2016/03/17

[第2回] 卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感 —大学における「キャリア教育」推進の今後のあり方- [4/10]

3.卒業生のキャリア意識と大学時代の成長実感(2)

(2)自身の「人生」「職業」「家庭」「市民」「余暇」に関する考えや状況(キャリア成熟)

 では、卒業生のキャリア成熟(career maturity)は、大学時代の成長実感といかなる関連性がみられるのだろうか。キャリア成熟に関する理論化は、1970年代のアメリカにおけるキャリアエデュケーションの実践の基底をなしていた。職業的発達、職業的成熟、進路発達の諸概念を包括した概念であり、進路選択・意思決定やその後の適応への個人的レディネスを測定・評価する目的で使用されることが多いものである(坂柳1991)。
 本調査では、「人生」「職業」「家庭」「市民」「余暇」に関する考えや状況(キャリア成熟)として、「関心性」「自律性」「計画性」という3つの下位尺度をそれぞれに設定し、4段階評定(「とてもあてはまる」「まああてはまる」「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」)での回答を求めている。
 表1は、「人生」「職業」「家庭」「市民」「余暇」に対するキャリア成熟度と大学時代の成長実感の相関を示したものである。キャリア成熟度は、キャリア成熟に関する項目の4段階評定を4点(「とてもあてはまる」)から1点(「まったくあてはまらない」)でスコア化したものである。大学時代の成長実感は、大学時代全体を通しての成長実感の4段階評定(「とても実感した」「まあ実感した」「あまり実感しなかった」「まったく実感しなかった」を4点(「とても実感した」)から1点(「まったく実感しなかった」)でスコア化している。
表1.「キャリア成熟」と大学時代の成長実感の相関
 若手層・シニア層ともに、「人生」「職業」「家庭」「市民」「余暇」いずれのキャリア成熟度も大学時代の成長実感と相関があることがわかる。中でも「人生」「職業」「家庭」のキャリア成熟度とは中程度の相関が示されており、若手層に関して言えば、「人生」のキャリア成熟度との相関係数は0.4以上である。とはいえ、若手層とシニア層では、いずれのキャリア成熟においても大きな差異はみられなかった。
 さらに中程度の相関がみられた「人生」「職業」「家庭」に焦点をあて、キャリア成熟度のスコアを合算し、おおよその人数が均等になるように3分割した群(高スコア群・中スコア群・低スコア群)と、大学時代の成長実感率を示した結果が図4から図6である。
図4.「人生」に対するキャリア成熟と大学時代の成長実感率
 まず図4は「人生」に対するキャリア成熟について示したものだが、大学時代の成長実感率は、若手層・シニア層ともに「低スコア群」が他群に比べて明らかに低い結果となった(若手層65.8%、シニア層61.0%)。また「とても実感した」の回答率は、若手層・シニア層ともに「高スコア群」が他群に比べて明らかに高いことがわかる(若手層41.0%、シニア層38.2%)。
図5.「職業」に対するキャリア成熟と大学時代の成長実感率
 続いて図5は「職業」に対するキャリア成熟について示したものだが、大学時代の成長実感率は、若手層・シニア層ともに「低スコア群」が他の群に比べて明らかに低いことがわかる(若手層62.9%、シニア層58.2%)。また「とても実感した」の回答率は、若手層・シニア層ともに「高スコア群」が他群に比べて明らかに高い(若手層44.4%、シニア層43.4%)。これらの傾向は、「人生」に対するキャリア成熟でも同様に示されている。
図6.「家庭」に対するキャリア成熟と大学時代の成長実感率
 最後に図6は「家庭」に対するキャリア成熟について示したものだが、大学時代の成長実感率は、若手層・シニア層ともに「低スコア群」が他群に比べて明らかに低い(若手層63.0%、シニア層57.2%)。また「とても実感した」の回答率は、若手層・シニア層ともに「高スコア群」が他群に比べて明らかに高いことがわかる(若手層40.8%、シニア層36.9%)。これらの傾向は、「人生」「職業」に対するキャリア成熟でも同様に示されている。
 松本(2015)によれば「現在の自己効力感が高い卒業生ほど、『大学時代の成長をとても実感した』と回答している」が、本稿での分析結果からは、世代を問わず、「人生」「職業」「家庭」に関するキャリア成熟度が高い卒業生には、大学時代の成長をとても実感している人が多いことが明らかになった。