2013/10/25
第27回 小さな子どものいるお父さんを応援しよう!—「第2回妊娠出産子育て基本調査」より
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
室長 後藤 憲子
室長 後藤 憲子
少し前の話になりますが、8月に政府の次年度概算要求が発表されました。概算要求をみると、今後の施策の中で政府がどこに力を入れようとしているのかが分かります。安倍政権の成長戦略を受けて、女性活躍推進の分野、例えば「男女が共に仕事と子育てなどを両立できる環境の整備」など、両立支援に関連する予算が今年度と比較して165%、122億円に増額要求されています(「厚生労働省・平成26年度予算概算要求の概要」より)。
出産後も女性が仕事を続けていけるよう、待機児童解消に向けて保育施設の拡充も急ピッチで進んでいます。女性の就業継続には保育施設を充実させることが第一ですが、実際に仕事と育児の両立は、夫の家事育児の分担・協力がないと成立しません。そのため、イクメンも再び脚光を浴び始めています。今回は、「第2回 妊娠出産子育て基本調査」(2011年実施)の中から0~2歳の第1子を持つ父親のデータをご紹介します。
お父さんを取り巻く職場環境は厳しい
まず、よく話題になる育児休業についてですが、この調査では11.8%のお父さんが取っていました。厚生労働省の調査では、今まででもっとも高かった数値が2.6%ですから、回答者には多くのイクメンが含まれていたといえます。もっとも、残りの約9割の父親は育児休業は「取らなかった・取れなかった」を選択しています。やはり、父親にとって育休はハードルが高い制度です。
では、育児休業制度以外で、子育てのために仕事を休んだ人は? と尋ねると、約半数の49.2%が「休んだ」と回答しましたが(図1)、取得した日数は2日が30.5%と最も多く(図2)、全体的に見ても子育てにたっぷり関わるには、きわめて短い日数しか休みを取れていない様子が分かります。
育児休業が注目されがちですが、仕事を休むのは大変なことです。せめて残業せずに早く家に帰って子どもと関わりたいというのがお父さんの気持ちでしょう。しかし、職場環境は厳しいようです。現在の職場の状況について尋ねた結果が図3です。「遅くまで残業する人が多い職場である」がその通りである(まったく+まあ)は、約6割に上っています。自分だけ「お先に~」とは言えない雰囲気です。また「育児中の女性をサポートする雰囲気がある」は48.2%(まったく+まあ)なのに対し、「育児中の男性をサポートする雰囲気がある」は20.4%(同)と半分以下。やはり、子育て中のお父さんへの社会の理解はまだまだという状況です。
当然のことながら、職場の雰囲気は子どもへの関わり方にも影響します。「時間の融通のきく職場である」「育児中の男性をサポートする雰囲気がある」「遅くまで残業する人が多い職場である」について「まったく、まあその通り」と回答した父親は、そうでない父親より、明らかに子どもと遊ぶ頻度が高い結果となっていました。
図1. 育児休業制度以外で仕事を休んだか
図2. 何日休んだか(n=630)
図3. 現在の職場について(n=1,265)
家族と過ごす十分な時間がない、と感じているお父さんが4割以上
お父さんたちは最近1カ月にどのようなことを感じ、経験しているのか・・・、複数回答で答えてもらったのが図4です。もっとも多かったのが「仕事のために、家族と過ごす十分な時間がない」43.2%です。子どもや家族ともっと一緒に過ごしたいという思いもありながら、職場での責任があるので仕事を頑張らなければならない。このジレンマの中で、小さな子どもを持つお父さんがマタニティブルーのような鬱状態を経験することに注目した研究も少しずつ出てきています。
図4. 仕事や職場で、最近1ヶ月の間に経験したり感じたこと(n=1,265)
また、父親の家事育児頻度を妻の就業有無別でみた場合、妻が仕事をしているほうが頻度が高いものの、仕事をしていない場合と比べると大きな差はありませんでした(図5)。背景には、妻の就業の有無に関わらず父親の実働時間が長いので家事育児の頻度に大きな差が出てこない、妻の仕事がパート等で実働時間が短い等の理由があると思われます。男性の長時間労働を変えないと、様々な負荷が女性ばかりにかかってしまいます。このままでは、出産後も就業継続する女性を増やすことを目指す「女性活躍推進政策」は壁にぶつかるでしょう。
図5
一方で、今のイクメンブームを見ていて、男性が家事育児に関わるのは、女性活躍推進のためだけ? という疑問も湧いてきます。忘れてならないのは、子どもの立場です。身近に父親がいて、一緒に過ごす時間のゆとりがあることが子どもの育ちにプラスに働くことは言うまでもありません。この調査は、2006年より4年間縦断調査(同じ対象者に定期的に調査協力してもらい、時間の推移の中での変化や因果関係を明らかにする調査)を行っています(「第1回妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査報告書」2010年)。その結果を見ると子どもの年齢が早い時期(0歳児)から父親が子育てに関わるほど、子どもとの愛着関係が築かれ、父親自身の子育て肯定感の高さにも影響するという結果が見られました。親の子育て肯定感が高いと子どもにとっての育ちの環境もよくなります。父子の愛着関係がしっかりしていることは、子どもが思春期になったときや、進路を選択するときにも良い影響を与えるでしょう。
もし、これをお読みの方の中に管理職の立場にいる方がいらしたら、小さな子どものいるお父さんが早く帰れるよう配慮していただければと思います。それが間接的ではあるけれど子どもたちの育つ環境を良くし、次世代育成に貢献することになります。どうぞよろしくお願いします!
著者プロフィール
後藤 憲子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 室長
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、教材・書籍の編集を経て、育児雑誌「ひよこクラブ」創刊にかかわる。その後、研究部門に異動し、教育・子育て分野に関する調査研究を担当。これまで関わったおもな調査、発刊物は以下のとおり。
関心事:変化していく社会の中で家族や親子の関わりがどう変わっていくのか、あるいは 変わっていかないのか
調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員
調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、経団連少子化委員会企画部会委員