2018年10月30日と11月30日の2回、明星学苑・明星小学校にて、2年生かけ算の学習でプログラミングを使った授業を行いました。

今年度、明星学苑・明星小学校とベネッセコーポレーションは、算数の授業にプログラミング教育を導入すれば、児童がわかりにくい概念をより理解しやすくできるのではないかという目的のもと、共同研究を進めています。1年生の授業に引き続き、今回は第二弾です。

かけ算の意味理解のために、プログラミングを導入

指導案サイト「プロアンズ」の「かけ算の文章問題名人をめざして」にある通り、全36時間の指導計画のうち3時間目と35時間目の授業にプログラミングを導入しました。かけ算の学習の前半と後半にあたります。

授業者の丸山農先生は、九九の計算はできても、文章問題の意味を読解して正しく「単位量×いくつ分」の順番で立式できない児童がおり、そのことが高学年の割合などで「単位あたりの量」の理解不足につながるのではないか、との仮説を抱いていました。九九の計算は多少苦手でも、正しく立式できる力を育成したいという思いから、この教材が生まれました。

そこで、前半の授業では、与えられた文章問題を「解く」ことに重点をおき、後半では文章問題を「つくる」ことで、かけ算の意味理解を深める指導計画をたて、それぞれにプログラミングを導入しました。

文章問題を「解く」

前半の授業は、スクラッチ教材に表示されるおさらとリンゴの文章問題を読んで、単位量といくつ分を判断し、正しく立式する活動です。

いきなりプログラミングをするのではなく、プリントで、かけ算の式の意味を絵に描きます。写真の児童は、5×9の式を、かけられる数5は1つのおさらにのっているリンゴの数、かける数9はおさらの数、ときちんと判断して、その通りの絵を描いています。式を絵で表現する活動です。

次に、プリントで設計した問題のとおりに、スクラッチ教材で「いくつずつ」と「いくつぶん」を正しく代入します。児童にとって、半角数字をキーボードで入力するのは難しいので、数字の丸いブロックをドラッグするだけで数値代入ができるように工夫されています。

緑の旗を押すと、リンゴとおさらの文章問題が表示され、「かけられる数」はなに?という問いが出てきます。「いくつずつ」と「いくつぶん」、「おさらのリンゴの数」と「おさらの数」、「かけられる数」と「かける数」と、児童は言葉と数を意味に合わせて正しく対応させる必要があるのです。

このように、かけられる数が5、かける数が9と答えた場合には、5×9と立式されます。

そして、式に合わせて、おさらとリンゴの絵が表示されます。おさらにリンゴが5個のっていて、そのおさらが9個ある絵になっています。児童は、設計したプリントどおりの絵になっているかどうかを確かめます。

もし、かけられる数とかける数を逆に答えてしまった場合はどうなるでしょうか?

かけられる数が9、かける数が5と指定したのですから、式は9×5です。それに対応する絵は、リンゴの上におさらが9個のっていて、そのリンゴが5個ある絵になり、プリントで設計した絵とは異なるものが出てきてしまいます。

かけ算は交換法則が成り立つので、5×9と9×5の計算の答えは同じですが、文章問題の式の意味は大違いです。文章問題を読んで、いくつずつ(単位量)といくつ分を、それぞれ、式のかけられる数とかける数に対応させる思考は、現実場面の意味のある問題を算数の式に変換していることと同じです。算数の式に正しく変換されれば、あとは計算をするだけなので、5×9でも9×5でも得意な九九で計算の答えを出せばいいのです。算数では、演算の意味と計算の仕方とを区別して、正しく理解することが大切です。

この授業の事後感想で、何人かの児童が、「九九の答えは同じでも、式の意味は違う」と発言していました。文章、式、絵(図)という3つの対応を考えながら、プログラミングで自らいろいろシミュレーションした結果ではないかと思います。

文章問題を「つくる」

後半の授業は、文章問題を作る活動をしました。前半の授業では、おさらとリンゴを素材とした文章問題でしたが、この授業では、児童が好みの素材をスクラッチのコスチュームから選んで、自由に文章問題を作ります。作った問題は、友達に解いてもらうようにしました。

プログラミングする前には、必ず設計します。このプリントは、かけられる数、かける数をどの素材にするのかを選び、作りたい問題の式と絵を記入できるようになっています。絵は凝りだすと色をつける児童も出てくるので、簡易な図を書くように先生が指示しました。写真の児童は、かけられる数にケーキ、かける数にいちご、式は4×8としています。

このスクラッチ教材では、設計したとおりに、児童がおさら(いくつ分)とリンゴ(単位量)のコスチュームとそれぞれの個数を指定し、紫色のブロックの順番を変えることで、文章問題の順番も変えることができます。緑の旗を押せば、前半の授業と同じく、「解く」活動になります。ここで席替えをして、友達に解いてもらいました。

かけられる数4、かける数8と答えれば、式は4×8で、ケーキの上にいちごがのっている絵が表示されました。

出題者の児童は、かけられる数にケーキ、かける数にいちごと指定して、4×8と設計していましたから、設計どおりだったのかどうかを振り返り、修正する活動も必要です。

図のように紫色のブロックの順番を変えてプログラミングすれば、文章問題が変わります。文章の意味を考えずに立式する児童は、文章問題に出てきた数の順番に8×4と立式してしまうかもしれません。

効果検証

この教材の効果を見るために、この教材を導入したクラス(実験群25名)と従来どおりの授業をしたクラス(統制群25名)とに分けて、前半の授業の前に事前テスト、後半の授業の後に事後テストを実施して、2つの群を比較しました。テスト内容は、九九の計算問題50問と、絵を見てかけ算の立式をする問題10問です。事後テストには文章題を追加した代わりに問題数を8問に減らしましたので、比較のときには10問分になるよう換算しました。

【資料1】は九九の計算問題に関して、事前テストと事後テストの分布です。差の検定を行った結果、実験群と統制群に有意差が認められました。事前事後の平均正答率は、実験群が55.5から86.3へ、統制群は49.2から61.2へと、どちらも増加しましたが、実験群の方がより正答率の伸び方が高かったということになります。

【資料2】は文章問題に関して、事前テストと事後テストの分布です。差の検定を行った結果、実験群と統制群に有意差は認められませんでした。事前事後の平均正答率は、実験群が71.2から81.0へ増加、統制群は62.8から61.5へ減少しました。個別の問題の結果をみると、実験群では25人中18人が正解していたのに、統制群では25人中6人しか正解していない問題がありました。

また、個人の事前事後の変容を見ると、九九の計算はできなかったが、文章題の立式では、事前テスト30から、事後100になった児童がいました。その児童は、別の単元テストで「おさらが3つあります。おさらにはいちごが8個ずつのっています。いちごは全部で何個ありますか。」という文章問題で、8×3と正しく立式できていました。この文章問題は、注意深く読まないと、数の出てきた順番に3×8と誤答しやすい問題であるにもかかわらず、正しく立式されていたことに丸山先生は驚いていました。以上の現象から、教材の効果は多少見られたのではないか、という考察をしています。

この教材と指導案は、プロアンズでご参照いただけます。ぜひ、ご活用ください。お気づきの点やご感想など、問い合わせフォームからお知らせいただければ幸いです。改善のために参考にさせていただきたいと思います。