東京学芸大学附属国際中等教育学校のインフォマティクス(学校設定科目)の授業全9回で、Google Earth Engine(以下、GEEと記載)を使った問題解決の授業を実施しました。

東京学芸大学附属国際中等教育学校の後藤貴裕先生とベネッセコーポレーションは、高校の新学習指導要領の教科情報で求められている問題解決力を育む教材開発を2013年度から学校設定科目のインフォマティクスで取り組んできました。2学期が個人ワーク、3学期がチームワークという枠組みです。今年度のテーマは、2学期はLINEボットの開発を通じたJavaScriptの習得、3学期はGoogle Earth Engineを使った問題発見と解決のための数式モデルづくりでした。

このブログでは、主に3学期の授業内容を、2つに分けてレポートします。

  1. ・前編:授業の流れと中間発表(本記事)
  2. 後編:中間発表に対するフィードバックをもとに改善した、最終プレゼン

オンライン講座Proglessonの活用

問題解決と一口に言っても、基礎スキルとして発想力やプログラミング的思考によるアルゴリズムづくり、それをJavaScriptで記述する力などが要求されます。昨年度は、授業中だけで問題解決に必要な技能を習得するには時間的制約も多いという課題がありました。そこで、今年度はベネッセが研究開発中の、主に中学校・高等学校を対象とした情報教育を自学自習できるオンライン講座、「Proglesson(プログレッスン)」を活用しました。

Proglessonは、現在、6つの講座があり、いずれも、生徒になじみのある吹き出しによる対話型で学べます。各自のIDでアクセスすれば、授業前に予習して反転授業もできますし、個人のペースで復習もできます。先生も、管理画面で生徒の利用状況を把握することができますので、進捗管理も簡単です。

授業の展開

第1回の授業でProglessonのGEEの最初の章に取り組み、本単元の全体的な見通しとGEEでやってみたいことを見つけてくるという課題設定がなされ、それをもとに第2回授業から、発見した課題の共有、課題の似た者どうしによるチーム編成、チーム企画、分担決め、調査・開発、中間発表、最終プレゼンという流れで授業が進行しました。授業の展開は次の通りです。

  1. 1 リモートセンシングとは
  2. 2 チーム編成/チーム企画
  3. 3 開発環境の技能習得
  4. 4 開発
  5. 5 開発・プロトタイプ完成
  6. 6 中間発表、相互評価・アセスメント
  7. 7 改善・開発/プレゼン準備
  8. 8 改善・開発/プレゼン準備
  9. 9 最終プレゼン

 

GEE(Google Earth Engine)とは

GEEは人工衛星がリモートセンシングしているデータを抽出・分析するためのプラットフォームで、Googleから無償で提供されています。例えば、気温変化、森林面積、夜の光量など、各国の人工衛星から取得されるデータを、目的に応じてJavaScriptで自由に抽出・加工し解析し、解析結果をGoogle Map上に視覚的に表示することができるのです。

Proglessonの「リモートセンシングとGoogle Earth Engine」講座は、

  1. 1) リモートセンシングとは
  2. 2) Google Earth Engineの使い方
  3. 3) ジグソー活動
  4. 4) グループ活動
  5. 5) 最終プレゼン

 

という5つの章で構成されています。授業の流れに合わせた構成ですので、順番に学習していけば、無理なく理解できるように設計されています。

第1章では、次のような画面でリモートセンシングについて学びます。JAXAが作った動画を見てイメージを膨らませます。

学習活動の流れ

生徒は、事前に用意したサンプルをさわってみながら、人工衛星がどんなデータを取得しているのかを理解した上で、そのデータを利用して解決できそうな関心テーマを見つけます。結果的に、1班)森林火災、2班)津波、3班)経済、4班)エネルギー、5班)天体観測の5つのテーマに分かれて、チームごとに課題の明確化、仮説生成、仮説を確かめるための調査、数式モデルづくりを行いました。

用意したサンプルの一部

【森林の消失(増加)面積の分析】

 

【夜景光量の時系列(1992年〜2013年)の変化】

 

