2017/05/31

[特別編:4] 公立高校の教師が語る、生徒の実態や課題を踏まえた授業改革(座談会2 後編) [1/5]

 前編での座談会に参加した東京都立日野台高校、埼玉県立熊谷高校、茨城県立江戸崎総合高校の先生方は、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れながら指導や評価のあり方を見つめ直している。3校が実践している教師個人による授業改善、及び学校全体の組織的な取り組みについて紹介する。
参加者:(アイウエオ順)
石塚武志先生 茨城県立江戸崎総合高校 教諭(国語科)・生徒指導部主任
片岡 達郎先生 茨城県立江戸崎総合高校 教頭
佐々木宏先生 東京都立日野台高校 指導教諭(国語科)
松下奈緒子先生 埼玉県立熊谷高校 教諭(国語科)
山田翔一郎先生 埼玉県立熊谷高校 教諭(英語科)

1. 国語における実践

外部との連携により多様な価値観を持つ人と課題解決をする力を育む

東京都立日野台高校
国語科 佐々木 宏先生の実践

演劇アーティストとの協働で、生徒が教材のワンシーンを演じる

 東京都立日野台高校の佐々木宏先生は、2013年度から文部科学省のコミュニケーション教育推進事業の措置を受け、担当する国語の授業で、演劇アーティストとの協働で開発したプログラムを取り入れている。この授業の目的は多様な価値観を持つ人と協働しながら合意形成や課題解決をする能力を育むことだ。
丸山真男が生きた時代から、どんな人物だったかをイメージしていく
 生徒はグループごとにエピソードを選択し、俳優と話し合いながらシーンをつくり上げ、約2分間の演劇を発表する。毎回のワークの最後に振り返りを行い、その時点での気持ちを言語化して見えるようにすることも大切にしている。教材は、これまでに丸山真男の評論文や森鴎外の『舞姫』などを扱ってきた。
 ワークの中では、偶然の出来事がクリエイティブな発想につながることが多いという。例えば、生徒が発表している最中に、突然、俳優が入ってきて、生徒が即興で対応するといった力も求められる。
 また、教師や保護者とも違う大人である俳優から、褒められたり認められたりすることも、生徒にとっては新鮮な刺激となる。それが、自身の成長や友人を見直すきっかけにつながることも多い。佐々木先生は次のように述べる。
森鷗外『舞姫』の演劇ワークショップ。小説中の一場面を想像・創造・捏造して演じる。
 「外部の大人と一緒に学びながら、ジェネリック・スキルを育てることを目指しています。生徒からのフィードバックでは、普段の授業や生活からは見えにくい、友だちの長所に気づいたといった声をよく聞きます」
 佐々木先生は、日ごろは自分からリスクを取ろうとせず、思い切った行動をしたがらない生徒の姿に課題を感じているが、このワークでは「まずはやってみることで生み出されることがある」と、生徒が実感している様子が見て取れるという。さらに、演じることを通し、思考と身体と感情はつながっているといったことに気づく生徒もいる。

生徒が教師役として授業を担当することで、学びを深める

 前述の演劇アーティストとの協働するプログラムとは別の取り組みで、佐々木先生は、現代文の小説の単元では、生徒が教師役となる授業も行っている。小説のパートごとに担当するチームを決め、準備を行う。授業では、教師役となる担当チームが目標とタイムテーブルを示し、朗読とKP法(紙芝居プレゼンテーション)を利用してあらすじを説明する。その後、担当チームが考えてきた問題について、他チームがグループワークで考え、担当チームが解答を板書してクラス全体で討議をする。そして、授業の最後には先生の作成したプリントをもとに生徒同士での相互評価・自己評価を行う。
 担当チームの生徒は、協力しながらグループワークを含む授業全体のファシリテーションを行う。うまくいくチームもあればそうでないチームもあり、クラスによってクオリティの差も出ると言う。
1年生「現代文」で生徒が授業をする『羅生門』。
 「教科書の定番となっている教材は、それ自体が大きな力を持っています。教師が教えるのではなく、生徒たちが直接、教材を扱うことで、作品の力にじかに触れてほしいと考えました。生徒が考える課題設定などでは、私には思いつかない発想を見せてくれることもあります」
 生徒が教師役となることで、教室は生徒主体の学びの場となる。生徒同士の学び合いを通して、多様な読解を共有したり、互いの考えを批評・判断し合ったりする中で、学びは深まっていくと、佐々木先生は感じている。