

勉強をするはずの時間になっても、
子どもはダラダラ。
お子さまの態度に頭を抱えつつも、
子どもが勉強をやりたがらないのは
当たり前……と、
どこかあきらめムードの
かたも多いのではないでしょうか?
しかし脳研究者の池谷教授は
「本来、子どもは勉強が好き」だと言います。
「ガミガミ言わないと勉強しない」は、
もしかして大人の思い込み!?
子どものやる気を上手に伸ばす方法を、
池谷教授と三人のお子さまを育てる
山口もえさんに伺いました。


- 山口もえさん
- 1977年生まれ。1994年にCMデビュー後、おっとりした天然キャラクターとスローテンポなしゃべり方で人気を博し、バラエティ番組を中心にドラマ、映画、舞台などで活躍。タレントで初の野菜ソムリエプロの資格を取得した。一男二女の母。

- 池谷裕二教授
- 1970年生まれ。東京大学薬学部教授。脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科で博士号を取得。神経生理学を専門とし、脳の健康を探究し続けている。多くの学術誌で論文が掲載され、文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。二女の父。

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子どもがなかなか机に向かわないでいると、「勉強しなさい」と言うべきか、言いたい気持ちをぐっとこらえるべきか、悩みます。黙っていてもやらないし、言ったら言ったで「今やろうと思っていたのに、やる気なくした」なんて反発されたりして。
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子どもの中には、勉強することが好きで自分からどんどん取り組める子もいますが、それはほんの一部。ですから、「勉強しなさい」と促しても良いんですよ。
そもそも「やる気」も、本来は行動して気分が乗ってこないと出てこないものなんです。脳の中で「やる気」を生み出すのは側坐核という場所なのですが、側坐核は無意識下にあって、自分でコントロールすることができません。
つまり「やる気」が出てから勉強する、と言いますが、脳の働きとしては逆。まずは行動しないと始まらないのです。
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「やる気を待つよりも行動が先」というのは、実感としてよくわかります。大人だって、仕事したくないときがあるじゃないですか。やる気はないけれど、会社に行かなきゃいけない。それでも職場に行ってしまえば、思いのほかがんばれたりしますよね。子どもの場合は、やりたくないことをやらせるまでが大変です。
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一番良いのは習慣づけることです。難しい言葉で「認知負荷が減る」というのですが、勉強もいったん習慣になってしまうと、むしろやらないと気持ちが収まらなくなり、すんなり取りかかれるようになるのです。
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なるほど、1日のサイクルの中に「勉強」を入れてしまうんですね。新しい習慣が身に付くまでには、どのくらいの期間が必要なんですか?
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ある研究では、平均66日という結果が出ています。だいたい2カ月なのですが、子どもの感覚としては結構長いんですよね。でも、おうちのかたにとってはちょっと付き合ってあげるくらいの期間じゃないですか?
「脳の構造として、勉強を始めたらそのうちやる気が出てくるよ」と理屈を説明するのもよいかもしれません。おうちのかたがとっかかりだけつくってあげるんです。約2カ月で一生モノの学習習慣が手に入ると思えば、ルーティンの効果をいかさない手はないと思います。

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勉強を習慣化させるためには、おうちのかたからの働きかけは必要です。その際、怒るのではなく、楽しく、子どもの気分がのってくるような声かけをしたいですが、もえさんはどうされていますか?
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小学1年生の娘は学校から帰って来たら、まず勉強をする流れができています。でも、こうなったのも偶然で、「おやつを用意しているから、その間に宿題を済ませちゃおうか」と伝えたのがきっかけ。おやつが、勉強のあとのごほうびみたいになったんです。だから、娘に「おやつを食べてから宿題したら?」と言っても、「先にやってから」と返されちゃいます(笑)。
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すごく良い方法ですね。ごほうびはモチベーションを上げるのに有効なんですよ。
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ありがとうございます。池谷先生のお宅はどうですか?
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うちの子も、学校から帰ってきたらまずやることをやって、その後は好きに過ごすようにしています。ただし先に遊んだほうが、勉強がはかどるという子もいるので、スケジュールはお子さまと話し合って決めると良いですね。
そして、わが家では子どもが勉強をするときは、僕も隣に座って見守ります。親子のコミュニケーションの一環になっているのですが、気を付けているのは横からあれこれ口を出さないこと。子どもが「やらされている」と思わないように、楽しい雰囲気をつくるように心がけています。たとえば、問題を間違えても「テストのときじゃなくて、今、間違いに気づいたんだからラッキーだよ」と伝えたり。わからないときは、AIを使って解答を求めたりするのも楽しいですよ。
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自分も子育て中ではありますが、今の時代のおうちのかたは一生懸命お子さまに向き合っていてすごいなぁって感心します。こうやってちゃんと勉強したほうが良いよ、こっちの道に進むんだよって、大人がある程度レールの上を敷いてあげるのは悪いことではないですよね?
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はい。子どもが勉強のやり方がよくわからない、何をどうしたらいいのか理解できない段階で放置すると、習慣づけるのが難しくなったり、勉強嫌いになったりします。ある程度、導いたほうが良いですが、子どもが「レールの上を走らされている」と思わないように最終的な決定権は子どもに委ねたいですね。自分が決めた、ということは本人の自信にもつながりますから。
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自分の意思でこの勉強をしているんだって思ってもらえるようするんですね。保護者は、子どもの勉強をいつごろまでサポートすると良いでしょう?
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個人的には子どもに反抗されるまでは必要かなと思います。だいたい六年生あたりまでではないでしょうか? 思春期になって、おうちのかたに勉強を見られるのを嫌がるようになったら、パッと離れる。ただ子どもとしては、放っておかれるのも嫌ですから、遠くから見守ってあげるくらいのスタンスでコミュニケーションをとるのがよさそうですね。

