2018/08/24

第1回 部活動の役割を考える 子どもたちに適切な活動の機会を提供するために その2

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

その2 部活動の意義

部活動の位置づけ

 今日では、7~8割の子どもが参加し、多くの時間を費やしている部活動。しかし、その制度上の位置づけはあいまいで、学習指導要領のなかでの扱いは時代とともに変わってきた(中澤篤史『運動部活動の戦後と現在』青弓社、2014年)。2008年公示の「中学校学習指導要領」では、部活動が「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」とされ、「教育課程外」の活動であることが示された。これは2017年公示、2021年実施が予定されている学習指導要領でも変わらない。とはいえ、部活動は「スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるように留意する」と記述され、教育課程外(すべての生徒に強制・必須ではない)とはいっても教育的な意義が強く認識されている。
 実際に、部活動には、仲間と同じ目標を達成するように協働することで、人間関係の形成にかかわる力、継続や自己抑制、自己肯定感といった「社会生活を営むうえで有用な能力」の育成が期待される向きがある。多くの学校が部活動を奨励しているのは、そこに教育的な効果があるとみなされているからだ。経済協力開発機構(OECD)がまとめた『社会情動的スキル—学びに向かう力』(明石書店、2018年)でも、部活動のような教育課程外の活動が、課程内の活動とともに多様な資質・能力を育成していると記述されている。
 その一方で、「自主性」の理念に反して皆が入るのが当たり前といった強制性があることや、「自主性」の理念のもとに活動が過剰になりやすい状況があることも多くの識者が指摘する(たとえば、中澤篤史『そろそろ、部活のこれからを話しませんか—未来のための部活講義』大月書店、2017年、内田良『ブラック部活動—子どもと先生の苦しみに向き合う』東洋館出版社、2017年)。そのような状況では、子どもや教員の過度な負担や事故・体罰などの問題が起きやすい。そもそも子どもたちが優先的に身につけるべきは教育課程内の活動で育まれる力であり、そこにマイナスの影響があってはならないだろう。部活動のやりすぎで、本来の学習に十分取り組めないようであれば本末転倒である。

