2016/03/17

[第2回] 卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感 —大学における「キャリア教育」推進の今後のあり方- [7/10]

4.卒業生の大学時代の成長実感とキャリア意識形成に寄与しうる機会や環境(1)

 先に概観したように、「キャリア教育」は大学教育改革の動きの中で社会的な要請を追い風としながら急激に大学の中に浸透していったわけだが、大学生活をそのさなかに過ごした若手層とそれ以前に過ごしたシニア層の現在のキャリア意識と大学時代の成長実感には、予想していたほどの関連性の違いがみられなかった。その一因としては、卒業生のキャリア意識形成に対して、近年推進されているような「キャリア教育」が十分に機能していないことも考えられるが、「キャリア教育」が浸透する以前からキャリア意識形成に寄与しうる機会や環境があり、それがうまく機能しているといった可能性もあるだろう。
 本稿では後者に着目し、シニア層の大学時代の成長実感とキャリア意識形成に寄与しうる機会や環境に目を向けてみたい。シニア層の大学時代にも、現在のように「キャリア教育」という名称や括りではないにせよ、キャリア意識形成に直接的に影響するような機会や環境は多少なりともあったのではなかろうか。
 以下ではシニア層の卒業生に焦点をあて、本調査の設問項目からこのような機会や環境と考えられる「進路や将来について積極的に考えたか」「進路(就職、進学など)を相談できる教員や職員は合計何人いたか」「大学内の就職サポートの利用状況」について、大学時代の成長実感との関連性をみていくこととする。

(1)大学時代に進路や将来について積極的に考えたか

 シニア層の大学時代全体を通しての成長実感別に、大学時代に「進路や将来について積極的に考えた」かを尋ねた結果が図7である。
図7.大学時代の成長実感×「進路や将来について積極的に考えた」(シニア層)
 ベネッセ教育総合研究所(2015)によれば、「進路や将来について積極的に考えた」に対して「とてもあてはまる+まああてはまる」と回答したのは、若手層が55.5%であるのに対し、シニア層48.6%であり、6.9ポイントもの差がみられる。
 しかし図7からは、「大学時代の成長実感」が強いほど、「進路や将来について積極的に考えた」卒業生が多いことが示されており、大学時代の成長を「とても実感した」卒業生の73.9%が「とてもあてはまる+まああてはまる」と回答している。そのうちの34.8%は「とてもあてはまる」と回答しており、他に比べて明らかに高い結果となった。