2019/01/31

第2回 学習時間のあり方を考える その2 どんな子どもの学習時間が長いのか!?

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生
 その1では学習時間が近年、増加している様子を概観した。学習時間は2000年代の前半を底に回復基調にあるが、その主因は宿題の増加であった。子どもたちは、いわゆる「詰め込み教育」が批判されていたころと同等に学習するようになっている。
 それでは、どのような子どもが学習をしているのか。ここでは2017年のデータを使い、誰の学習時間が長いのか(短いのか)について属性別に見てみよう。今回は、「学年」「男女」といった子ども自身の属性に加えて、「母親の学歴」「世帯年収」などの家庭の文化的・経済的な環境、「自治体規模」のような地域的な要因を取り上げる。そして最後に、「学習計画の有無」や「メディアの時間」という子ども自身にコントロールできる要因によって学習時間がどう変わるかを確認しよう。

受験の学年は学習時間が長い

 まずは、学年による違いである。図表6は、小学4年生から高校3年生まで、「宿題」「家庭学習」「学習塾」それぞれの時間を示した。また、参考までに、大学生に実施した調査を用いて、大学1年生から4年生までの「授業の予復習」「自主的な学習」の時間を並べた。
 ここからは、日本の子どもたちの学習の状況について、いくつかの特徴を見出すことができる。
 第一に、小学生の間は、学年が上がるにつれて学習時間が増える。小学4年生から6年生にかけて30分ほど長くなる。
 第二に、中学生と高校生では、受験の学年で学習時間が長い。受験がない中学1・2年生と高校1・2年生は、1時間30分強というのが平均的な学習時間だ。ところが、中学3年生と高校3年生はそれぞれ2時間14分と3時間6分になる。
 第三に、「家庭学習」や「学習塾」は受験の学年で増加が目立つ。これに対して、「宿題」の時間は学年によって大きく変わらない。受験の学年であっても、「宿題」は50分前後で一定している。
 第四に、大学生の学習時間は、いずれの学年も1日に45分前後と短い。単純には比較できないが、大学生は小学生よりも学外で勉強していない。かねてより、日本の子どもたちは大学入試までは長時間勉強し、大学入学後に学習しないことが課題だと指摘されてきた。その状況は、大きくは変わっていないようだ。

女子の学習時間が長い

 次に、男女による違いを見てみよう。図表7は、性別に学年ごとの学習時間を示した。一瞥したところでは大きな違いはないが、細かいところに性差が出ている。
 まず、総じて女子のほうが学習時間が長い。中学2年生と高校3年生はほぼ同等だが、それ以外の学年では女子が10分程度長いことがわかる。その理由は、「宿題」の時間が長いためである。すべての学年で、女子は男子よりも10分前後、「宿題」の時間が長い。指示されたことに対してまじめに応えるタイプが多いためだろう。
 また、高校3年生では、男子で「家庭学習」や「学習塾」の時間が長く、トータルの時間は男女に差は見られない。しかし、女子の四年制大学進学率が男子より6ポイント程度低く(文部科学省「学校基本調査」)、男子に比べて大学入試がモチベーションにならないケースが多いことを考えると、ここでも女子は勤勉ということが言えるかもしれない。

母親が高学歴の子どもは学習時間が長い

 続いて、母親の学歴といった家庭の文化的な環境が子どもの学習にどう影響するのかを見てみよう。図表8は、母親が大学(短大を含む)を卒業しているかどうかで、子どもの学習時間がどう異なるかを示している。
 全体には母親が「非大卒」であるよりも「大卒」であるほうが、子どもの学習時間は長い。その差は、小学生で10~20分、中学生で0~15分、高校生で20~50分。中学3年生だけは、母親の学歴による違いが現れていない。
 ここでも興味深いのは、「宿題」の時間の差が小さいことで、中学生までは「大卒」「非大卒」に差はない。宿題が、家庭の文化的な背景を問わず一定の学習時間を確保する要因になっていることがわかる。それに対して、「家庭学習」や「学習塾」は差が大きい。特に、小学6年生と高校3年生で違いが見られる。前者は中学受験、後者は大学受験の影響が想定される。
 そのため、受験の影響と母親の学歴の影響のどちらが強いのかを確認するために、進路意向をクロスして平均時間を算出した(図表は省略)。小学6年生では、中学受験をさせると回答した「大卒」層が3時間38分、「非大卒」層が3時間14分。中学受験はさせないと回答した「大卒」層が1時間23分、「非大卒」層が1時間13分であった。いずれも中学受験をするかどうかの影響のほうが圧倒的に大きいが、受験予定の有無を問わず母親が大卒かどうかで10~20分程度の差は見られた。同じように、高校3年生について大学進学を希望しているかどうかで平均時間を算出すると、「大学進学を希望する&母大卒」は3時間51分、「大学進学を希望する&母非大卒」は3時間29分、「大学進学を希望しない&母大卒」は1時間21分、「大学進学を希望しない&母非大卒」は1時間9分となった。やはり、希望の有無を問わず母親が大卒かどうかで10~20分程度、学習時間が異なっている。家庭の文化的な背景の影響は、とても大きいとまでは言えないが配慮が必要と言える結果である。

