2018/08/31
第1回 部活動の役割を考える 子どもたちに適切な活動の機会を提供するために その3
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生
その3 先生にとっての部活動
世界一忙しい日本の教員
今、教員の多忙化が社会的な問題になっている。中学校や高校の教員については、長時間勤務や休日出勤が常態化する一因として、部活動の指導が挙げられている。今回(その3)は、教員が部活動に対してどれくらい負担を感じているのか、また、教員自身は部活動の扱いをどうすべきだと考えているか、そうした教員の声を確認していこう。部活動は教育課程外とはいえ、そのほとんどは教員が顧問を務め、指導を行っている。子どもとともにもう一方の主要な当事者である教員側の意識・実態をとらえておく必要がある。
最初に、教員の勤務について日本の特徴を明らかにするために、TALIS(OECD「国際教員指導環境調査」)の結果を見てみよう。この調査は、OECD加盟34の国と地域を対象に行われている。下の表からは、諸外国に比べて日本の教員の「仕事の時間」が長いこと、とくに「学校運営業務への参画」「一般事務業務」などの事務的な仕事や「課外活動の指導」が長いことがわかる。「課外活動の指導」(その多くは部活動と推察される)は、「指導(授業)」「学校内外で個人で行う授業の計画や準備」といった学習指導のための時間に次いで長く、総時間の14.3%を占める。
こうした教員の忙しさは、文部科学省が実施する「教員勤務実態調査」でももうかがえる。2016年実施の調査では「部活動・クラブ活動」にあてる時間の平均は、平日41分、休日2時間10分。週に換算すると「7.75時間」となり、TALISの結果と一致する。この数値は、2006年調査と比べて平日で7分、休日で1時間4分も増加しており、10年間で部活指導の負荷が高まった。このように、経年で見たときに部活動が増えているという点も、押さえておかなければならない。
顧問の状況
中学校、高校では多くの教員が部活動の指導を行っているが、その実態はどのようなものだろうか。また、指導の状況によって、勤務実態が変わったり、部活動に対する意識が異なったりするようなことはあるのか。ここからは、ベネッセ教育総合研究所が実施したいくつかの調査から探ってみたい。
図表12は中学校教員について、図表13は高校教員について、『学習指導基本調査』のデータから「部活動顧問の状況」を示した。これを見ると、中学校、高校ともにほとんどの教員が「主顧問」か「副顧問」のいずれか(もしくは両方)を担っている。「顧問なし」は中学校で2.6%、高校で2.4%しかいない。
中学校と高校で、違う点もある。中学校では、男性教員の方が「主顧問」を多く担っているのに対して、高校は性差が小さい。また、中学校では、「26~30歳」「31~40歳」などの若い教員が「主顧問」を担うケースが多いが、高校は年齢による差がそれほど大きくはない。
さらに、中学校女性教員の数値を見ると、「26~30歳」の「主顧問」(「主顧問+副顧問」も含む)の比率は61.7%だが、「31~40歳」になると45.5%に低下する。おそらく、結婚や出産によって「主顧問」を外れるケースが多いと推察するが、次項で見るように高校教員に比べて中学校教員のほうが顧問の負荷が大きいようだ。中学校の女性教員は、家事や育児を担いながら「主顧問」をもつことが難しいのだろう。
顧問の状況による勤務実態の違い
このように多くの教員が顧問をしているが、その状況によって勤務実態も異なる。図表14では、「休日出勤」について顧問形態別に示した。中学校教員のデータでは、「ほとんど毎週」休日出勤をしている比率は、「主顧問」だと9割近く。これが、「副顧問」だと6割、「顧問なし」だと3割に低下する。高校教員についてはここまで顕著ではないが、やはり「主顧問」だと7割弱が「ほとんど毎週」休日出勤をしているのに対して、「副顧問」「顧問なし」だと5割弱となる。顧問の形態によって、休日出勤の状況が異なる。
とはいえ、「顧問なし」でも中学教員で3割、高校教員で5割弱が「ほとんど毎週」休日出勤をしている。部活動以外の業務も全般的に忙しい状況が常態化しているようだ。
図表15では、①出・退勤時刻とそこから算出した学校にいる時間、および、②業務やプライベートの時間についてたずねた結果を顧問形態別に示した。ここでも、とくに中学校教員で顧問の状況による差が大きいことがわかる。中学校教員の「学校にいる時間」は、「主顧問」12時間45分、「副顧問」12時間13分、「顧問なし」11時間16分。「主顧問」と「顧問なし」では1時間半程度の違いがある。「主顧問」の退勤時刻は平均で20時を過ぎる。これでは帰宅して家事や育児を行うことは難しい。
さらに、「顧問なし」でも11時間を超えて職場にいるというのは、部活動以外の業務も多忙であることをうかがわせる。高校教員は中学校教員ほど明確な差はないが、顧問の状況を問わず「学校にいる時間」が長いのは、中学校教員と同じである。