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子どもに何度言っても聞いてもらえず、結果的に叱ってしまって自己嫌悪……というのも、よくある話ですよね。
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はい。でも、子どもが親の言うことを聞かないのは、脳の仕組みとしてごく自然のことなんです。
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えー! そうなんですか!?
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人間が子育てをするようになったのは1万年前ごろからで、約700万年の人類の長い歴史で見ると、最近のこと。というのも、狩猟採集時代、母親は妊娠と授乳を繰り返していて、子どもに接する時間はないまま、30歳くらいで一生を終えていました。では、誰が子育てをしていたと思いますか?
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父親も狩りに出ているとしたら……もしかして、子ども同士ですか?
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そのとおりです。ですから、脳の生理学上、子どもは親を必要としていないし、親も子どもを育てるのが上手ではないといえます。それなのに親が頭ごなしに言ってもうまくいかない。親と子という上下関係ではなく、子どもの友達のような対等な立場になって伝えると、聞いてくれることが多いんですよ。
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言われてみると、そうかもしれません。実は、私は勉強のことで子どもたちとトラブルになったことは少ないのですが、自分は勉強ができるほうじゃなかったから、「ああしなさい」って言える立場にないのも理由なんですよね。どちらかというと、「こんなに勉強しなきゃいけないんだ。今の子って大変だよねぇ」って共感しちゃっているから、もめようがないんです(笑)。
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それが良いコミュニケーションにつながっているんだと思いますよ。お子さまの心の頼りになっておられるんじゃないでしょうか。
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だけど、一切叱らない、というのは無理ですよね……。なので、叱ったときはできるだけ子どもに共感する言葉も伝えるようにしています。たとえば「○○はしちゃいけないけれど、やってしまう気持ちはわかるよ」とか。
子どもが不適切な言動をしたときに、なぜそれがいけないのか、自分はどうしてその気持ちになったのかを理解してもらいたいという思いがあります。
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叱るときに全否定しないというのは、子どもの自己肯定感を損なわないためにも大切なことです。僕自身、意識している叱り方に、PNP方式というものがあります。
PはPositive(ポジティブ)、NはNegative(ネガティブ)をさしているのですが、直してほしいことがあるときは、ほめてから叱り、そのあとまたほめるという方法です。「○○なところはいいけれど、ここをこうするともっとよくなるよ。でも、全体的にはとてもいいからね」といった言い方をすると、相手も前向きに改善しようという気持ちになれるんです。
本来、子どもって勉強が好きなんですよ。小さい子って、知的好奇心が旺盛ですよね。それが叱られたり強制されたりするうちに、嫌になっちゃう。だからできるだけ、勉強は楽しい、ポジティブなものだって思えるようなかかわり方を心がけられるといいですね。
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たしかに、子どもたちも幼いころ、図鑑を一生懸命見たり必死にお絵描きをしたりしていました。「お母さん、これ見てみて!」ってうれしそうに見せに来た、あの学びの好奇心を大切にしてあげたいです。
- 写真:山本倫子
- ヘア&メイク:HIROKO(セセッション)
- スタイリスト:濱中麻衣子
- 衣装協力:ディウカ/ドレスアンレーヴ
- 1DKジュエリーワークス/ドレスアンレーヴ
- 文:中澤夕美恵
- ※ここでご紹介している教材・サービスは2024年11月現在の情報です。教材ラインナップ・デザイン・名称・内容などは変わることがあります。