部活動が生活に与える影響

 それでは、当の子どもたちにとって、部活動はどのような意味を持っているのだろうか。他の活動(たとえば学習活動)にプラスやマイナスの影響はあるのだろうか。部活動については、西島央ら(『部活動—その現状とこれからのあり方』学事出版、2006年)が精力的に調査研究を行っているが、それらも参考にして、最近の調査からわかることを示していこう。
 まず、部活動に参加することで、生活にどのような影響があるのかという点である。図表4は、小学5年生から高校3年生までを対象にした「放課後の生活時間調査」(2013年実施)から、24時間の生活の内訳を示した。
 これを見ると、たとえば中学1年生で「部活動」は1時間15分である。ただし、これは「部活動に参加していない人」や、「部活動には参加していても、調査当日に部活動がなかった人」も含めた全体平均であることに留意が必要だ。「当日部活動があった人」のみを抽出して平均(行為者平均)をとると、「中1生」1時間51分、「中2生」1時間50分、「中3生」2時間6分、「高1生」2時間45分、「高2生」2時間39分、「高3生」2時間55分となる。活動日には平均して、中学生で2時間弱、高校生で3時間弱の活動をしていることになる。
 それでも、図表4からは、子どもたちの生活に与えるインパクトを読み取ることができる。小学6年生から中学1年生にかけての変化に注目すると、「生活」「移動」「学校」といった活動の時間は大きく変わらない。しかし、「部活動」の時間が出現したことで、「睡眠」と「放課後の時間」(学習やメディアなどの自由に使える時間)が減少しているように見える。私自身も、中学生やその保護者を相手に話をするときに、「部活動」によって睡眠時間や学習時間が減ってしまう可能性があるので、時間をコントロールする力が重要になるといったことを伝えるときの根拠にしているデータである。
 ところが、睡眠や学習が減ってしまう主因が部活動にあるのかについては、別の観点からの検討も必要だ。図表5は、再び「子どもの生活と学びに関する親子調査2017」から中学2生、高校2年生について、部活動の参加や活動時間の長短により睡眠時間や学習時間がどう異なるかを確認したものである。学年を絞ったのは、中学3年生や高校3年生は部活動を引退してしまうため、部活動に「入っていない」生徒の学習時間が長くなるからである。
 この図表を見て驚くのは、「睡眠時間」や「学習時間」の長さは、部活動に加入しているかどうかや、活動時間が短いか長いかということとほとんど関連がない、ということである。わずかに、高校2年生の「長時間」活動者(週17.5時間を超える者)で学習時間が短い傾向が見られるが、それ以外では有意な差はない。これはどういうことだろうか。
 よく言われるのは、部活動をやっている子どもは時間の使い方がうまい、ということである。生活や学校(授業)などの基本的な時間の構造は、部活動をやっていようがいまいが変わらない。大きく変わるのは、自由な時間の使い方だ。ちなみに、部活動に「入っていない」生徒に多いのは、「テレビやテレビゲームで遊ぶ」「携帯電話やスマートフォンを使う」「パソコンやタブレットを使う」「音楽を聴く」「本を読む」「マンガや雑誌を読む」といった「メディア」に費やす時間である。高校生については、「アルバイト」の時間にも差が見られ、部活動に参加していない子の一定割合はアルバイトをしている。高1生と高2生に絞ってアルバイトの実施率(「定期的にしている」と「不定期にしている」の合計)を見ると、「文化部」11.6%、「運動部」7.5%、「入っていない」25.0%となる。
 これらを「部活動をやっている子どもは時間の使い方がうまい」と解釈することはできる。ダラダラと家でスマホをいじっている時間があったら部活動をやってほしい、と保護者だったら思うだろう。しかし、部活動をやっている子どもは(その時間が長いほど)、メディアを使って文化に触れたり、のんびりしたりする時間が十分にないという見方もできる。自由時間は限られ、その内訳はゼロサム関係(一方が増えればもう一方が減る関係)である。部活動が長くなり過ぎることで、多様な経験や生活のゆとりが失われる可能性にも配慮が必要だ。

学業や友人関係に与える影響

 次に学業に与える影響について、ズバリ「成績」に関するデータを見てみよう。図表6は、「学年における成績」(自己評価)を「上位」「中位」「下位」に分け、それが部活動の参加状況によりどう異なるのかを示したものである。ここからは、部活動に参加しているから成績が下がる、というわけではないことがわかる。むしろ、「入っていない」ほうが成績が低いようにも見える(ただし、統計的に有意ではない)。
 ちなみに、部活動参加者に限って活動時間の長さでも同様に確認したが、活動時間が長いほど成績が下がるといった関係もなかった。こうした結果は、参加の有無や活動時間の長さによって学習時間が変わらないことと整合している。学習時間が変わらなければ、成績差は出にくい。
 続けて、友人関係に関するデータである。図表7は、「学校内の友人数」を部活動参加の状況別に示した。ここからは、相対的に見て「運動部」の生徒に友人数が多いことがわかる。「文化部」と「入っていない」は、大きな違いがない。「学校外の友人数」(→図は「記事に関するデータ集」の図表8を参照)についても確認したところ、同様に「運動部」の生徒の友人数が多い傾向が見られた。「運動部」に参加している場合、友人関係が広がりやすい様子がうかがえる。外向的な子ほどスポーツをするという可能性もないではないが、競技を通じて学内の仲間関係が築かれ、対外試合などの交流を通じてその関係が学外にも広がるのだろう。
 また、図表は省略するが、「なりたいと思う人」がいるかどうかをたずねた質問では、部活動に参加している者(「運動部」「文化部」)は「入っていない」者に比べて、「いない」が少なく、「友だち」や「上の学年の人(先輩)」と答える比率が高い。身近なところに憧れや尊敬の対象ができやすいことも、部活動のメリットといえる。
 しかし、友人は単に多ければよい、というものでもない。その質はどうだろうか。それを確認するために、部活動の参加状況別に「友だち関係」(中学生)を示したのが図表9である(→高校生は「記事に関するデータ集」の図表10を参照)。友だち関係は男女で肯定率が異なる項目があり、「運動部」に男子、「文化部」に女子の傾向が反映されやすかったため、性別で示した。ここからは、男女を問わず「運動部」に肯定的な回答が多いことがわかる。統計的にも有意なのは、「友だちと一緒にいるのが楽しい」「興味や考え方が違う人とも仲良くする」「友だちが悪いことをしたときに注意する」「誰とでもすぐに友だちになれる」「勉強やスポーツでライバルの友だちがいる」などの項目である。これらの多くは、「運動部」>「文化部」>「入っていない」の順で肯定率が高い。反対に、「友だちとの関係に疲れる」は、「運動部」がもっとも低い。友だち関係の質的な側面についても、部活動に参加している生徒の方が肯定的な評価をしている。

