「子どものため」と親の希望・都合を押し付けていませんか?
今まではうまくいっていた言葉かけや関わり方が、最近子どもに響かなくなったな、と感じることはありませんか? それはもしかしたら、「子どものため」と言いながら、親の希望・都合を無自覚に押し付けていることが原因かもしれません。子どもは成長と共に自分で考えて判断するようになり、親の手を離れていきます。親からしてみれば、その姿が反抗的に感じられたり、要領が悪いと感じられたり、だらしなく見えたりすることもあるかもしれません。でも、それが当たり前の成長なのです。親の手から離れようとする子どもの手を引き止めるのではなく、離して見守れるようになりましょう。この特集では、そのヒントとなる子どもの心に届く関わり方について、解説します。
自分で判断する力が備わる一方で、感情の起伏が激しくなる。
状況を判断し、行動を検討し、意思決定をする脳の前頭葉部分が発達していき、自分で判断する力が備わります。ただし、前頭葉部分はまだ発達途中のため、自分でうまくコントロールできずに、感情の起伏が激しい時期でもあります。自我も育ち、親に依存してきた生き方から、自分で選択する人生へと大きくかじを切ろうとするため、親の言うことを無視するようになるなど、反抗的に感じる態度も増えます。
思春期の脳は忙しい。
また、中高生は、学校や塾、部活、友人関係などで思い悩むことも増えるなど、毎日がいっぱいいっぱいで、大人が思っている以上に肉体的にも精神的にも忙しい状態です。そのため、悪気がなくても親の言っていることが、頭に入る余地がないこともあります。親からしてみれば、突然の変化に戸惑うこともあるかもしれませんが、中高生はそういう時期なのだ、ということを、まずは理解することが大切です。
親が悩みがちな子どもの言動・行動について、アドバイスします。
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返事をしたのに覚えていない、聞いていないと言う。
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まさに「思春期の脳は忙しい」ことにより起こる状況です。他のことで頭がいっぱいで「一応なんか言われたから『うん』と言っておこう」という状態なのでしょう。このような場合、目くじらを立てず、覚えておいてほしいこと、ちゃんと答えてほしいことがあるときは、子どもの目をしっかりとキャッチして「聞いてくれる?」と声をかけてから話すようにしましょう。
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話しているうちに険悪な空気になる、ケンカになる。
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話しているうちに、「ついで説教」をしていませんか? 子どもにしてみれば、普通に話していたと思ったのに、急にケンカをふっかけられた、みたいな状態です。また、「ついで説教」は子どもが受け取りにくく、親も欲しい結果を手に入れることはできません。子どもに言いたいことがある時は、ついでではなく、あえて「5分ください。お座りください」などと丁寧に声をかけて、お説教タイムを別につくって、最初に伝えた時間内で話をしましょう。こうすると、子どももちゃんと聞いてくれることが多く、お互いに嫌な気分にもなりにくいでしょう。
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テストの点が悪いことに、親ばかりが焦ってイライラしてしまう。
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自分の点数にがっかりしている子どもに、「何これ?」「本当に勉強したの?」と親が責めたり評価したりしてしまうと、親への反抗から、自分のがっかりを素直に認めない方向に心が動く可能性があります。つまり、「こんなもんだ」、「自分はがっかりしていない」と、よくない点数を受け入れてしまうのです。結果、子どもの「自分はこんなもんだ」「いい成績は取れない」という自画像をつくるきっかけになりかねません。
まずは「どうだった?」とだけ聞いてみましょう。そして、子どもの愚痴や悪態を全部聞いてください。親は「そっか、難しいよね」と全部受け止めて、「理想的には、何点だったらいいと思えた?」と聞いてみてください。親子の信頼関係が構築されていたら、「今回は勉強したから80点はいっていると思ったけれどダメだった」などの言葉が返ってくると思います。そうしたら「そうか、80点取れた自分ってどんな自分だろう?」「今回68点だったけれど、あと2点上げるためにできることって何だろうね?」など、子どもが満足できるセルフイメージを描ける声かけをしましょう。テストは具体的な結果が見えるため、一歩前進させるいいチャンスでもあります。
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夜更かしばかりしている。
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中高生になると、やりたいことがたくさんあって、夜中まで起きている子どもは少なくありません。逆に思春期になると、やたら寝ているという子もいます。おうちのかたも、ご自身が中高生のころはそうだったのではないでしょうか? 夜更かししている子どもに「そろそろ寝たら?」と言っても、寝られるものでもありません。健康的に問題がなく、基本的な生活習慣が定着しているのであれば、心配しすぎなくても大丈夫でしょう。就寝前は「おやすみー」と言って先に寝てしまいましょう。
思春期になると、男女ともに異性への関心が強くなります。それは当然のこととわかっていても、不安に思うこと、気を付けてほしいことをどう伝えればいいのか、悩むおうちのかたは多いでしょう。子どもに伝えたいこと、親として理解しておきたいことを解説します。
性に関する話は、心の部分と事実を伝えて。
性に関することは、できれば男の子は父親、女の子は母親が、「男として、女として、これって大事だよ」ということを話せるといいでしょう。望まない妊娠で堕胎することの現実、避妊の必要性と知識など、ごまかさずに、正確な事実を教えてあげたほうがいいです。また、「すごく人を好きになったらセックスをしたいと思うかもしれないけれど、簡単にできるものじゃないんだよ」「自分と相手を大切にできた時に初めて幸せになれるんだよ」といったメンタルな部分を伝えていけるといいですね。
子どもと話すタイミングとしては、「彼氏・彼女ができたかな?」「親密な感じで付き合っていそうだな」と思うことがあったら、「ちょっと時間をください。改めてお話をさせてください」と声をかけて話をする機会をつくりましょう。親としても、しっかり話しておくことで、子どもが理解してくれたな、と思うと安心して任せられます。言わなきゃと思っているけれど、余計な刺激はしないほうがいいのかな、と言えずにいると心配ばかりが膨らんでしまいます。恥ずかしがらずに声をかけてみてください。
「彼氏(彼女)いるの?」は、親子間でもハラスメントになる可能性が。
子どもに彼氏・彼女がいるのかどうか、それを聞けずに迷っている場合、親は子どもとの関係に自信がないのかもしれません。職場で「彼氏いるの? 彼女いるの?」と聞くことは、関係性によってはハラスメントの認定になります。家庭であってもそれは同じです。家族だから、親子だからという先入観で聞いて当たり前、答えて当たり前ということはありません。聞いたら子どもが喜んで答えてくれる、子どものほうから教えてくれるような関係性であるかどうかをいま一度考えてみましょう。また、関係性は良好だとしても、子どもの気質によっては秘密主義の場合もあります。その場合も、親が詮索するようなことはやめ、子どもがオープンに語りたくなる環境づくりを心がけましょう。
親が子どもについて悩んでいることの半分は、実は親自身の悩みです。子どもは、いいものに育っていこうという力・傾向があるので、その環境の中でいちばんいいように育ち、何とか自分で学んでいこうとするものです。あまり子育てをしようと思いすぎず、手を離すことを恐れずに、子どもに任せましょう。親が人生を楽しんでいれば、子どもは子ども自身で、大変な目に遭いながらも、人生を生きていくために自分で学んでいきます。あなたも子どもも、「十分すばらしい」のです。子どもだけに意識を向けすぎず、自分の人生を楽しんでくださいね。
イラスト/ヤマサキミノリ 取材・文/本間勇気