2016/10/18
[第4回] 社会人は、自らの大学教育の経験を通した成長をどのように認識しているのか —若年層の「ゼミ・研究室活動」経験の自由記述回答から見えてきたこと [4/6]
Ⅳ.「ゼミ・研究室活動」の経験・活動の自由記述内容から見えてきたこと
4-1)学びの印象・機会と自由記述結果との関係性
前節で抽出した、若年層「ゼミ・研究室活動」の各種経験・活動における成長経験の自由記述の各類型・内容要素(表2)と、本調査であらかじめ想定した、大学での「学びの印象」と「学びの機会」の設問項目との対比関係を整理したのが、表4である。回答者が多かった設問項目には網掛けをしてあり、成長経験の自由記述回答の回答順位が高い類型順位にも網掛けをしてある。
表4:大学での学びの印象と機会の設問項目と若年層「ゼミ・研究室活動」成長経験要素との関係性
これらを並べて比べてみると、学びの印象や学びの機会の設問項目の多くと自由記述の内容の多くは重なっている(一部の内容のみが対応しているものも含む)が、両者の割合や順位の高いものが必ずしも一致しているわけではないことが分かる。
4-2)学びの印象・機会と共通で抽出できた成長経験内容—5つの学び経験・環境
自由記述から見えてきた、成長経験との結びつきの強い経験内容・類型と、本調査の設計当初から想定していた経験・活動(=大学での「学びの印象」「学びの機会」の各設問項目)との重なりあいについて、より詳しく見るために、学びの印象・機会の項目との重なりあいが見られ、回答順位が高かった自由記述内容類型(表4桃色網掛け部分)について、両者に共通で抽出できる、成長に結びつきやすい学びの経験を改めて整理・抽出してみたところ、以下の表5の(ア)~(ク)の通り、8つの小項目が拾い出せた。
表5:若年層成長経験自由記述事例で重視された、学びの印象や機会と共通で抽出できる内容要素
この8つの小項目のうち、(ア)「実社会との接点を感じ取る経験」・(イ)「実習や体験活動など、学んだ知識を実際に活かす経験」などは、(あ)実社会や実経験の実感とそれらを通した学びであると括ることができる。また、(ウ)「研究テーマの選択時の自主性尊重」は(い)自主性を尊重される環境、(エ)「自分の考えの徹底的深化」や(オ)「相当の努力により課題等をやり遂げる厳しい経験」などは、思考や課題追及を徹底的に深め努力してやり遂げる(う)負荷のかかる学修・思考経験と言い換えられる。そして、(カ)「学生の協働学習経験」や(キ)「学修への相談・支援者の存在」は(え)学びの共同体や支援者の存在、さらに(ク)「各種のテーマや専門分野の知識および思考や分析の方法を深く学習・研究」は(お)深い知識や研究スキルの学修経験としてまとめ直せる。このように、学びの印象・機会項目の中で成長実感が高かった内容は、最終的に5つの中項目に集約・再整理することができた。
4-3)今回新たに抽出できた成長経験内容—8つの学び経験
一方で、今回の分析から、成長に関わる学び経験要素を、新たに抽出することもできる。自由記述回答から新たに見出せる、成長を実感した経験や活動として記憶に残っている内容要素を、以下の表6にまとめてみた。
中には、大学での学びの「印象」や「機会」の設問項目と近いものもあるが、その中でも、設問項目に挙げられていない、とくに着目すべき特定の経験や活動・作業等に光を当てて抽出したものである。
表6:若年層の成長経験自由記述事例から新たに抽出できる内容要素
(大学での「学びの印象」や「学びの機会」の設問項目にあるもの以外の要素)
(大学での「学びの印象」や「学びの機会」の設問項目にあるもの以外の要素)
表6にある通り、(a)継続的学修経験、(b)学習の統合作業、(c)自発的チャレンジと達成感、(d)自主自律の学修・行動経験、(e)(学内外の)多様な他者との交流経験、(f)口頭発表機会、(g)責任行動・経験、(h)幅広い知識・視点等の獲得、などが新たに抽出できた。 ところで、上記表5の(ア)~(ク)8要素のうちの(ア)~(カ)の6項目、および今回新たに抽出できた表6の(a)~(h)8要素のうちの(a)~(g)7項目は、能動的・主体的学習経験・活動である。逆に言えば、アクティブ・ラーニングの経験のなかで、大卒社会人の記憶に残った成長経験は、これらの点であったと言えるだろう。