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2023.3.17

国際バカロレアとは?概要とメリット、今後の課題点を専門家が解説

ここ数年、「英語が学べて世界中の大学への入学資格を得られる」などの理由から、保護者の間で「国際バカロレア」への関心が集まっています。グローバルな人材育成に力を入れる国の方針と相まって、国際バカロレアの考え方や教育プログラムを導入する学校も増えています。大変魅力的なプログラムである半面、英語力アップや海外大学への進学といった、局所的な視点からみた特色に目が行きがちなことも事実です。国際バカロレアの教育プログラムの概要や、目指す人材像、日本での課題などについて解説します。

国際バカロレアとは?

国際バカロレア(International Baccalaureate:略称「IB」)は、1968年にスイスのインターナショナルスクールで始まった学習プログラムのことです。国際的な視野で行動するための能力やスキルを育むとともに、世界中の大学に進学する際に使える入学資格(国際バカロレア資格)を得ることで、大学進学へのルートを確保することが可能となります。2023年1月の時点で、世界159以上の国・地域、約5,600校で実施されており、認定校の数は年々増加傾向にあります。日本では全国で約160校(インターナショナルスクール等も含む)が認定されています。

国際バカロレアの目的と日本で導入された経緯

IB発祥の地であるスイスは国際機関が多く存在し、世界中から赴任する関係者の子どもたちが、母国をはじめ他国で大学に進学する際に利用できるシステムをつくろうとしたことがきっかけです。欧州では、その長い歴史のなかで戦争が絶えることがなく、平和な世界をいかにつくるかが古くから変わらぬ重要な課題でした。そのためIBが目的とするのは、単に世界の大学に入る力をつけるだけでなく、世界の出来事に関心をもち、自ら課題を見つけてアクションを起こし、よりよい社会を作る人材を育成することであり、教育カリキュラムもそれを大前提に考えられています。

▼国際バカロレア(IB教育)の学習者像
探究する人
知識のある人
考える人
コミュニケーションができる人
信念をもつ人
心を開く人
思いやりのある人
挑戦する人
バランスのとれた人
振り返りができる人

* 出典:国際バカロレア機構 Resources for schools in Japan

日本においてIBの認知度や国の積極的な関わりが増えたのは2013年頃からです。当時、現在と同じようにグローバル化や大学入試の改革が叫ばれていました。その流れで、当時の閣議決定によって、IBの認定校を200校に増やすという数値目標が掲げられました。

年齢に応じて4段階ある国際バカロレアのプログラム

現在のところ、日本で国際バカロレアプログラムを受けるためには認定校への入学が必須です。国際バカロレアの教育プログラムは、グローバル化に対応できるスキルを身に付けた人材を育成するため、生徒の年齢に応じた4段階で構成されています。

1 プライマリー・イヤーズ・プログラム(PYP)
3~12歳を対象に、精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも可能。

2 ミドル・イヤーズ・プログラム(MYP)
11歳~16歳を対象に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも可能。

3 ディプロマ・プログラム(DP)
16歳~19歳を対象に、所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

4 キャリア関連プログラム(CP)
16~19歳を対象に、生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は、英語、フランス語又はスペイン語で実施。

ディプロマ・プログラム(DP)の真髄は「知の理論」

IBのうち、DPの最終試験で一定以上のスコアをとると、世界の主要大学のへの入学が有利になります。入学後の単位が免除されて在学期間が短くなることもありますし、最終試験で高スコアをマークすれば、大学から奨学金がもらえることもあります。
また、それら以上に魅力的で大切なことは、DPのカリキュラム編成です。IBの目的を具現化するかたちで、以下の6つのグループ(教科)および「コア」と呼ばれる3つの必修要件から構成されています。

