2016/03/17

[第2回] 卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感 —大学における「キャリア教育」推進の今後のあり方- [3/10]

3.卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感(1)

 以下では、本調査の結果に基づき、卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感について世代別に示し、「キャリア教育」の成果についても推察していく。卒業生のキャリア意識としては、「仕事に対して最も望むこと(キャリア・アンカー)」「自身の「人生」「職業」「家庭」「市民」「余暇」に関する考えや状況(キャリア成熟)」「卒業大学に対する考えや結びつき(回顧的意味づけ、つながりの状況)」を取り上げる。大学時代の成長実感としては、学年ごとではなく、大学時代全体を通しての成長実感に焦点をあてることとした。

(1)仕事に対して望む最もこと(キャリア・アンカー)

 卒業生のキャリア・アンカー(career anchor)は、大学時代の成長実感といかなる関連性がみられるのだろうか。キャリア・アンカーとは、個人が認識する能力及び職業に関するコンセプトであり、自己が認識する仕事の成功に裏打ちされた能力、自己が認識する基礎的な特性・資質、自己が認識する価値観などを包含するものである(Schein 1978)。 本調査では、「現在、仕事に対して最も望むこと」としてキャリア・アンカーの概念を参考に8つの選択肢を設定し、ひとつ回答することを求めている。大学時代全体を通しての成長については、4段階評定(「とても実感した」「まあ実感した」「あまり実感しなかった」「まったく実感しなかった」)で回答を求めた。
 図2(若手層)及び図3(シニア層)は、「現在、仕事に対して最も望むこと」別に、大学時代の成長実感率(「とても実感した」+「まあ実感した」)を示した結果である。
図2.「現在、仕事に対して最も望むこと」別にみた大学時代の成長実感率(若手層)
 若手層ではいずれも7割を超える成長実感率が示されおり、「社会への貢献や他者に奉仕すること(85.5%)」「自分の専門性や技術を追求すること(83.5%)」「組織の中で責任ある役割を担うこと(82.9%)」「解決困難な問題に挑戦すること(82.2%)」を望む卒業生では8割を超えている。
図3.「現在、仕事に対して最も望むこと」別にみた大学時代の成長実感率(シニア層)
 シニア層でも、成長実感率が8割を超えるようなものはみられないにせよ、「クリエイティブに新しいことを生み出すこと(79.8%)「自分の専門性や技術を追求すること(79.7%)」「組織の中で責任ある役割を担うこと(77.4%)」「社会への貢献や他者に奉仕すること(77.2%)」を望む卒業生では8割近い成長実感率を示している。
 また、「解決困難な問題に挑戦すること(若手+13.0ポイント)」「仕事の内容やキャリアを自律的に選択できること(若手+9.2ポイント)」「社会への貢献や他者に奉仕すること(若手+8.3ポイント)」は、若手層とシニア層の成長実感率に明らかな差がみられた。そもそも若手層はシニア層よりも成長実感率が6.4ポイント高いが(ベネッセ教育総合研究所2015)、これらの成長実感率の差はそれを上回っている。