2021/12/16
学会発表報告「教科横断的に育成される思考力のアセスメントの設計」@日本テスト学会第19回大会
渡邊 智也
はじめに
ベネッセ教育総合研究所の渡邊智也*,小野塚若菜**,野澤雄樹*が,2021年9月17日から26日に行われた日本テスト学会第19回大会において研究発表を行いました。
*資質能力測定研究室
**言語教育研究室
*資質能力測定研究室
**言語教育研究室
研究の要旨・目的
平成29年告示の学習指導要領の要諦のひとつである「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力とします)は,教科横断的能力としても育成・評価することが重視されています。しかし,先行研究では,思考力の目標は各教科固有の見方・考え方からの捉えにとどまるものが専らであり,結果として,思考力の学習達成を教科横断的に評価する手立てが十分に存在しませんでした。そこで本研究では,思考力を教科横断的目標として示したCan-do statementsを用い,その達成・習熟に関する証拠を得るためのアセスメントの在り方を考察しました。構想されたアセスメントは,生徒の思考力の到達目標・学習内容・評価観点の3つの役割を担うCan-do Statementsと一体的に利用されることで,思考力を育む指導と一貫した評価を実現するものと想定しています。
概要
平成29年告示の中学校学習指導要領においては,学習の基盤となる資質・能力を支える柱である「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力)を,各教科等の文脈で育成される力のみならず,教科横断的に身につけていく力とを相互に関連付けながら行う必要があるとされています。そのような思考力の指導・評価(アセスメント)を実現するためには,教科間の思考活動の共通性に基づき,目指すべき教科横断的な思考の目標を記述するとともに,教科間で思考の目標を相互に関連づけることが必要です。
本研究では,教科間で共通する思考の方法を「多面的に見る」「比較する」といった行動レベルで具体的に記述した「思考スキル」(例えば,小野塚・泰山, 2021a, 関連研究1参照; 泰山, 2014)と呼ばれる概念枠組みを導入し,さらにそれを思考のパフォーマンス目標へと拡張することで,思考力の評価方法の具体化に挑みました。
本研究では,教科間で共通する思考の方法を「多面的に見る」「比較する」といった行動レベルで具体的に記述した「思考スキル」(例えば,小野塚・泰山, 2021a, 関連研究1参照; 泰山, 2014)と呼ばれる概念枠組みを導入し,さらにそれを思考のパフォーマンス目標へと拡張することで,思考力の評価方法の具体化に挑みました。
<評価対象の内容領域の整理>
まず,本研究では,上述の思考スキルが総合的に活用される学習行動を「~できる」という能力記述文で示し,それらを教科横断的な思考力の目標として並べた思考力の能力構造枠組みであるCan-do statements(Cds)(小野塚・泰山, 2021b, 関連研究2参照)を導入しました。このCdsは開発中のものですが,指導と一体化した思考力の評価の実現に不可欠な枠組みとなります。
(表1:本学会発表資料より改変して引用)
(表1:本学会発表資料より改変して引用)
教科横断的な思考力のアセスメントは,タスクによって表1のY列(緑枠)の能力記述文に示される学習行動を引き出し,そのパフォーマンスから,発揮されている思考活動を推論するための(証拠を得る)ツールとなると想定できます。様々なアセスメントツールのうち,例えばテスト形式のアセスメントを設計する場合,このCdsを用いると,
①ある能力記述文に示される行動(思考活動)を引き出せるタスクを設定する
②タスクを受験者に回答させ,反応を得る
↓②を(他の・同一の)能力記述文について複数回繰り返す(=テスト)
③それら反応の集合(=テスト得点)を証拠として,学習者の思考力の一側面を推論する
といったことが可能になるわけです。
①ある能力記述文に示される行動(思考活動)を引き出せるタスクを設定する
②タスクを受験者に回答させ,反応を得る
↓②を(他の・同一の)能力記述文について複数回繰り返す(=テスト)
③それら反応の集合(=テスト得点)を証拠として,学習者の思考力の一側面を推論する
といったことが可能になるわけです。
<作題方針の検討>
上記の思考力の概念整理を踏まえ,本研究では教科横断的な思考力の証拠を得るためのアセスメントの作題方針を検討しました。教科横断的な思考力を把握するため,特定の教科によらない課題文脈のもと,引き出したい思考(能力記述文など)を適切に焦点化できるテストレット形式のCBTを活用したアセスメントを構想しています。下図はその構想に基づく問題案と,関連する研究の課題点を示したものです。
(図:本学会発表資料pp.14-17に基づき作成)
(図:本学会発表資料pp.14-17に基づき作成)
<今後の計画>
テスト・項目仕様,妥当性検証計画の精緻化を行いながら,Cdsに基づく指導およびその指導の成果に対する評価を,一体的に行うことのできるアセスメントを開発していきます。
詳細については,以下の資料をご覧ください。
渡邊智也・小野塚若菜・野澤雄樹(2021).教科横断的に育成される思考力のアセスメントの設計 日本テスト学会第19回大会
渡邊智也・小野塚若菜・野澤雄樹(2021).教科横断的に育成される思考力のアセスメントの設計 日本テスト学会第19回大会
関連研究
1. 中学校の学習指導要領解説の記述にある学習活動を,教科間で共通する思考の方法である「思考スキル」と対応させ,各教科の思考力の特徴を定量的に比較・分析した研究です。本研究が依拠したCdsが示す思考力は,この思考スキルを起点に分類・整理を行っています。
小野塚若菜・泰山裕(2021a).中学校新学習指導要領における思考スキルの抽出 日本教育工学会論文誌, 44, 121-124.
1. 論文掲載に関するご報告と概要の説明
2. 論文本文(J-STAGE)
1. 論文掲載に関するご報告と概要の説明
2. 論文本文(J-STAGE)
2. 本研究が依拠したCdsの開発・提案を行った研究発表です。学習指導要領においてすべての学習の基盤となるとされている資質能力のひとつに言語能力がありますが,言語能力の側面から思考力全体を整理したフレームワークとしてCdsを開発しました。その開発手続きを説明し,各教科専門家の意見に基づきCdsの位置づけや内容について考察しています。
小野塚若菜・泰山裕(2021b).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会
小野塚若菜・泰山裕(2021b).中学校学習指導要領に基づく言語能力Can-do statementsの開発 日本教育工学会2021年秋季全国大会
本ページの研究の内容に関するお問い合わせは,ベネッセ教育総合研究所ホームページhttps://benesse.jp/berd/index.htmlの画面右上にある「お問い合わせ」からお願いします。
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