

よく寄せられる4つのお悩みについて、
脳研究者の池谷裕二教授と山口もえさんに
答えてもらいました。
脳科学的な視点と共感力抜群の
かかわりかたからは、「勉強しなさい」と
いうワードは一切出てきません。
勉強だけではなく、日々の親子の
コミュニケーションにも
ぜひ応用してみてください。


- 山口もえさん
- 1977年生まれ。1994年にCMデビュー後、おっとりした天然キャラクターとスローテンポなしゃべり方で人気を博し、バラエティ番組を中心にドラマ、映画、舞台などで活躍。タレントで初の野菜ソムリエプロの資格を取得した。一男二女の母。

- 池谷裕二教授
- 1970年生まれ。東京大学薬学部教授。脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科で博士号を取得。神経生理学を専門とし、脳の健康を探究し続けている。多くの学術誌で論文が掲載され、文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。二女の父。

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約束通り勉強が終わってから夕飯を出す
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空腹時と就寝前が勉強のゴールデンタイムと伝える
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これはすぐに解決策が思いつきました!
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何ですか?
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私なら、夕飯前と約束したのなら、勉強するまで食事を出しません。この相談をされたかたは優しいんでしょうね。子どもに反論されても、「だってご飯の前にやるって言ってたでしょ? 終わったら食べようよ」って返しちゃいます(笑)。
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さすがですね! このケースだと、僕は理屈から勉強を促します。実は夕食前と寝る前は、勉強のゴールデンタイム。人間の脳には動物だったころの痕跡があるのですが、空腹になると動物は獲物を捕るために記憶力を使います。同じように私たちもお腹が空いているときに記憶をする力が高まるんです。
ちなみにお腹がいっぱいになると、脳の活動が低下して記憶力のスイッチは切れてしまいますから、食後リラックスして過ごすのは理にかなっているんですよ。
就寝前の勉強がいいのは、睡眠には記憶を定着させる作用があるため。寝る前に覚えたことって、習得しやすいから漢字や英単語みたいな暗記系の勉強に向いています。どうせやらなくちゃいけないなら、今やったほうが効率いいよ、得だよと伝えると良いかもしれません。

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難しい問題はヒントを出してあげてOK
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簡単な問題から進めるように伝える
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テストでは「無意識の脳」を使う
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算数の文章問題でつまずくのは、これまで学んできた知識のどれを使えばいいのかがわからないというケースが多いです。分数で解くのか、はたまた図形なのか方程式か……。ヒントを与えればスッと解けることも多いので、わからなかったら聞く癖をつけてあげると良いですね。
最初のうちはこの方法で解けるよ、と解答に近いことを教えても構いません。だんだん「前にやったことある問題だよ」などと、ヒントを難しくすると、自分で解けるようになっていくと思います。
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小学生で難しい問題をじっくり考えるなんて、それだけでえらいですよね。この場合、私なら「できる問題から解いちゃったら?」と伝えます。他の問題を解いているうちに勢いづいて、あっさり解けちゃったということもありますから。
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その方法は実際のテストでも有効なんですよ。うちの子どもたちには、テストでは、手を動かす前に問題すべてに目を通すように教えています。
そうすることで、解ける問題、できそうにない問題が把握できるだけでなく、他の問題をやっているのと同時進行で、脳の中で無意識にできない問題のほうも解き始めるんです。
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簡単な問題をやっているかたわらで、違う問題を考えているということですか?脳ってすごい!
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そうなんです。だから最初に目を通しただけで、できないと思っていた問題が、難なく解けるということが起こり得ます。子どもは時間配分が苦手なので、テスト問題の途中でつまずいてしまって、半分の解答が白紙……ということがあるんですよね。
残念ながら無意識の脳を使っても解けないときは、いわゆる「捨て問(時間内に解くのが難しいため、あきらめる問題)」ですから、次に進むといいよと言っています。

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子どもの気分が乗ってくるまでそばにいてあげる
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目安の時間にとらわれない
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声かけをするときは否定形ではなく肯定形を使う
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小学校6年生になると、60分勉強しないといけないんですよね。長いと感じるかもしれませんが、勉強も気分が乗ってくるといつの間にか1時間が過ぎている、ということもあります。わからないところがあったら一緒に考えてあげたりして、お子さまのやる気に火がつくまで、おうちのかたがついてあげるのはどうでしょう?
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私は「60分勉強しないといけない」となると子どもも保護者も滅入っちゃうので、時間は気にしなくていいのかな、と思います。その日にやらなきゃいけない宿題や教材があったら、「じゃあ30分でやっちゃえば?」って言っちゃう。子どもが30分でも勉強できたらこっちの勝ちじゃないですか(笑)?
20分で終わらせちゃったとしても「40分もあまったね、ラッキーじゃない」と言って、その日の勉強はおしまいに。
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ハードルを下げるのも手ですよね。何かしら子どもが勉強に向かう、とっかかりをつくってあげるといいんです。
ただし「宿題をしないと遊ばせないよ」などという言い方には注意が必要で、「〇〇ない」という否定の言葉を二つ重ねると、相手を否定する意味合いが強くなってしまいます。同じことを伝えるにしても「宿題が終わったら、好きに遊んでいいよ」と、肯定的にすると、子どもも聞き入れやすくなるんですよ。

