2016/06/10
「貧困が引き起こす子どもの就学・進学問題」 「子どもの貧困」を知った高校生が考えたこと 芝浦工業大学柏高等学校「SITK子ども貧困サミット」プロジェクトメンバー
CO-BOで取りあげた「子どもの貧困問題」に共感し、「全国中学高校Webコンテスト」に参加し、2015年度の最優秀賞/文部科学大臣賞/日本オラクル特別賞/プラチナ賞の4つを受賞した芝浦工業大学柏高等学校の生徒のみなさんと、同校の先生方にお話を伺いました。
「子どもの貧困」を知った高校生が考えたこと
学校インターネット教育推進協会(JAPIS)が主催する「全国中学高校Webコンテスト」は、3~6人でチームを作り自分たちの興味のあるテーマについて調査や取材を行った結果をWebコンテンツとしてとりまとめ、その内容や表現について競い合うものです。
2015年、第18回となる同コンテストでは全国から1,526人の中高生、363チームが応募しました。
今回取材したのは、昨年のコンテストで最優秀賞/文部科学大臣賞/日本オラクル特別賞/プラチナ賞の4つを受賞した芝浦工業大学柏中学高等学校の生徒の皆さんと、先生方です。
芝浦工業大学柏中学高等学校の取り組み
まず、生徒のみなさんがどのような経緯でWebコンテストに参加し、さらにテーマとして「子どもの貧困」という社会問題を取りあげたのか、同校の教育方針や具体的取り組みを伺いました。
情報教育を担当する増本先生
増本先生:「まずWebコンテストについてお話すると、本校の取り組みとして中学入学時点で全員にパソコンを持たせています。本校ではパソコンを『文房具のように使わせる』というコンセプトで指導をしており、その一環で中学2年生から各学年でチームをつくって参加しています。Webコンテストは今回が第18回なのですが、本校は中学校設立時の第3回から参加しています。」
社会科について語る杉浦教頭
杉浦教頭:「社会科という面では、いま主権者教育(※)というのが騒がれているのですが、そういうことはずっと意識をしています。ここ十数年、中学高校全生徒で国政選挙とあわせて政党に対して模擬投票を行っています。先日の模擬投票が10回目だったと思います。その他にも高校1年時にはディベート(討論学習)を行い、原発問題など積極的に取り上げてきました。これらと関連して現実に起きている時事問題を『社会科通信』という形で年3~4回全校に配る取り組みもしています。
このように社会科としては『現実的な問題を考える機会を与える』ということをやってきました。」
このように社会科としては『現実的な問題を考える機会を与える』ということをやってきました。」
※主権者教育:国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していけるようになるための教育。
同校の中高生に配布される社会科通信はWEB上でも公開している
知らないと考えも行動も変わらない
芝浦工業大学柏高等学校「SITK子ども貧困サミット」プロジェクトメンバー
続いてWebコンテスト参加にむけて結成された生徒4名(リーダーのYUMIさん、HARUさん、NANAさん、RIKAさん)のチームが、テーマとして「子どもの貧困」を選んだきっかけ、プロジェクトを進める中での変化について伺いました。
リーダーのYUMIさん、HARUさん、NANAさん、RIKAさん
YUMIさん:「ニュースで『日本の子どもの6分の1が貧困である』ことを聞いて、本当かな?と思ったのがきっかけです。詳しく調べていく中でと今の子どもが貧困であることによって、未来の日本にまで影響を及ぼす、私たちにもすごく関係のある、大切な問題だということに気付き、この問題を同じ世代に知ってもらうべきだと思いました。」
NANAさん:「最初YUMIに『貧困についてやろう!』と言われたときに、アフリカかどこかのことをやるのかな?とか思っていたのですが、日本でも貧困があると聞いたときに、『えっ?』と思って。他人事だったのに6人に1人という高い割合で、他人事じゃないのだなと。まず自分自身で調べることが必要だなって。」
RIKAさん:「私は個人的な経験から、日本にも貧困が少しはあるのだろうという認識でしたが、こんなに高い割合だとは思っていませんでした。今回の記事をつくる中で貧困というのが結構大変な状況であることがわかって、『まず知る』ということの大切さがわかりました。知らないと考えも変わらないし、行動も起こすことができないので。」
HARUさん:「私はニュースをよく見るほうだと思います。それでも子どもの貧困については今回取り組まなければ深く考えなかったままだと思います。貧困問題というテーマそのものが難しいのに、調べるとさらに別な社会問題とつながっていて驚きました。」
社会問題は大人が考える問題?
