることや、そのためのヒントを伝えてあげましょう。そのようにして、自らの問題の解決に向けて、お子さまが思考力を存分に働かせる活動を手助けできるといいですね。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年5月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

くろかみ はるお


関西大学総合情報学部教授

大阪大学大学院人間科学研究科、金沢大学教育学部で勤務後、関西大学総合情報学部教授。専門は教育工学。専門領域はICTを活用した新しい教育、カリキュラム開発、教育評価。近年は、思考ルーブリックによる授業設計と評価、シンキングツールの体系化と普及、総合的学習やインターネットなどを通した「学び」など、思考にかかわる領域での仕事に注力している。
著書:『シンキングツールを学ぶ』(LoiLo)、『教育技術MOOK 思考ツールでつくる 考える道徳』(小学館)

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