【土地の高さ】

タスク管理ツールTrello

プロジェクト中は、Trelloというタスク管理ツールを使って、チームごとに分担やタスクを整理して、中間発表と最終プレゼンに向けて、主体的に計画を遂行します。授業者である後藤貴裕先生は、ProglessonやTrelloでの進捗状況を見ながら、全体の進捗をコントロールします。毎回プリントを配布し、その授業の提出物と評価ルーブリックを示し、生徒は授業後にウェブアンケートで自己評価や相互評価するのです。

下の画面は、2班のTrelloです。質問・提案、使えそうなデータ、ToDo、作業中、完了などのリストを作成し、それぞれの中でカードにタスクを記入しています。この班は、津波被害の規模を、津波の高さで数式モデル化できるのではないかという仮説のもと、ネットリサーチして、難解な論文まで読み込んでいました。それで、収集した情報がこのように整理されています。

中間発表

第6回目の授業が中間発表でした。ここでは、各班がプロトタイプを見せて進捗を共有し、困っていることなどを他の班メンバーに伝えて、フィードバックをもらうことが目的です。

下表のとおり、発表内容は、課題設定(仮説)、計画、結果と今後の予定、の3点でした。

テーマ 課題設定(仮説) 計画・概要 結果と今後の予定
1班 森林火災 カリフォルニアで山火事が起きたといわれても、どれぐらいの規模なのか不明なことが多い。どれぐらいの木が燃えたのかがわかる数式モデルをつくる 2016~2017年のCAの森林表面積を調べ、本が何冊分燃えたか?という数式モデルを作ることにした。 森林は、1万3000haで、A4用紙100枚で文庫本1冊。
10平米あたり420冊分の本が燃えた。
2班 津波 津波の高さと陸地への影響。南海トラフ地震への影響を考えて、下田のハザードマップを作る 700~2018年までの地震時の津波の高さ、被害の度合いなどのデータを収集。 論文はたくさん出ているが解読が難しかった。
津波の高さと倒壊状況の関係性が特定できなかった
3班 経済 富裕国と貧国を比べて、土地利用の差を見出す 貧富は一人あたりGDP、人口あたりの労働力人口などを数式モデルとした。 土地利用の定義ができなかった。
Goolge Earth Engineにデータがなかった。
4班 エネルギー 再生エネルギー供給率が低いアフリカに、太陽光発電を供給するめの適地を見つける 気温が低いか、日射量が多いと、太陽光発電量は大きいというデータに基づき、それに該当する地域を限定した。 最低気温A,最高気温Bとすると、数式モデル=100-(B-A)/10×3%とした。
数式モデル別に、アフリカを緯度ごとに4分割できた。北から70、79、89、97%となり、アフリカ南部が一番効率よく太陽光発電ができることがわかった。
5班 天体観測 関東の天体観測適地を見つける。標高が高いほど雲が見えやすい、暗いほど星が見やすいはず。 Google Earth Engineと国土地理院のデータで雲の分布を収集。
トレロで役割分担。
標高差のデータを重ね、データの平均値をとった。
プログラミングは終了。
実際に数値化したい。

テーマは違っても、数式モデルづくりという同じ目的に向かって進んでいるので、発表者も聴き手も真剣でした。発表に対して、他の班からフィードバックのメモがたくさん集まっていました。1班にはなぜ本の冊数を数式モデルにしたのかという質問が出ました。2班は津波の高さと陸地への被害という直接的な情報が見つからないという課題を共有しました。3班はGEEに思った通りのデータが見つからないという悩みを打ち明けました。4班は数式モデルまでできていて、この段階でかなり進んでいました。5班は雲の分布や標高差データ収集とプログラミングが終了しており、次は数式モデルの数値化だと進捗共有していました。

 

この中間発表は、班どうしで互いに刺激し合うことに効果があったと思います。4班がGoogle Map上にすでに色分け表示できているのを見て、どういうプログラムを書いたのか意見交換したり、GEEでデータ取得できないなら代替データはこんなのがあるのではないか、という意見が寄せられたりしていました。果たして、1か月後の最終プレゼンまでに、どれだけ改善されて仕上がっていくのでしょうか。後編に続きます。