子どもの貧困を調べていく過程で、「自分たちに身近な問題であり、知り、行動することが重要ではないか」という意識の変化を感じるようになった生徒のみなさん。しかし、身の回りで社会問題をテーマに話し合うことはほとんどないといいます。
YUMIさん:「子どもの貧困について教室で話していると、『真面目だね』と言われます。どうせ大人の問題だから、私たちが言っても何の解決にも繋がらないとか、私たちが言ってもしょうがないのではないか、大人が考える問題なんだからっていう雰囲気があります。私も最初は、『大変な子どもたち』について、大人が解決する問題だという印象でした。でもそうではなくて、自分たちでもできることが、例えばボランティアだとか、募金など、いろいろあるのだということが、このサイトを作ることで知ることができました。もっと自分で社会問題について考えて解決まで頑張っていきたいっていう思いが出てきました。」
RIKAさん:「私がちょっと思ったのは、今の日本の文化じゃないかな。自分から発言しないとか、他人にあわせてしまうとか。謙虚さが必要なのはわかるんですけど、もっと自分からこうしたい、ああなりたい、と言える雰囲気も必要なんじゃないかなと思います。」
今回のプロジェクトでは、中高生も真面目に意見交換ができるような環境作りをしていくことが大事だと考えたそうです。
当初、「SITK子ども貧困サミット」というウェブサイト名について、子どもがサミットなんて馬鹿げていると思われるのではという声もありました。しかし、世界の国や地域のトップが集まって、自由にひとつのテーブルを囲んで意見交換するというスタイルが、子どもの貧困をテーマとし、みんなで考えたいというイメージに合うと、その名前で推し進めたのだそうです。
※SITKは芝浦工業大学柏高校(Shibaura Institute of Technology Kashiwa Senior High School)」の略称
サイトでは情報発信だけでなく議論を呼びかけている
より深く知り、考えることができるように
CO-BOではこれまで、社会問題を深く知り、何を考えるかを考えることをテーマに、将来を担う子どもや若者の学びに関わる問題を取りあげてきました。 高校生が社会問題について学ぶことで得られることとは、どのようなものなのでしょうか。
YUMIさん:「Webコンテストで最優秀賞を受賞したことで、いくつか取材を受ける機会がありました。そのような場で受け答えができるようになったのは、社会問題について学んでそのことに議論するだけではなく、自分がこうしたいっていう思いがみんなにできてきたんだと思います。」
RIKAさん:「今後の課題として、国語力が大事かなと思いました。情報収集やインタビューに行くときも、単語や文章の意味を正しく理解する力はすごく必要だなと思いました。
はじめは全く知らなかった『子どもの貧困』でしたが、調べていくうちに貧困状態の子どもたちには教育がうまくなされていないことや奨学金に関する問題を知り、変えていかなくてはと思いました。」
はじめは全く知らなかった『子どもの貧困』でしたが、調べていくうちに貧困状態の子どもたちには教育がうまくなされていないことや奨学金に関する問題を知り、変えていかなくてはと思いました。」
HARUさん:「学校で配られている社会科通信とか、中学の頃とかはあまり気にしてなくって、軽く読んで「知った」ぐらいだったんですけど、今回の取り組みの後はそれを詳しく読むようになりました。
文字面だけ読むみたいではなくて、そこに何が起きているのか、自分の考えとかもちゃんと持つようにはなりました。 自分で情報収集をしつつ、それを周囲に発信するとか、話し合うとか、そういうことの大切さに気づきました。」
文字面だけ読むみたいではなくて、そこに何が起きているのか、自分の考えとかもちゃんと持つようにはなりました。 自分で情報収集をしつつ、それを周囲に発信するとか、話し合うとか、そういうことの大切さに気づきました。」
NANAさん:「新聞に載っていているのが社会課題という見方もありますけど、子どもの貧困問題についてすごく大事なことであっても新聞に載っていないこともあります。多くの人の将来が関わってくることが社会課題なのかなと思いますが、新聞やニュースからだけでは認識できないこともあるのかなと考えるようになりました。
それと私は将来、漠然と医療に携わりたいと思っていましたが、貧しさを理由に亡くなる子どもを少しでも減らせればと具体的に考えられるようになりました。これからも子どもの貧困問題については引き続き注目していきたいなと思っています。」
それと私は将来、漠然と医療に携わりたいと思っていましたが、貧しさを理由に亡くなる子どもを少しでも減らせればと具体的に考えられるようになりました。これからも子どもの貧困問題については引き続き注目していきたいなと思っています。」
宝田先生:「4人の生徒たちとずっと学年を一緒にあがってきた教員としては、今この子たちが話しているのを見ていて、すごく嬉しかったです。やはり中学生の時をみていて、これだけ深いことを話して、本当に社会に出しても安心だなっていう感じはします。
教育は授業、基礎力の土台を付けさせることも大事ですし、一方でこういう自分達で課題設定して解決する、問題解決学習、両方育ててあげたいと思っているのですが、この子たちはそれが両立できていて、どちらも頑張ってくれていて、今日は聞いていて非常に嬉しかったです。」
教育は授業、基礎力の土台を付けさせることも大事ですし、一方でこういう自分達で課題設定して解決する、問題解決学習、両方育ててあげたいと思っているのですが、この子たちはそれが両立できていて、どちらも頑張ってくれていて、今日は聞いていて非常に嬉しかったです。」
中学・高校と生徒を見守ってきた宝田先生
Editor's eye
ある社会問題について語ったからといって、その解決に関わる活動を求める必要はないと思う。もっと多くの人々が、もっと自然に、さまざまな社会問題を知り、語り合うことが状況改善の糸口になると考えられるからだ。
彼女たちの活動は、彼女たち自身はもちろん、多くの人々に問題意識を植え付け、状況改善の礎になったに違いない。
今回のインタビューで気になったのは、社会問題に向き合おうとすると、それを妨げようとする「空気」があるということだ。
本特集で以前取材した特定非営利活動法人キッズドア理事長の渡辺由美子氏は、最近のインタビューで次のようにこの状況に苦言を呈している。「うちでやってる無料学習支援のボランティアに来てくれる学生さんって、みんな一人で申し込んでくるんですよ。『意識高い系って言われちゃうから、友達には黙って来た』って言うんです。」
この「空気」を変える特効薬はないだろうが、まずはこの「空気」が意思ある人たちの活動を鈍らせる事実を改めて共有したい。そうすることで、もし自身がその「空気」を醸し出そうとしたとき、自身を解決の糸口を閉ざしているかもしれないと認識できるからだ。
CO-BOのワークショップに関するご意見・ご要望はぜひお問い合わせフォームからお寄せください。
【企画協力】(株)エデュテイメントプラネット
【取材協力】芝浦工業大学柏中学高等学校 先生・生徒のみなさま
【取材協力】芝浦工業大学柏中学高等学校 先生・生徒のみなさま