キャリア・パスポートって何?

人工知能(AI)によって今ある仕事が機械に取って代わられる……そんな時代が来るのなら、これから先、子どもたちに社会で自立する力を、どのように身に付けてあげればいいのでしょうか。新学習指導要領は、小学校からの継続した「キャリア教育」の必要性を示しています。効果的なツールとして、「キャリア・パスポート」の作成が2020年から始まります。

小学生から必要な教育

キャリア教育は、将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力を育成するための教育です。まず高校で広がりましたが、小学校や中学校のキャリア教育は1999年の中央教育審議会で提唱され、学校の中でさまざまな取り組みが進んできました。小学校の「職業調べ」や、中学校や高校での「職場体験活動」「社会人講話」などが、それに当たります。

ただ、こうした活動が単発的なものに終わっていたり、進学先の選択といった狭い範囲にとどまっていたりするケースもあります。一人ひとりが小中高を連続して、自分の生き方や将来を考えられるようにしていくことが必要です。

グローバル化や情報通信技術の発達で、経済や産業の環境が大きく変わるなか、社会人へと円滑に移行し、自立的に未来を切り開く力の育成が、学校教育に求められるようになりました。新指導要領では、「総則」に「学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」として、小学校から教育活動全般を通して、取り組みを充実させることを求めています。

記録し、活用する教材を例示

キャリア教育で大切なのは、学んだことを「振り返り」、「見通し」を持つことを繰り返すことだと言われます。新学習指導要領の実施に当たり、キャリア教育の教材として期待されているのが「キャリア・パスポート」です。キャリア教育に関する活動を小学校段階から記録・蓄積し、それを学年・学校の壁をこえて活用していく教材です。ページに押された外国のスタンプを見れば、これまでの旅の記録がわかるパスポートのようなイメージ、と言えばいいでしょうか。

キャリア・パスポートは各地域・学校で作成することになっていますが、小中高校が連携して作成するには負担が掛かります。そこで文部科学省は昨年、キャリア・パスポートのサンプルを示して、各教育委員会に指導上の留意点を示しました。授業や学校行事などで心に残ったこと、自分が成長できたことを記入し、学期や年度ごとに振り返れるようになっています。

文科省は柔軟なカスタマイズを認めているので、学校らしさ、地域らしさを反映したオリジナルのキャリア・パスポートが望まれます。

小中高で一貫したキャリア教育が進められる基盤ができたのは、喜ばしいことです。ただし、活動を「記録するだけ」にとどまっていてはなりません。子どもが自己との対話を深め、教員や保護者との関わりの中で生かされるツールにすることが、本来のキャリア・パスポートの目的であることを忘れてはならないでしょう。

(筆者:長尾康子)

※キャリア教育(文部科学省ホームページ)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/index.htm

※「キャリア・パスポート」例示資料等について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1419917.htm

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

子育て・教育Q&A