【グループ】
1 言語と文学(言語A:文学、言語A:言語と文学、文学と演劇)
2 言語習得(言語B、初級言語)
3 個人と社会(ビジネスと経営、経済、地理、歴史、情報テクノロジーとグローバル社会、哲学、心理学など)
4 理科(生物、化学、デザインテクノロジー、物理、環境システム)
5 数学(数学:解析とアプローチ、数学:応用と解釈)
6 芸術(音楽、美術、ダンス、フィルム、演劇)

【コア】
・課題論文(EE:Extended Essay) 生徒が関心のある研究分野について個人研究に取り組み、研究成果を4,000語(日本語の場合は8,000字)の論文にまとめる。
・知の理論(TOK:Theory of Knowledge) 学際的な観点から個々の学問分野の知識体系を俯瞰(ふかん)し、理性的な考え方と客観的精神を養う。さらに、言語・文化・伝統の多様性を認識し国際理解を深めて偏見や偏狭な考え方を正し、論理的思考力を育成する。最低100時間の学習。
・創造性・活動・奉仕(CAS:Creativity, Activity, Service) 教室外の広い社会で経験を積み、さまざまな人と協働作業することにより協調性、思いやり、実践の大切さを学ぶ。最低150時間の学習。

生徒は、グループ1~5の中から各1科目を選択し、さらに、芸術またはグループ1~5の中から1科目を選択し、合計6科目を2年間で学習します。また、3つのコア科目は、探求型の学びや全人的教育を特徴とするIBの象徴的なカリキュラムです。なかでも「知の理論」は、知識そのものを批判的に捉えることからはじめる批判的思考を大切にしながら、「正解のない問い」に対して、よりよい解決方法を考え周囲の人と協力しながら解決していく力を育みます。これからの社会を生きる上で必要な「学び方を学ぶ」カリキュラムと言えます。

国際バカロレアは日本で普及する?今後の課題は

日本では国の後押しもあり認定校が増えつつありますが、当初の予定ほどの速度では進んでいません。学校側の理由としては、IBは1クラス20人程度が上限とされていることや、学習指導要領に準じた指導とIB固有の指導の両立が難しいこと、IBの指導スキルを持つ教員が十分でないことなどから、導入のハードルが高いことがあります。学習者側の理由としては、授業についていけるだけの英語力の不足、探究的な学びやレポートの作成といった時間や労力がかかる学習が多く知的体力が求められる、などがあります。こうした状況を改善するために、一部の対象科目は日本語で実施可能としたり、IBの履修科目を学習指導要領の科目に差し替えたりするなど日本の教育体系に合わせて生徒の負担を軽減する対策が進められています。

まとめ
英語力や海外進学など局所的なメリットだけに注目しない

IBを検討し、海外で学生生活を送る場合は、高額な資金が必要です。保護者は慎重に資金計画を立てることが必要となります。また、IB認定校で一生懸命に学べば英語力がつき、海外大学に入学しやすくなることは事実ですが、そうした大学に入ることがIBの最終目的ではありません。将来にわたって活用できるような「学び方」を学び、探究的な姿勢を持って社会で活躍することに意味があります。さらに、子どもによってはIBの教育方針が合わないケースもあります。保護者もそうしたIBの考え方を正しく理解し、子どもの特性や目指す将来と照らし合わせて丁寧に検討したいものです。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年3月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

後藤 健夫ごとう たけお


教育ジャーナリスト

著書:セオリー・オブ・ナレッジ—世界が認めた「知の理論」(ピアソンジャパン )

大学卒業後、学校法人河合塾に就職。独立後は、大学コンサルタントとして、有名大学などの AO 入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立等に関与。塾・高校の進学アドバイザーも。その後、早稲田大学法科大学院設立に参加。元・東京工科大学広報課長・入試課長。経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会専門委員、岡山大学『教育の実質化断行と基盤体制構築による「学びの構造化」の実現』事業外部評価委員などを歴任。 現在、執筆の傍ら、学習支援産業の顧問やカリキュラム開発のアドバイザー等を務める。高校や大学、地方自治体での講演、ゲストスピーカー多数。 『セオリー・オブ・ナレッジ—世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

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