社会情動的スキルに与える影響

 部活動に入っていることがどのような影響を持っているかについて、最後に「社会情動的スキル」に与える影響を確かめよう。「社会情動的スキル」とは、「非認知スキル」などとも呼ばれるが、目標の達成、他者との協働、感情のコントロールなどに関する資質・能力で、個人の成功や社会進歩を促進するうえで重要とされている(経済協力開発機構[OECD]編著『社会情動的スキル—学びに向かう力』明石書店、2018年)。ここでは、関連するスキルについて「得意かどうか」をたずねた項目に対する自己評価の数値を示す(図表11)。
 これを見ると、「自分で決めて行動する」「自分の考えをみんなの前で発表する」「リーダーとしてグループをひっぱる」「グループがまとまるように協力する」といった項目で、「運動部」に「得意」と回答する者が多いことがわかる。また、「相手と自分の意見の違いを考えながら人の話を聞く」「人の意見を聞いて自分の考えに取り入れる」などは、「文化部」も肯定率が高い。全体に、部活動参加者は、他者に対する主張、他者との調和・合意・協働などについて高く評価する傾向がある。あくまで自己評価ではあるが、部活動の効果の一側面を表していると言えるかもしれない。

子どもにとっての部活動の意義

 今まで複数のデータを紹介してきたが、部活動をしているから、また、その時間が長いからといって、学習面で大きな支障があるようには見えない。むしろ、多くの生徒が限られた時間をやりくりしながら、一定の学習時間を維持している。睡眠時間については、そもそも全体平均が中学生で7時間強、高校生で6時間半という数値をどうとらえるか(短いのではないか)という問題があるが、これも部活動の参加の状況によって差があるということはなかった。さらには、部活動に参加している者(とくに「運動部」)は、学内外の友人数が多く、友人関係も比較的良好である。社会情動的スキルについても同様に、運動部に参加する生徒の自己評価が高かった。部活動は、同じ目標をもつ仲間とともにさまざまな挑戦をし、切磋琢磨する機会である。こうしたデータは、子どもたちにとって部活動が貴重な成長の機会になっていることを裏づける。
 ただし、今まで確認してきたのは、あくまでも部活動の平均的な姿である。前回(その1)紹介したように、部活動を「楽しくない」と感じている生徒も1割程度いて、その子どもたちが苦しんでいる可能性を忘れてはならない。部活動は、自主的な活動とはいえ、一度参加するとなかなかやめることはできない。学校によっては、強制的な側面が強い場合もある。たとえば、「学校に行きたくないことがある」比率は、部活動が「楽しい」と感じている生徒は35.0%であるのに対して、「楽しくない」と感じている生徒53.1%(図表は省略)。部活動は子どもにとって大きな存在であるがゆえに、そこに楽しみを見いだせないと学校生活全体にマイナスの影響を与える懸念がある。
 ここまで、生徒にとっての部活動を考えてきた。では、教員にとって部活動はどのような存在なのか。次回(その3)は、教員の視点から見た部活動を検討しよう。