2023.11.22
【専門家・体験談】「文字を書くのがニガテ」書字障害(ディスグラフィア)とは? 家庭や学校でどうサポートする?
言葉を聞いて理解することはできるのに、文字を書くことが難しい。学習障害のひとつ、「書字障害」(ディスグラフィア)に見られる特徴です。
書くことが難しいのに、学校の宿題やテストで書かないといけない場面が多くあるため、書字障害のお子さまはとても大変な思いをしています。
ここでは、「書字障害」に見られる特徴や原因、また家庭や学校でどう支援すれば学習に取り組みやすくなるのかをお伝えします。
監修者
榊原 洋一さかきはら よういち
CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問
監修者
小池敏英こいけとしひで
尚絅学院大学特任教授 東京学芸大学大学院 教育学研究科修士課程
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。
書字障害とは?
書字障害とは学習障害(LD)のひとつで、「ディスグラフィア」とも呼ばれています。
知的な発達には遅れが見られないのですが、文字を書こうとすると、時間がかかったり、正しい形に書くことができなかったりと困難があります。
その原因は、本人の学習努力や意欲とは関係なく、脳機能の発達にあると考えられています。
例えば書字障害のお子さまは文章を読み、意味を理解することはできても、視覚から入ってきた情報を処理する機能がうまく働かないため、文字の形や位置、大きさを正しく認識するのが難しくなります。
また、ものを見ながら手を動かすなど、手や目を同時に使う協調運動(目と手の協応)に苦手さがあると、手の動きをうまくコントロールできなくなります。
そのため文字に書き起こすことが難しく、鏡文字(上下はそのままで左右を反転させた文字)になったり、自分でも読めない形になってしまったりしがちです。
しかし正しく書けるようにならなくては…と、字を書く練習をただ繰り返しても効果はあまり見込めません。それぞれのお子さまの状態に合わせて、サポートを行うことが大切です。
小学生に見られる書字障害の特徴
小学生になると、学校の授業でも家庭学習でも、文字を書く場面が多くなります。
書字障害のあるお子さまの様子、書いた文字には、下記のような特徴が見られます。
・線がぐちゃっとしているような文字を書く
・1文字ごとに大きさが違い、バランスがとれない
・文字を書くのに時間がかかる
・枠や線からはみ出して書く
・鏡文字(上下はそのままで左右を反転させた文字)を書く
・漢字のへんとつくりを逆に書く
・線のつなぎ方や書き順がわからず、絵のような文字を書く
・文法的に正しい文章を書くのが難しい
・筆圧が強すぎる、または弱すぎる
・文字を書くことへの負担感が強く疲れやすい
上記は、書字障害に見られる特徴の一例です。
お子さまのノートやテスト、家庭学習の様子を目にして、心当たりがあり不安に感じる場合は、まず担任の先生や学校のスクールカウンセラー、あるいはかかりつけの小児科医に相談してみましょう。
家庭では、どうサポートすればいい?
書字障害の場合、何とか書けるようにと、ついつい書き取り量を増やしがちですが、書くことで精一杯になり、肝心の文字の形がつかめないまま負担ばかりが多くなりがちです。
そのため、ただ書き取りを繰り返すのではなく、一人ひとりに適した方法でトレーニングを行うことが大切です。
宿題など家庭学習の際に保護者のかたができるサポートについて、いくつか例をご紹介します。
余白を十分とり、広いスペースに書く
書くスペースが広いと、書きやすく感じるお子さまもいます。ただ広ければ良いというものでもないので、お子さまが書きやすいと感じるスペースに書いてみるようにしましょう。
マス目のあるノートに書く
マス目があると文字のバランスを意識できます。そのお子さまにとって書きやすい大きさのマス目なら、安心して学習に取り組めます。
一般的には、学校で使用する漢字練習ノートのマス目よりも少し大きめのものを使うことが多いです。
しかし、お子さまごとに視野の広さや書きやすさは異なりますので、お子さまに合った大きさのマス目を一緒に探っていきましょう。
なお、マス目の中に十字に点線が入ったものを使うと、文字を書くときの目安になるのでおすすめです。
筆記用具や紙を工夫する
使う筆記用具や紙によって、書きにくさが増したり、手の疲れや痛みを感じたりする場合も。
三角で握りやすい鉛筆を使う、4Bなど濃くやわらかい芯の鉛筆を使用する、グリップなどの補助用具を活用するなど、お子さんが「書きやすい!」と思える筆記具や補助用具を探してみましょう。
漢字の成り立ちを意識する
へんとつくりを組み合わせるなど、漢字のそのものを覚える前に、どのようなパーツで成り立っているのかを意識させるようにしてみましょう。
「カタカナのタとトでそと」「カタカナのムとロで台風のたい」「木の上に立ってみるのが親」などと、分解してみるとより理解しやすくなります。
言葉で説明しながら、一緒に書いてみるとさらに覚えやすくなっていくでしょう。
タブレットに対応したペンで書き込む
学年が上がってもなかなか筆記の負担が減らない場合には、「書く」以外の手段として、タブレットに対応したペンで書き込むと、気分も変わって書きやすくなる場合があります。
点つなぎ、線つなぎ、迷路
筆記具を扱う手先の動きや、運筆のトレーニングになります。文字の勉強をするというよりも、遊びとして楽しめるので、ご家庭で取り入れやすくおすすめです。
親子で一緒に遊びながらやってみるのもよいでしょう。
学習して忘れた頃に、思い出してみる
学習してから1週間程度すると、忘れやすくなります。
その頃に一度、「思い出す」活動を取り入れると、定着が良くなることがわかっています。
また、言葉で漢字の組み立てを学習した場合には、漢字を書く代わりに、漢字の組み立てを言葉にして思い出すことも有効です。
保護者のかたはどんな工夫をしている?
