第4回「スマホやテレビ、寝る前だけはやめてみない?」
子どものスマホや携帯の利用について家庭内でどういうルールにするべきか。悩ましい問題だと思います。携帯・スマホなどの画面を見ている時間(スクリーンタイム)は、成績や日中の精神健康、睡眠と関連します。特に、夜寝る前のスクリーンタイムは、青色光(ブルーライト)による生活リズムの夜型化や入眠困難を引き起こします。なかなか制御できない子どものスクリーンタイムですが、せめて夜寝る前だけは、電子機器から離れ、読書の時間にしてみてはいかがでしょうか?
”スクリーンタイム”と成績の関係。特に寝る前の光に注意。
利用する機種によっては、1日何分くらいスマホを覗いているのかお知らせしてくれる機能があります。いわゆるスクリーンタイムと呼ばれるものですが、このスクリーンタイムが健康状態や成績と深く関係してくることは、皆さんも想像しやすいことかと思います。スマホ、テレビ、ゲームなど、保護者と子どもの間でどういったルールを決めるのか、どの家庭も一度は悩む問題でしょう。
早稲田大学 理工学術院 柴田重信研究室とベネッセ教育総合研究所で2021年度に共同実施した調査によると、図1に示すように、成績とスクリーンタイムには負の関係が見られます。特に、ゲームと携帯・スマホの使用時間は、成績上位の子どもで少なく、下位の子どもで多くなっていました。また、学校段階が上がるにつれ、テレビの視聴時間が減り、携帯・スマホの使用時間が増えていきます。高校生では、成績上位と下位で、1日平均36分も携帯・スマホの利用時間に差が見られていました。
図1 学業成績とテレビ、ゲーム、スマホの利用時間との関連
成績は、国語、算数・数学、理科、社会、英語(中高生のみ)の各教科の自己評価を合計し、下位層、中位層、上位層がそれぞれ三分の一になるようにグループ化した。グラフは、各成績グループにおいて、各項目内容の1日あたりの利用時間(分)を示す。『生活リズムと健康・学習習慣に関する調査 2021』より
私が子どもの頃は、「期末試験の前はゲーム禁止」、「携帯も試験前は没収」、なんて厳しい家庭も多かった思い出があります。ただ最近では、娯楽としての活用だけでなく、勉強や授業、宿題、学習アプリのためにスマホを利用することがあります。また、スマホを没収したところで、パソコンでもSNSが開けてしまう時代です。では、どう対処するのがいいのでしょうか?図2をご覧下さい。同じく成績別のデータですが、「スマホの利用時間を決めている」、または「寝る前のスクリーンタイムが無い」と答えた子どもが、成績上位層で多い結果でした。筆者(体内時計研究者)からの提案として、せめて寝る前のスマホ、テレビ、パソコンなどのスクリーンタイムを短くするように、子どもと話し合ってみるのはどうでしょうか?
図2 学業成績とスクリーンタイムとの関連
グラフは、各成績グループにおいて、各項目内容に対して、「とてもあてはまる」または「わりとあてはまる」と答えた子どもの割合を示す。『生活リズムと健康・学習習慣に関する調査 2021』より
寝る前のスクリーンタイムは、日中の眠気だけでなく、心理面にもネガティブな影響をあたえる。
スクリーンタイムは、生活リズムにも影響することが知られており、この点も提案の背景の一つです。夜寝る前のスクリーンタイムは、青色光(ブルーライト)によるメラトニン(睡眠誘発ホルモン)の分泌抑制と、体内時計の夜型化をもたらします。特に、テレビやパソコン、スマホのディスプレイから発せられる光には、青色の波長帯が多く含まれています。そのため、夜遅くのスクリーンタイムは睡眠の妨げになるだけでなく、次の日の生活リズムにまで影響します。実際に図3に示すように、夜寝る前にスクリーンタイムがあると答えた子どもは、無いと答えた子どもに比べて、「疲れやすい」、「いらいらする」、「昼間に眠くなる」と答えた割合が高い結果でした。これらの結果は、日中のパフォーマンスを下げ、成績にも影響を与えている可能性があります。また、これまでの連載でもお話しましたが、個人によって体内時計の個性(朝型、夜型といったクロノタイプ)があり、夜型の人はなかなか社会の時間に合わせづらいのが現状です。生活リズムを乱さず、整えるためにも、寝る前のスクリーンタイムを減らしていくことが望ましいでしょう。
図3 夜寝る前のスクリーンタイム(ST)と精神衛生、睡眠の関連
グラフは、夜寝る前のスマホ等のスクリーンタイムの有無でグループ分けした際の、各項目内容に当てはまると答えた子どもの割合を示す。『生活リズムと健康・学習習慣に関する調査 2021』より
スマホもパソコンも家の照明も。日が暮れたらオレンジ色の光にチェンジ。
パソコンやスマホは、ナイトモードを使用することで、ブルーライトをカットすることができます。一部のスマホでは日の出、日の入りに合わせて自動で色が変わる機能をもっており、ブルーライトのカットが簡単にできます。また、輝度そのものを下げることも有効です。青色光を抑えることで、オレンジ色の温かみのある暖色系になります。電気でいうと、蛍光灯のような白色光ではなくいわゆる電球色と呼ばれる色です。部屋の照明も、最近では安価なものでも光色や明るさをスイッチで調節できるものが手に入ります。高価なものだと、朝は白色で明るさMAX、夜になると電球色で暗めと自動で変化してくれる照明もあります。筆者の家では、子ども(3歳と5歳)は20時から寝支度を始め、21時には寝室に行く習慣をつけています。なので、夕食後19時半くらいからは、リビングも寝室も電球色に切り替えています。そのおかげで、私も子どもが寝た後、すぐに眠くなってしまいます(子どもができると親も早寝、早起きになる家庭が多いですね)。寝る前のスクリーンタイムを減らすことと共に、パソコンやスマホの設定や室内照明を工夫することで、生活リズムを整えやすくなるでしょう。
スクリーンタイムは子どものドライアイの原因に
東京都港区の小中学校を対象にした私たちの研究室の調査では、寝る前のスクリーンタイムとドライアイに関連が見られました。スクリーンタイムが長いと、瞬きの回数が減り、目が乾きやすくなります。また、スクリーンタイムが長いと、運動不足に陥りやすく、その結果肥満になりやすいという報告もあります。港区の子どもたちの結果では、スクリーンタイムの長さよりも、そのタイミング、つまり夜寝る前のスクリーンタイムとドライアイに高い関連が見られました。よって、何度も繰り返しになりますが、なかなか減らしづらいスクリーンタイムでも、少なくとも寝る1時間前くらいはパソコンやスマホといった電子機器から離れて、読書などに切り替える習慣を付けるように子どもと話し合ってみましょう。
関連ページ
早稲田大学 理工学術院 柴田重信研究室・ベネッセ教育総合研究所が共同で行いました「子どもの生活リズムと健康・学習習慣に関する調査 2021」については、ベネッセ教育総合研究所のWEBページよりご確認ください。
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