業務やプライベートの時間はどうか。それぞれの時間を顧問形態別に見たところ、中学校教員で「顧問なし」>「主顧問」の傾向が見られた。しかし、きわめて大きな差というわけではなく、「主顧問」も限られた時間のなかから各取り組みの時間をねん出しているようである。
以上、勤務実態などについてみてきたが、とくに中学校教員で顧問の状況により差が見られた。「主顧問」は休日出勤も多く、平日の学校滞在時間も長い過酷な状況に置かれている。しかし、「顧問なし」であっても労働者一般と比べるとかなり勤務時間は長く、教員全体に忙しさが常態化している実態がある。
部活動の負担感
それでは、教員自身はその負荷をどのように感じているのか。続けて、「部活動の負担感」をたずねた結果を見てみよう。図表16である。
「部活動の指導が負担である」かについて肯定(「とてもそう思う」と「まあそう思う」の合計)したのは、中学校教員で63.6%、高校教員で49.7%。中学校教員の方が負担を感じる比率が高い。中学校教員は「主顧問」「副顧問」に差はなく、高校教員は「副顧問」の肯定率が若干低い。「学校にいる時間」は負担感と強い関連がなく、長時間勤務しているから負担感が増すわけではなかったが、男性教員に比べて女性教員の方が肯定率が高かった(図表省略)。女性の方が、家事・育児との両立の問題に直面しやすいからだろう。
図表17では、部活動を含めて、それ以外の業務の負担感や悩みなどについてたずねた結果を示した。これを見ると、問題があるのは部活動だけではない。「教材準備の時間が十分に取れない」は、中学校教員では顧問の状況を問わず8割が肯定。「作成しなければならない事務書類が多い」は8割弱、「校務分掌の仕事が負担である」も5~6割が肯定している。高校教員では、「教材準備の時間が十分に取れない」は「主顧問」で7割、「顧問なし」でも6割が肯定。顧問の状況によって多少の違いはみられるものの、多くの教員が事務書類の作成や校務分掌の仕事を負担に思い、時間の不足を感じている。部活動の削減の議論に留めるのではなく、教員の業務全般を見直し、いかに効率化を図るかについても検討する必要がある。
部活動に対する意見
それでは、教員は部活動に対してどのような意見をもっているのか。教員自身の意見を紹介したい。図表18は、部活動の外部指導員任用に関して賛否をたずねた結果である。ここからは、顧問の状況によらず8割前後が任用に「賛成」していることがわかる。教員の多くは、自分たちだけで部活動を指導するのではなく、何らかの形で外部の力を借りたい(借りるべき)と考えている。
しかし、それでは部活動を「地域社会や民間企業にゆだねるべき」かとたずねると、意見は分かれる。図表19を見てほしい。「A:部活動の指導は、地域社会な民間にゆだねるべきだ」と「B:部活動の指導は、学校教育活動の一環として教員が行うべきだ」のいずれが一方に近い方を選んでもらったところ、Aは51.2%、Bは46.0%と二分された。しかも、「主顧問」にBが多く、「副顧問」「顧問なし」にAが多い結果となった。
同様に、「A:生徒理解を深めるために、部活動の指導に積極的に取り組みたい」か、「B:学習指導の準備などの時間を確保するために、部活動指導は少なくしたいか」のどちらに賛成するかをたずねた。その結果は、A40.2%、B57.2%とBが優勢だったが、「主顧問」はほぼ半々の結果となった。「主顧問」は「副顧問」「顧問なし」に比べて、「部活動の指導に積極的に取り組みたい」と考えている。
部活動は「教員が行うべき」「積極的に取り組みたい」という意識をもっているから「主顧問」を引き受けるのか、「主顧問」として部活動に関わった結果としてそのような意識をもつのか。主従の関係は分からない。ただ、部活動の指導に熱心であることと、そこに教育的な意義を見出すことは、無関係ではないだろう。内田が指摘するように、部活動に力を入れている教員のなかには、楽しくてハマっている教員も存在する(内田良『ブラック部活動—子どもと先生の苦しみに向き合う』東洋館出版、2017年)。ふだんの授業では意欲を見せない生徒が、部活動ではやる気を示して、指導に従ってくれる。指導をした分だけ強くなり、試合に勝って、生徒や保護者の信頼も厚くなる。こうした状況が、部活動を過熱化させやすいという。
教員でも意見が分かれる部活動。熱心な教員もそうでない教員も、部活動の教育的な効果を意識しつつ、教員、生徒ともに無理のない範囲で行うにはどうすればよいか。法的には教員が担う必要がない業務を、教員の自主性にどこまで委ね、外部活用も含めてどう制度をデザインするか。さらには、部活動の議論に留めるのではなく、業務全体の効率化のなかで部活動にどれくらいリソースを割くべきか。教員の超過勤務が社会問題化する今日、これらを真剣に考える好機といえる。
ところで、部活動は子どもや教員のような当事者にとっての意義だけでなく、社会の中で果たす役割もある。次回(その4)は、状況を俯瞰して部活動にどのような社会的意義を見出すか、検討したい。