そのお子さまに応じたサポートをすることが大切ですが、各ご家庭ではこのような工夫をされたそうです。
■好きな調べ学習をする・大きなマス目に書く
埼玉県
中2保護者 アルト
作文ノートのマス目に文字が収まらない時期は、大きなマス目のノートを使わせてもらいました。
何をやるにも、人の倍以上時間がかかるので、「帰ったら宿題」を習慣づけました。
宿題以外に家庭学習があったのですが、先生の許可を頂き、図鑑を使って好きな魚調べをさせてもらっていました。
意外と漢字や絵の勉強になりました。
■文房具を工夫する
長野県
小4保護者 まみ
文字を書くのが苦手で、学校でもまったく書きたがらない時期があったのですが、表面がザラザラした下敷きを持たせたところ、それを使って書くようになりました。
■間違っても細かいことは注意しない
広島県
小1保護者 なな
学習に関しては知識欲が強いので進んでやるほうだとは思いますが、書き取りなど文字を書くような学習が苦手なため、あまり細かい訂正はしないようにしています。
学校にはどんなサポートをお願いしたらいい?
学校の授業では、ノートをとったり問題に答えたりと、多くの教科で文字を書く場面があります。
どのような配慮やサポートがあれば授業を受けやすくなるかを、学校と相談するとよいでしょう。
ただし書字障害の場合、お子さまの状況によって効果的なサポートの仕方は違ってきます。
必要に応じて専門家の意見も交えながら、学校の先生と共に最適な支援は何かを考えてみるとよいでしょう。
学習サポートツールを利用する
専門家の判断をあおぎつつ、必要に応じてタブレットやデジタルカメラといった、学習をサポートする電子機器やツールなどの使用許可を得られないか相談してみましょう。
書かずに聞くことに集中させてもらい、黒板を写真にとる
学習補助のためにタブレットなどを持参するお子さまも増えてきています。そのため、ノートに書くことよりも、まず授業を聞くことに集中させてもらいましょう。
そのうえで黒板はタブレットで撮影し、記録を取っていいか、相談してみましょう。
書字障害用の教材の活用
書字障害のお子さま向けの特別な教材や用具を使用するのも助けとなります。
学校の通級などではそのような教材や用具が準備されていることもありますので、どのような方法がお子さんに合っているか、一度先生やカウンセラーの先生等の専門家に相談してみるのもいいでしょう。
まとめ & 実践 TIPS
書字障害のお子さまは「理解できることが多いのにノートをとれない」といった状況になるため、「書く練習が足りない」「勉強をなまけている」などと誤解を受けてしまうこともあります。
また、ノートなどに書けないがために、本来理解できるはずの内容が学べなくなるなど、学習に遅れが生じてしまうことも。
そのことでお子さま自身が学習への自信や意欲をなくしてしまう場合もあります。
授業では書くよりも聞くことを優先するなど、お子さまにあった方法をとりながら、まずは学習内容の理解を促していきましょう。
あわせて、学校にも相談し、お子さまができる係の仕事を任せてもらうなど、成功体験も多く積ませてあげたいですね。
家庭だけで抱えずに、学校の先生やスクールカウンセラー、医師などの専門家にも相談しながら、お子さまがのびのびと学び、成長できる環境を整えていきましょう。
監修者
榊原 洋一さかきはら よういち
CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問
著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)など。
監修者
小池敏英こいけとしひで
尚絅学院大学特任教授 東京学芸大学大学院 教育学研究科修士課程、東北大学教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。東京学芸大学教育学部 教授を経て2019年4月より現職。
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。