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砂時計を利用して休憩時間を見える化
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休憩中のスマホ・マンガ等は禁止
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記憶の定着にも最適! ぼーっと休むことを約束する
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集中力が持続する時間についてはいろいろな説があるのですが、実際のところよくわかりません。体調によっても変わってくるし、自分の好きな科目なら長い時間取り組めるかもしれない。
なので、集中が途切れたら、いったん休憩を取って切り替えるのは良いと思います。戻る癖をどうつけるか、なんですよね。
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休憩時間をわかりやすくするのはどうでしょうか? 3分計とかの砂時計を用意して、砂が全部落ちたら勉強を再開しようと伝えるんです。それでもやらなかったらもう1回ひっくり返す。それでもだめならもう1回。10分くらい休んだら、「そろそろ勉強に戻ったら?」と教えてあげると、区切りをつけやすそうじゃないですか?
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いいですね! 子どもが砂時計を見ていないこともあるので、そこだけおうちのかたが気を付けてあげたいところ。「ほらほら、もうすぐ砂がなくなりそうだよ」って、あくまでも叱るんじゃなくて友達感覚で楽しく伝える工夫をするのも大切です。
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休憩中にスマホを触るのはだめですよね。夢中になっちゃうと、もう戻ってこられませんから。
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覚えた知識を整理するという意味でも、休憩中のスマホゲームやマンガはすすめられません。やってしまうなら、いっそ勉強をやめて昼寝しちゃったほうがましなくらいで、休憩中は何もせずぼーっとするのが一番いいんですよ。
脳のしくみを子どもに伝えて「休み方」を見直すのも一案。ただ休んでいるだけって結構苦痛なので、早く勉強に戻りたくなるかもしれません。
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休むほうが勉強するよりつまらないなんて、子どもにとってはガッカリしちゃう話かも! だけど「仕方ない、やるか」となって子ども自身が自分の力で勉強をやり切ったら達成感も得られるし、次のモチベーションにもつながっていきますよね。
そして子どもの頑張りに対しては「最後までできたね、よくやったね」って声をかけてあげたいです。保護者がちゃんと見守ってくれていると、何歳になっても子どもはすごくうれしそうな顔をしますから。親子のコミュニケーションを大事にしながら、前向きに勉強に導く方法を探していきたいですね。


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僕自身は親に、「勉強しろ」と言われたことが一度もないんです。勉強するようになったのは、自分でやると決めた中学生からなので、実は遊んでばかりいた小学生の勉強はわかっていないことが多い。子どもの勉強を見ながら「こんなふうに解くのか」って面白さに気付いて、ああ、当時もっと「勉強しろ」って言ってもらいたかったなと、今になって思いますね。
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芸能界は学歴が関係ないところなのですが、やっぱり「もっと勉強しておけばよかったな」と言う人はいっぱいいますし、私自身もそう思います。だけど当時は勉強って嫌なもの、面倒なものだって思いこんじゃっていたから、もったいなかったですよね。
池谷先生、もしも子どもが「勉強嫌い」になってしまったとしても、軌道修正はできるんでしょうか?
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大丈夫、何年生からでもできますよ。新学期など新しいことが始まるタイミングでは、お子さまも新鮮な気持ちで毎日を過ごしています。その流れでおうちの方が対応をパッと切り替えると、すんなり受け入れやすいのではないでしょうか。
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学ぶことは楽しいものだと気づいてもらいたい一方で、今の子どもたちはよく頑張っているなという思いもあります。少なくとも自分よりも勉強しているから、リスペクトしちゃうんですよね。
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もえさんのお子さまを尊敬する気持ちは響いていると思いますし、それが頑張りにつながっているのかもしれません。「親」という字は、木の上に立って見ると書きます。高学年以上になってくると、近くで見るというのはお子さんが嫌がるかもしれないですが、見てほしくないわけではない、と思うんです。目を離さず、適度な位置から見守っていけるといいですね。
- 写真:山本倫子
- ヘア&メイク:HIROKO(セセッション)
- スタイリスト:濱中麻衣子
- 衣装協力:ディウカ/ドレスアンレーヴ
- 1DKジュエリーワークス/ドレスアンレーヴ
- 編集協力:竹倉玲子
- 文:中澤夕美恵
- ※ここでご紹介している教材・サービスは2024年11月現在の情報です。教材ラインナップ・デザイン・名称・内容などは変わることがあります。