2017/07/15

[第2回] アクティブ・ラーニングは高校の学び改革のチャンスだ —探究学習・課題解決型学習の資産をどのように生かすか— [2/2]

2.アクティブ・ラーニングに前向きな高校現場

○高校にはアクティブ・ラーニング導入に前向きな雰囲気がある

 上述のように、アクティブ・ラーニングの学力観・学習方法は1980年代以降の学校現場で一貫して心がけられ育てられてきた。そうした意味では中央教育審議会の提案は唐突ではないのである。もちろんこれまで見てきたように十分な準備状況であるとは言い難いので、慎重で丁寧な対応が必要であるが、今の段階では高校の現場はアクティブ・ラーニングを受け入れる方向に進んでいる。図2を見てみよう。図2は校長先生にアクティブ・ラーニングを推進することへの賛否を尋ねた結果である。ほぼすべての校長、96.5%がアクティブ・ラーニング推進に賛成している。高校現場ではアクティブ・ラーニングを受け入れることを良しとする風土が十分に形成されている。
図2 「アクティブ・ラーニングの推進」への賛成割合 <公立高校(全学科)、校長(1,110名)>

○高校はアクティブ・ラーニングや次期学習指導要領に向けた研修を始めている

 続いて、表4を見て貰いたい。表2で、探究型学習や課題解決型学習の今後の問題として教員の研修があげられていたが、表4では校長先生に2016年度中の校内研修の実施(予定を含む)について尋ねた結果、52.3%の高校で、「アクティブ・ラーニング」についての研修を行っている。これに、「探究型学習・課題解決型学習」の10.8%、「次期学習指導要領」の10.0%を合わせると、およそ7割の73.1%、に達する。数字で見る限りでは、アクティブ・ラーニングを円滑に導入するための研修は積極的に始まっている。
表4 2016年度の校内研修の予定 <公立高校(全学科)、校長(1,110名)>
Q.今年度、どのような領域について校内研修を行いますか(予定も含みます)

○高校教師はアクティブ・ラーニングにつながる授業方法を心がける割合が急激に高くなっている

 高校教師は、前述の小学校の教師と比べて、教科書に沿った授業や教師主導の授業など、"従来型"の授業方法を心がける割合が高いという特徴があるが、アクティブ・ラーニングにつながる授業方法を心がける割合も高くなっている。
 前掲の表3が98年調査から16年調査までの期間で小学校教師が心がけている授業の割合を示したものに対して、図3、図4は高校教師に対する2010年調査と2016年調査で高校教師が心がけている授業方法について尋ねた結果を示している。
 図3で従来型の授業を心がける割合から見ると、高校教師は小学校の場合と比較すると、従来型の授業を心がける割合が非常に高いという特徴がある。「教師主導の講義形式の授業」が86.9%から81.1%へと5.8ポイント減った変化にとどまる。
図3 心がけている授業方法 <公立高校(全学科)、教員>
注)( )内の値はサンプル数。
 続いて、図4はアクティブ・ラーニングで重要になると予想される授業方法を心がけている割合を見たものである。この図で、2010年調査と2016年調査を比べるといずれの項目も顕著に増加している。「表現活動を取り入れた授業」が10年の50.8%→16年の67.6%、「グループ活動を取り入れた授業」が同じく34.8%→66.1%、「自分で調べることを取り入れた授業」が51.3%→58.4%、「体験することを取り入れた授業」が36.3%→45.6%、「教科横断的な授業や合科的な授業」が32.7%→38.2%となっている。また今回調査から取り入れた項目では「生徒どうしの話し合いを取り入れた授業」が71.3%と7割を超えている。教師の間で、この6年間でアクティブ・ラーニングで重要になると予想される授業方法を心がける傾向が急激に高まっている。
図4 心がけている授業方法 <公立高校(全学科)、教員(6,436名)>
注)「生徒どうしの話し合いを取り入れた授業」は2016年のみたずねている。

○高校教師は優先して生徒に身につけさせたい力として、アクティブ・ラーニングが目指す学力を強調している。

 最後に、図5で教員が生徒に優先して身につけさせたいと思っている力(9項目から3つ選択)を見てみよう。
 文部科学省の言う学力観のうち、「詰め込み」あるいは「基礎的な知識や技能の習得」にかかわる項目である「各教科の基礎的・基本的な知識・技能」が5割弱の49.4%であった。高校では、「詰め込み」あるいは「基礎的な知識や技能の習得」が重視されていることが分かる。
 しかし同じ図で、本稿の冒頭に示したアクティブ・ラーニングの3つの要点のうち「主体的に」にかかわる項目である「自ら学び続ける力」は53.0%と僅差だがトップとなっていた。「深い学び」に関わる項目である「ものごとを論理的に考える力」も4割強の44.9%であった。この他、協働や対話で関わる項目である「人と協力しながら、ものごとを進める力」も35.6%と3分の1を超えていた。
 それ以外でも、値は低いが「深い学び」に関わる「根拠にもとづいて判断する力」が25.3%、「文章や資料の情報を的確に読み取る力」が17.9%などであり、アクティブ・ラーニングにかかわる3つの要点を合計すると。大きな値となる。
図5 生徒に身につけさせたい力【優先順位3位まで計】<公立高校(全学科)、教員(6,436名)>
Q.(9項目の中で)あなたが生徒に身につけさせたいと思っているものを、優先順位の高い順に3つ選んで番号をご記入ください。
 以上、アクティブ・ラーニングを円滑に導入するために、歴史、現状、課題を見てきた。
  • 高校はアクティブ・ラーニングに類似した経験を蓄積している
  • しかし、これまでの経験の中でアクティブ・ラーニング導入の課題も見えてきている
  • また、教師はアクティブ・ラーニングが育てるだろう学力を育てた経験が豊富ではない
 とはいえ、
  • 学校現場は長い間、アクティブ・ラーニングにつながる授業方法を心がけてきた(小学校のケースで検討)
  • 高校にはアクティブ・ラーニングの導入に前向きな雰囲気がある
  • 高校はアクティブ・ラーニングや次期学習指導要領に向けた研修を始めている
  • 高校教師はアクティブ・ラーニングにつながる授業方法を心がける割合が高い
  • 高校教師は優先して生徒に身につけさせたい力として、アクティブ・ラーニングが目指す学力を強調している。
 高校調査の結果は、現場には探究学習と課題解決学習の経験があり、アクティブ・ラーニング導入の土壌のあることが分かった。この知見からは、全く新たにアクティブ・ラーニングを導入するのではなく、耕されている土壌を活用することが円滑な導入に有効であると考えられる。
 しかし、アクティブ・ラーニングがつまずく懸念が無いわけではない。実践を導く具体的な理論と具体的な経験が十分でないこと、とりわけ、アクティブ・ラーニングが育てようとする能力のうち一定の部分については従来の探究学習や課題解決学習はうまく育てては来なかったのではないか。
 次期学習指導要領の実施の前に、これまでの学習指導要領下で準備できていることと準備できていないことを的確に把握して、各校での経験をさらに蓄積することが必要だ。