高年収の家庭の子どもは学習時間が長い

 それでは。家庭の経済的な環境は、子どもの学習時間にどのような影響があるのだろうか。図表9では、世帯年収を「400万円未満」「400~800万円未満」「800万円以上」の3区分に分け、学年別に学習時間を示した。
 これを見ると、総じて高年収層の家庭の子どものほうが学習時間が長い傾向がある。ここでも同様に、その特徴が強く表れるのは、小学6年生と高校3年生である。やはり、中学受験と大学受験の影響だろう。とりわけ、「学習塾」の時間に差がでており、小学6年生では「400万円未満」が14分であるのに対して、「800万円以上」では59分と4倍以上開いている。
 小学6年生については、「400万円未満」の世帯で中学受験をするケースが少数なため参考値になるが、中学受験をさせる「400万円未満」が2時間35分、「400-800万円未満」が3時間4分、「800万円以上」が3時間50分である。一方、中学受験をさせない場合、「400万円未満」1時間13分、「400-800万円未満」1時間18分、「800万円以上」1時間27分となっている。中学受験をするかしないかの影響が大きいのは明らかだが、やはり受験予定の有無を問わず高年収の家庭の子どものほうが学習時間は長い。
 ただし、高校3年生については、「大学進学を希望する&400万円未満」は3時間44分、「大学進学を希望する&800万円以上」は3時間58分、「大学進学を希望しない&400万円未満」は1時間6分、「大学進学を希望しない&800万円以上」は57分となり、世帯年収の影響はあまり見られなかった。図表9に表れている世帯年収による違いは、高年収層ほど学習時間が長いという直接的な効果というよりも、高年収層ほど大学受験をする者が多い結果と考えられる。

都市部に住む子どもは勉強時間が長い

 次に、子どもが居住する自治体規模によって、学習時間がどう異なるかを見る。図表10は、居住地を「東京23区・政令市」「人口20万以上の市」「20万人未満の市」「町村」に分けて、学習時間を算出した。違いは、特定の学年に顕著に表れている。
 「東京23区・政令市」と「町村」を比べて、30分以上学習時間が異なるのは、小学5・6年生と高校3年生で、いずれも都市部のほうが長い。逆に、それ以外の学年では、地域差はほとんどない。これはやはり、中学受験と大学受験の受験率に地域差があるためだろう。たとえば、中学受験の予定は、「東京23区・政令市」は3割近いが、「町村」では1割に満たない。大学受験については、四年制大学以上を希望する割合が、「東京23区・政令市」は8割、「町村」は7割だった。
 さらに興味深いのは、内訳の地域差である。「東京23区・政令市」に居住する子どもは、全体に「宿題」の時間が短く、「家庭学習」「学習塾」の時間が長い傾向が見られる。地方ほど学校の果たす役割が大きいため宿題が多いが、都市部では学校外学修が充実しているため宿題が少ないのかもしれない。ちなみに、高校3年生の大学進学希望者だけに限ると、「東京23区・政令市」は「宿題」53分、「家庭学習」89分、「学習塾」53分である。一方、「町村」は「宿題」75分、「家庭学習」98分、「学習塾」25分だった。トータルの時間はほぼ同じだが、地方は宿題が長く、都市部は学習塾が長い。

学習計画を立てる子どもは勉強時間が長い

 これまで属性による違いを見てきたが、ここでは子どもの行動による影響を確認しよう。取り上げるのは、学習計画の効果である。「計画を立てて学習をする」かどうかという質問に対して「よくする」「ときどきする」と答えた子どもを「肯定」、「まったくしない」「あまりしない」と答えた子どもを「否定」として、学習時間を示したのが図表11である。
 両者を比べると、いずれの学年でも「計画を立てる」の子どものほうが学習時間が長い。その差は概ね20~50分程度であるが、高校3年生は1時間45分も異なる。「宿題」「家庭学習」「学習塾」のいずれも「計画を立てる」子どものほうが長いが、とくに「家庭学習」の時間の差が大きい。
 しかし、学習計画と受験も関連があり、結局は受験することの効果が大きいのかもしれない。そこで、高校3年生について進路希望ごとに学習計画の有無による違いを見たところ、大学進学を希望する者のなかでも「学習計画を立てる」グループは4時間19分、「学習計画を立てない」グループは2時間49分と1時間30分の開きがあった。また、大学進学を希望しない者についても、50分の開きがあった。受験や進路にかかわらず、学習計画を立てることの効果は大きいようである。

メディアの時間が短い子どもは勉強時間が長い

 最後に、メディアの時間の長短と学習時間の関連を確認する。1日の時間は誰にも平等に24時間。睡眠や食事などの生活にかかる時間、学校にいる時間などを除くと、子どもが自由に使える時間は意外に限られている。その中で、一方の時間が長くなれば、もう一方の時間は短くなると容易に想像はつく。それではメディアの時間と学習の時間の関連は、実際どうなのだろうか。
 図表12は、テレビやゲーム、携帯電話やスマートフォンなどのメディアに触れている時間を「2時間未満」「2~4時間未満」「4時間以上」の3つのグループに分けて、それぞれ学習時間を見たものである。ここからは、おおよそ次のようなことが言えそうだ。
 一つは、やはりメディアの時間が「2時間未満」と短い群で、学習時間が長い傾向が見られる。メディアの時間と学習時間は逆相関であることがわかる。しかし、その違いは思ったほど大きくない。とくに、小学4・5年生や中学1・2年生は、20分以内の差である。一方、ここでも小学6年生、中学3年生以上の受験を意識する学年では、メディアの時間の影響が現れてくる。通常は大きく影響しなくても、受験に関わる学年のように一定以上の学習をしようと思うと、メディアの時間をコントロールする必要があるということだろう。
 ここまで、「学年」「男女」「母親の学歴」「世帯年収」「自治体規模」といった子どもの属性に加えて「学習計画の有無」「メディアの時間」といった変数についても、それらが学習時間とどのような関連があるのかを確かめてきた。いずれの変数も、それ自体の影響が推察されるが、受験学年にその違いが強く表れるなど、直接的な効果というよりも受験するかどうか(高い学歴を目指すかどうか)が影響している可能性がうかがえた。そこで、次回(その3)は、進路や受験が子どもの学習時間に与える効果を検討したい。